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早春物語  作者: 綿花音和
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卒業式前夜

「お母さん、ミーちゃんただいま」

 息を切らせて言った。気持ちが落ち着かなくて走って帰ってきた。

「美夏、本当にお疲れさま。やっと一区切りね」

 母が心底ほっとした顔をする。そして嬉しそうに、

「夕飯はあなたの好物を腕によりをかけて作ったからね」

 言ってくれた。ミーちゃんは私の足の間に身体を擦り付けてくる。

「お疲れさま」

 とミーちゃんも言ってくれているのかもしれない。

「ありがとう、お母さん。ミーちゃんも」

 それからコートとマフラーを母に預け、リビングに行ってテレビを点ける。

「解答速報が始まる。答え合わせするね」

 私が緊張していると、母はミルクティーを持ってきてくれた。口に含む。いつもの味に体も心もほぐれた。

 答え合わせの結果は予想より出来が良かった。数学が平均点であれば厳しかっただろうが、驚くことに数学は九割の正解だった。まだ最終結果ではなかったが、芳原先生に感謝した。落ち着いてミルクティーを飲みながら、私の好きな味がわかっている母にもありがたい思いでいっぱいだった。

 母はいつもしっかり私を支えてくれた。父はまだ残業で帰ってこないけれど、私が落ち込まないように太陽のような暖かさで見守ってくれた。恵まれた環境だったからこそ成績を伸ばせたんだ。

 母は自己採点の結果も聞かず、私の好物のカレイの魚卵付き煮付けを主菜にポテトサラダ、アップルパイを焼いて出してくれていた。

「お母さん、ありがとう。手間がかかったでしょ?」

「今日は美夏の慰労会よ」

 と笑った。いつもにまして食事がおいしい。ミーちゃんの餌も今夜は豪勢で彼女も勢いよく食べていた。

 

 自分の部屋に戻って、芳原先生にどきどきしながらメールを送った。数学の試験が予想以上に良く出来たこと。先生のおかげですと、ストレートに伝えた。すると直ぐに返信がきた。

「良かった。今日、僕は美夏さんの試験が気になって上の空でした。でも途中からはあなたが頑張っているのに自分が情けないと、気持ちを切り替えました。僕の力なんて微々たるものだよ。全部あなたの努力の結果です」

 こそばゆい返事だった。明日は卒業式ですと伝え、おやすみなさいと送信した。

「おやすみ、美夏さん。明日が素敵な卒業式になりますように」

 先生から優しい言葉が届いた。おやすみなさい、大好きな先生。そう心の中で呟き眠りについた。







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