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早春物語  作者: 綿花音和
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青天の霹靂

 森君にガッツポーズを見られた恥ずかしさで、顔がみるみる赤くなる私。

「鈴木、林檎みたいじゃん」

「こら森! 美夏をからかわないで。あんたと違って繊細なのよ」

 加奈子がすぐかばってくれる。

「また塚本の過保護が始まった」

 呆れたように森君が言う。

「鈴木、お前はっきりいって塚本に頼りすぎだ! それとさっきのはからかったんじゃねぇ」

 森君は一呼吸おき、

「林檎みたいで、可愛いいって思ったんだよ」

 と爆弾発言をして、俯きがちに教室へ向かって走り去っていった。

「へっ!」

 私は開いた口が塞がらず、呆然としていた。

「森君、何って言った?」

 加奈子に思わず尋ねてしまう。

「美夏が可愛いいって言ってたよ」

 少し遠い目をして加奈子は答える。

「森君、どうしたんだろう?」

 私はまだ胸の動悸を感じながら、呟いていた。


「森に限ったことじゃなく美夏はもてるんだよ。そろそろ自覚しないとね」

 彼女は冷静に言う。

「そんな馬鹿な」

 私は狼狽していた。加奈子が私に嘘を吐くことはない。ということはこれは現実なのだ。

「我々のクラスのセンターポジションは美夏、君なのだよ」

 低い声で茶化すように加奈子は言う。

 私が悩まないよう気遣ってくれる加奈子の優しさが嬉しい。それと同時に、森君の指摘は的確だと感じる。

 親友にひっぱってもらってばかりの私は、このまま甘え続けていいのかと自問自答していた。

 私の何かが変わろうとしている。


 教室に戻ると、森君が近寄って来て

「さっきのは、冗談じゃないからな。それから模試の結果、やっと努力が実って良かった」

 と淡々と伝えて自分の席に戻っていった。森君が私のことを、認めてくれていたことは素直に嬉しかった。でもそれ以上に戸惑いが大きかった。

 私にとって今日のことは青天の霹靂だった。


 いつもの、通学路。こんな気持ちで通ることがあっただろうか? 加奈子以外に親友と呼べる友人はいなかった。だからといって、クラスメートに嫌われたり意地悪をされたことはなかった。自分なりに学校生活をうまくやっていると感じていた。

 でも振り返ってみれば、利発で勝気な加奈子に助けられていることが多い。むしろ彼女が、私を大切に扱うので、他のクラスメートも遠慮しているのではないか。それは本当に私の居場所なのかな? 森君の一言がきっかけで心は乱れた。


 今日は曇り空、いっそ雨が降ればいいのに、そうすればこの涙も隠せるのに。不安を打ち消すように私は家路を急いだ。






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