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早春物語  作者: 綿花音和
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卒業式Ⅱ

 体育館の中はG線上のアリアが流れて厳かな雰囲気だ。他のバロック音楽も流れていたが、私はこのシンプルで優しい曲が一番好きだった。一、二年生のときは、卒業式に出席はしても三年生は立派で遠い存在で、自分が送られる立場になる日を想像できなかった。この三年間で私は成長できたのだろうか。あの日の先輩たちも不安だったのかな、そんなことを考えていた。

「美夏、何考えてるの? 綺麗な顔に憂いを浮かべて」

「もう加奈子は、また私をからかって。たいしたことじゃなの。今日がゴールじゃないんだなって、ちょっと思ってね。受験が終わって卒業式を迎えたら何かが変わるのかなって思ってたけど、簡単に変わらないんだって。意外に感じてたの」

「私たち何かの節目や行事で劇的に変われるわけではなくて、少しずつ変化していく途中なんじゃないかな」

 加奈子はやはり私より成熟している。

「確かに、毎日私も落ち込んだり何かしら乗り越えて、それを繰り返して迷いながら進んでる」

「本当にそうだね。美夏も人の心の機微がずいぶんわかるようになったの」

 加奈子はくすっとした。私は膝かっくんをして反撃した。


「卒業生入場!」

 教頭先生の声がして、それを合図に吹奏楽部が「威風堂々」を演奏する。「開式の辞」が宣言される。

 卒業証書授与。クラスの代表者が壇上に上がっていく。私のクラスは加奈子が代表者だ。

「塚本加奈子殿、あなたは中学校の課程を修了したのでこれを証します」

 校長先生が読み上げる。加奈子が綺麗にお辞儀して証書を受け取って壇上から降りて戻ってくる。クラスのみんなが明るい表情でおかえりと言っていた。校長先生や教育長さんの有難い挨拶が終わり、いよいよ森君の答辞だ。

「答辞、卒業生代表森陽」

「はい」

 教頭先生が呼ぶと彼はとはっきり返事をして壇上にあがった。


「桜の蕾も膨らみ始め、もう春はすぐそこです。今日私たちは第一中学校を卒業します。先生方、在校生の皆さま、私たちのためにこのような素晴らしい式典を催していただき、ありがとうございました。来賓の皆さま、保護者の皆さま、ご多忙の中足をお運びいただきましたこと、厚くお礼申し上げます。皆さまの温かいお言葉胸に刻まれました。


 思えば、三年前の春入学した頃の僕は井の中の蛙だったかもしれません。それは良くも悪くも自分しか見えていなかったということです。二校の小学校の生徒が混ざり合い第一中学校になって様々な出会いがありました。その中で自分だけでなく他者とのかかわりが大事になっていくという成長がありました。


 初めて挑戦した管楽器。不出来な後輩に、粘り強く吹奏楽部で熱心に指導してくれた先輩方をとても大人に近い存在に感じていました。卒業式の今日、自分は先輩方に近付くことが出来ているのか不安になります。不安に気付けるようになったことこそ成長かもしれません。自分に力がないことをしって、初めてひたむきな努力をすることが出来ると思うのです。

 また良きクラスメートにも恵まれ、立場の違いや意見の違い個性を認めることの大切さと難しさを学びました。今まで知らなかった感情も生まれました。それは僕にとって宝物です。

 生徒会では、後輩が仕事を支えてくれました。意地っぱりな僕についてきてくれてありがとう。

 そして、僕たちが目標に向かって成長できたのは先生方や両親の励ましがあったからです。前に進めたのは後輩の皆さんが信じてついて来てくれたからからです。本当にありがとうございました。私たちは今日で学校から巣立ちますが、第一中学校の伝統は後輩たちに受け継がれ、ますます発展していくことと信じています。

 最後に私たちは自分で選んだ新たな道をしっかりと踏みしめ、倒れても起き上がって進んでいきます。そして、本日ご列席いただきました全ての方が、これからも健康でますます輝かれることをお祈りいたします。


 卒業生代表 森陽


 在校生、卒業生から大きな拍手が起った。加奈子を見ると目が潤んでいた。私も涙がこぼれそうだった。

 閉会の辞も終わり、卒業生退場の時間だ。吹奏楽部が「いい日旅立ち」を演奏している。光岡先生の引率で教室に向かう。卒業式も終わってしまった。私は胸のリボンを整え背筋を伸ばした。














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