交差
どうして、森君が私の前に立っているのだろう。加奈子はどうしたの? 聞きたいことがたくさんあった。
でも、声も出なかった。彼だけが来たということは加奈子の恋は、破れた可能性が高い。別れる時に魅力的にウィンクしてくれた姿が浮かぶ。
「鈴木、話がある」
黙り込んでいる私に近付いて、向かいに座りながら森君が硬い声で言った。私は答えたくなくて、とけ出しているスペシャルパフェを自分の前に寄せて猛然と食べだした。
「食べながらでもいい、聞いてくれ」
半年前の私なら後先考えず逃げ出していたかもしれないが、恋を知ったからこそ彼の真剣さは無視できなった。
「鈴木、ありがとう。きっかけをくれて。俺、塚本とお互いに思っていることをきちんと話せたよ。塚本と俺は似ているんだ。昔から馬が合うんだよな。間違いなく俺にとって大事な同志だよ。今日、初めて彼女から恋愛感情があるって告白されたよ。俺は塚本の気持ちが良く分かった。でもその気持ちに応えることはできなかったんだ。だからはっきり返事をしたよ。好きな奴がいるって。やっぱりあいついい女だよ。笑って『ありがとう』って答えて早く好きな奴とやらの所に行きなさいって、俺の背中を押してくれたんだ」
私はパフェを食べながら嗚咽していた。加奈子の馬鹿。どうして自分より人の恋の背中押しているのよ。本当に優しいのは加奈子で、私なんかじゃない。
「鈴木美夏。俺はお前が好きだ」
森君ははっきりそう告げた。鈍い私でも卒業が近付けば近付く程、彼が優しさを持って私に接してくれていたのは気付いていた。芳原先生の弟さんに会うときも忙しいはずなのに待っていて忠告してくれたり、私が加奈子に依存していることを指摘してくれたり。厳しい人だけど心の温かい男子だ。私は返事をしなければならない。そして、それは彼を傷つける。
「森君、私は別に好きな人がいます。その人以上に好きになれる人はいません」
感情を抑え答えた。
「芳原の兄貴の家庭教師か。予想通りか。それもいいさ、今はな」
ちょっとシニカルな笑みを浮かべながら陽君は受け止めてくれた。
「絶対俺はいい男になるぞ。鈴木が前言撤回するような。俺は塚本みたいに、他人の恋を応援出来るような心の広い人間ではない。だから絶対あきらめない」
射抜くような視線を向ける。それは芳原先生と変わらない大人の男性のものだった。なぜかどきどきして、さらに残りのパフェをかきこむ。
パフェを食べ終わって、お勘定をしてサンタモニカを森君と出る。少し意識して彼の横顔を見た。端正で賢そうな顔の男性がいた。いくつもの想いはそれぞれ入り組んで複雑に交差していた。




