冬の夜空
「お疲れさま、森」
きわめて自然で、それが逆に不自然な挨拶だった。
「塚本、鈴木もご苦労」
「うん、一つ山を越えたね」
二人は何か企んでいる気がする。
「試験の出来はどうだった? 森」
加奈子が手際よく、店員さんに三人分パフェを頼みながら尋ねる。
「ま、通過点だ。俺の夢を叶えるためのな」
「ようするにぬかりなしか。まことにあっぱれ」
彼女のあっぱれが出た。これはかなり上機嫌だ。三人とも何だかんだでストレスにさらされていたらしい。解放感を味わう。
「ところで森君の夢って何? 聞いてもいい」
「答えるには条件がある。鈴木、俺の質問にも答えてくれるか?」
あっ、これは自分で罠にかかってしまったかもしれない。逃げ出したくなる衝動に駆られたが、いつしか彼に対して熱い友情が芽生えていたので夢を知りたかった。なにより自分と向き合うことが出来たのは、二人のお陰だととても感謝していたのだ。
「答えるよ」
私は覚悟を決めた。
「そうか」
森君は意外な様子で言った。
「森今が攻め時よ!」
加奈子がけしかける。お主はいつから森君側の軍師になったんだ、とハリセンがあれば取り出していたところだ。
「俺から話すよ。俺の夢は高校で管弦楽部に入って全国大会に出ることなんだ」
「森君、部活頑張っていたもんね。しかも、全国大会か。凄いよ」
私は思わず立ち上がっていた。具体的に自分の目標がはっきり決まっているなんて尊敬してしまう。
「たった今、鈴木が俺のことを称えたよな。塚本」
大きくガッツポーズしている森君がいた。
「少し格好良かったのに残念な奴」
加奈子はそう呟いて優しい笑みをうかべていた。親友は森君のことが好きなのかもしれない。この時なんとなく感じた。
「私も質問に答えるよ」
「鈴木、誰か好きな奴がいるんじゃないか?」
森君が真剣な声色で切り出した。
「美夏は恋をしているね。我々の学校の生徒ではないね。ズバリ、君の恋は苦しい恋ではないのかね」
加奈子も訊ねてきた。この二人に隠し事は出来ない。いつも私を気遣ってくれている。
正直に私の切ないけれど温かい恋の話をした。
サンタモニカを出て三人の陰が地面に長く映る。
「家庭教師が相手だったとは。さすが美夏。難攻不落ね」
ちょっと大人ぶって加奈子が意見する。
「嫌な予感がしたんだよな。家庭教師がいるって聞いたときから」
森君がため息をついた。
「私の片思い。実るとは思っていないよ」
「気持ち伝えるんだろ。応援してるから後悔するな」
「素直な美夏、魅力的。自信持って」
親友二人から言葉のお守りをもらって、それぞれの思いに心を寄せ合い真冬の夜空を見上げた帰り道。空気は澄んで冷たかったけれど、心はほかほかだった。




