御守り
「僕はたしかに中学生のあなたから見れば、器用な大人に見えるかもしれない。けれど実際には、美夏さんが思っている以上に不器用な奴なんだ」
「私はそれでも、芳原先生を好ましく思っています」
思わず口をついてそんな言葉が漏れた。芳原先生の中学時代の話に共感している自分がいた。悩んでいたのは私だけでなく、中学生の先生も同じだったことに救われた。そして大切なのは昔ではなく今なんだから、先生に弱気になって欲しくなかった。
「美夏さん」
先生が私の顔を覗き込んできた。近づいた先生の顔はこれまで感じたことのない精悍さを湛えていた。
身体を硬くした私にすぐ芳原先生は気付いたようだ。
「さぁ、美夏姫。プレゼントですよ。目をつぶって、手を出してください」
先生は空気を変えるようにわざともったいぶった。私は暗闇のなか慎重に手を出した。
「先生……」
戸惑っていると、何かが手のひらの上にのった。
「さあ、目を開けていいよ」
目をこわごわ開けば『合格祈願』のお守りがあった。先生らしい。
「ありがとうございます」
また涙が出そうだったけれど清々しい気持ちで、伝えられた。
「次回は私立高校の入試後に訪問します。今までの努力を信じて力を抜いて。僕もお守りもついてるから、頑張って」
「はい、先生。でも、力を抜いて頑張るって難しいよ」
「美夏さんなら出来るから」
笑顔で言われてしまった。先生を見送るため、階下に一緒に降りた。みーちゃんもどこからか降りてきて合流した。玄関先で私は、
「先生ありがとう、とにかく頑張ります」
と宣言した。
「あなたならできます」
先生はそう言うと片手をひらひらさせ帰っていた。
「お母さん、今日は親睦会ありがとう。楽しかった」
「良かったわ」
「私好きな人が出来たみたい。志望校に合格したら勇気を出して告白するよ」
「本当に? お母さんその話を詳しく聞きたいわ。娘の恋の話、聞き逃せないわ」
「絶対秘密!」
そう言うと、私は二階に駆け上がった。




