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早春物語  作者: 綿花音和
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卒業式Ⅰ

 三年間、毎日通った通学路も中学生として通うのは最後だと思うと、なんだか鼻がツンとする。裸になった銀杏並木は少し暖かそうだ。

 季節は早春。あの角を曲がれば、加奈子と合流出来るはず。

「おはよう、美夏」

 いつもの明るい笑みを浮かべた彼女と挨拶をかわす。

「おはよう、加奈子」

 私たちは自然にお互いの手をとり繋いでいた。


 二人とも今日が特別な日だとわかっているから、歩く速度がゆっくりになる。あんなに中学生なんて子供扱いされて嫌だと思っていたのに、二度と帰れない時に変わっていくのは胸が切ない。卒業式が待っている。

「おはよう、鈴木、塚本。相変わらず仲がいいな」

 森君が現れた。どうやら校門よりずいぶん手前でまちぶせしていたらしい。

「森は、こんな所で油売っていていいの? 答辞を読むんでしょう」

 加奈子がそっけない風に言った。森君は生徒会長でもあり、成績もおそらく首席だ。誰も文句はないだろう。

「塚本はご機嫌斜めか?」

 森君が尋ねてきた。

「せっかく二人で歩いていたのに水を差された気分」

 加奈子はほっぺたを膨らませる。彼女の手は汗をかいていた、その手を私は握り返す。加奈子に私に森君、高校でも一緒がいい。漠然とそんなことを思っていた。


 三年生の教室は三階にあって、階段を上がるのも煩わしいと思っていたな。教室に入ると、クラスのみんなはもう大体揃っていて、

「加奈子、鈴木さんおはよう」

 挨拶を交わす。それぞれ進学先が違う、道はいったん分かれる。

 感傷的な気分になった。優しいクラスだった気がする。苦手な教科は教えあったり、言うべきことはきちんとぶつけ合うのに、大人しい私にも居場所をくれた。振り返ると、真面目さが自分を守ってくれていたのだと思うが、妬み嫉みとも無縁のクラスだった。きっと、加奈子と森君がしっかりクラスの舵取りをしていたからだろうと感じている。二人はいいコンビだった。

 卒業式の引率は光岡先生だ。先生が担任で良かった。くせ者の森君が尊敬するなんて光岡先生じゃなきゃありえない。いつだって私たち生徒一人一人をしっかりみつめて接してくれた。私立の入試で不合格者が出なかったのも、うちのクラスだけだった。

 体育館に入ると下級生が拍手で卒業生を迎えてくれた。森君の後輩の吹奏楽部員もスタンバイしている。この日を私は忘れない。



  

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