それぞれの気持ちⅠ
クラスメートはざわつきながらも自分の席に戻り、厳しいながらも今まで厚い愛情で指導してくれた担任が話し始めるのを待っていた。
「みなさん、卒業おめでとう。三年間良く頑張った。特にこの一年は志望校合格という目標に向かってゆく中で皆苦しいときもあったと思う。我々教師が、厳しい言葉をかけることもあっただろう。特に担任の私は君らに課題もたくさん出したし、優しい顔をみせることはほとんどなかったかもしれない。それでも、一時憎まれたとしても教え子の希望を叶える手助けになればと心を鬼にして指導してきたつもりだ。嫌われることも覚悟していた。だが、君らは私に最後まで節度を持った態度でついてきてくれた。君たちを誇りに思っている。努力しても、結果が出ないことはこれからもあるかもしれない。だが、すぐに結果が出なくても失敗しても努力をしたことは力になる。叶わなくても後ろに進むことはないんだ。それだけは忘れないでほしい。何が正解で間違いだったかなんて、人生が終わるそのときまでわからないんだと思う。可愛い生徒の人生が豊かで愛情あふれたものになることを心から祈っているよ」
光岡先生の低く温かみのある声が震えていた。先生からの挨拶は終わったようだ。その時森君が号令をかけた。クラスメート全員で起立した。
「先生ありがとうございました」
感謝の気持ちを大きな声ではっきりと伝えた。
「いつでも遊びに来なさい。卒業生解散」
光岡先生は朗らかに言った。そして先生は照れくさいのかそそくさと教室から出て行った。
「森君、答辞良かったよ。私達感動しちゃった」
森君は黒山の女子たちに囲まれている。確かに答辞素敵だったな。
「加奈子、森君格好良かったね」
「そうだの。美夏、森に直接言ってごらん」
彼女は悪戯っ子の様にウィンクした。笑って返事が出来ると思ったんだけれど、私は複雑な何とも言えない気持ちに支配されていた。加奈子をじっと見つめた。気持ちを探るためだ。思えば三年間いつも支えてくれた親友。彼女がいなかったら中学生活は味気ないものだっただろう。加奈子の瞳は潤んでいた。私は彼女の手を引いて森君に渾身の大声で言った。
「森君、外で加奈子と待ってる。必ず来て!」
森君はびっくりしたようだったけど、はっきり頷いてくれた。
「美夏?」
「加奈子、いいから行くよ」
私と加奈子は階段を駆け下りて、息を切らしながら桜の木の下迄やってきた。
「美夏、ありがとう」
息を整えながら彼女が言う。
「加奈子、そろそろ白状しなさい。あなた好きな人がいるね」
「うん、いるね。というか美夏、最後の最後に捨て身で来たね」
「わたしは駆け引き出来ないから、でもあなたに噓をついて欲しくない」
「そういう芯の強いところ敵わないな。でも好きだよ。あなたの自分の気持ちに真っ直ぐなところ、駆け引きを覚えた私にはないものだから」
「私は狡いよ、強くもないよ。加奈子がいてくれると自然に素直になれるだけだよ」
「おまえら百合だったのか」
気が付くと森君が腕を組み思案顔で背後に立っていた。




