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早春物語  作者: 綿花音和
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昔と今

「お母さん、どうしてわざわざ親睦会を開いたの?」

 先生の目も気にせず私は訊いた。

「いつも授業を通じてしか芳原君と美夏は交流が出来ないでしょう? 二人が仲良くなる機会を用意したかったのよ。余計なお世話だったかしら」

 母はそれだけのために料理を準備して、デザートまで用意してくれんだ。彼女の行動力には驚かされる。


 先生に目をやると美味しそうにほうれん草のグラタンを食べていた。嬉しそうで、私は面白くなかった。母と先生のあいだにある親密な雰囲気を感じ落ち込んだ。反面、せっかく母が作ってくれた機会だ。これを利用して彼ともっと仲良くなりたくもあった。

「美夏さんの夢って何?」

 芳原先生が突然訊いてきた。授業では全く出ない話題にうろたえる。

「具体的には決まってなかったんです。でも最近、ぼんやりとですが教職に就きたいと思っています」

「初耳だわ。芳原君の影響かしら」

 母はびっくりしたようだ。

「美夏さんは、物事を深く考えて理解していくから教職は向いているかもしれないね。僕は不器用だから準備に時間がかかってしまうんだけどね」

 先生はそう言うと苦笑した。やっぱり先生の笑顔が好きだ。どうしようもないくらい先生を意識していることに、あらためて気付く。

 

 母は私の様子から何かを感じて芳原先生を呼んだのかもしれない。

「先生はどうして理学部の地学科を選ばれたんですか?」

 彼をもっと知りたくて質問する。

「星空が好きだからだよ。子供の時分、星の光にとても励まされたんだ。そこから天文学に興味を持ったんだよ」

 ミステリアスな理由に、私はますます先生のことが気になった。

「どんな中学生だったんですか?」

 私は珍しく積極的に訊ねていた。

「美夏、箸が止まっているわ。冷める前にパイを食べ終えてね」

 母から注意されてしまった。おしゃべりに夢中になっていたようだ。

 

 パイはサクサクで、林檎の砂糖漬けもさっぱりした甘さでとても美味しかった。先生も紅茶を飲みながらゆっくり味わってアップルパイを食べている。

「僕の学生時代なんて、美夏さんに比べたら面白いことなんて一つもないよ」

 と淋しげに先生が答えた。陰のある表情に私の心も揺れ、母を見てしまったが、微笑を浮かべて私と先生を眺めている。

「お母さんは芳原先生の中学生時代を知っているんだよね」

 平然を装い聞いた。

「それはね」

 彼女が懐かしげに一言で答える。

 本格的に心を先生に奪われてしまったようだ。母が私より先に彼と出会っているのが面白くない。それに妬ましかった。嫉妬なんて感情、知りたくなかった。

 母に対する感謝とやきもちで複雑な気持ちだった。

「お母さん、今日は親睦会開いてくれてありがとう! ちょっと熱っぽいから部屋に戻るね」

「美夏さん大丈夫かい?」

 心配そうに先生が私を見ている。

「ちょっと休めばきっと大丈夫です。ゆくっりしていってくださいね」

 私は二階の部屋に駆け上がると内鍵をかけた。





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