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早春物語  作者: 綿花音和
12/31

兄弟

「初めまして、鈴木美夏と申します」

 喫茶店で椅子に躓きそうになりながらも、背筋を出来るだけ伸ばし挨拶をする。

「こちらこそ、初めまして。芳原兼人です。呼び出したのは僕なんだから、そんなに固くならないで下さい」

 兼人さんの声は心地いい。彼の第一印象は、先生には似ていないと思った。そんな私の思いを見透かしたのか兼人さんが切り出す。

「直人兄さんと、僕は似ていないでしょ」

 先生は優し気で温厚だった。それに比べて兼人さんは同級生とは思えない程大人びた雰囲気。それに冷たい感じがした。


「今日鈴木さんを呼び出したのは、質問があったからなんです。貴方は兄貴にいったいどんな魔法を使ったんですか?」

 兼人さんは私の顔を覗き込んで尋ねた。黒目が大きく三白眼をした瞳に見つめられると、先生と接する時とは違う意味でどきどきと鼓動が高鳴る。これは緊張からだ。

「魔法なんて使っていません。むしろ魔法にかかったのは私のほうです」

 私はまっすぐ目を見て言った。

「ふう」

 兼人さんは溜息をついて、意外そうにしてたけれどやがて腑に落ちた様子で嬉しそうに微笑んだ。

「なるほどね。魔法にかかったのは鈴木さんの方か。予想の斜め上を行く答えですね。よろしければ、美夏さんとお呼びしてもいいですか?」

「大丈夫ですよ」

 と答えていた。兼人さんは人との距離を詰めるのがうまいなと感じていた。

「僕のことは兼人と呼んで下さい」

「ええ、兼人さん」

「美夏さんになら、本当のことをお伝えしてもいいかもしれませんね。実は、兄貴は他人に関心が持てない人間だった。それが、この三ヶ月でみるみる様子が変わったんです。僕ら家族にすら無関心だったのに、最近は毎日挨拶してくるんです」

「そうなんですか? 私の知っている先生とはずいぶん違うんですね」

 私は驚いた。喉が渇き、注文しておいたオレンジジュースを飲み干した。

「昔、兄貴が中学生の頃、今のように他人に関心を持った時期がありました」

 なんとそれは母が先生の担任だった時期だった。

 先生が私に優しいのは母の娘だからなんだろうか? ふと湧いた疑問は私の心を黒く塗りつぶしていく。

「美夏さん、大丈夫ですか?」

 少しの間ぼんやりしていたようで兼人さんが心配そうに私の顔を見ていた。

「すいません、話し中にぼーっとしてしまって」

「何か思うところがありますか? 兄貴は器用な人間ではありませんが、僕の大切な兄さんです。あなたが真剣に兄のことを想ってくれているようで安心しました。年の差はあるかもしれませんが、応援しています」

 それから間をおいて兼人さんが、

「僕のことも覚えてくれたら嬉しいです」

 と言ってくれた。先生についての疑問は生じたが、弟さんが応援してくれたので嬉しかった。

 

 そして母の紅茶を中学時代に飲んだと言っていた芳原先生。どういうことなのか勇気を出して訊かなければと思っていた。

「兼人さん、今日はありがとうございました」

「美夏さんこちらこそ。では、気を付けてご帰宅下さい。ところで兄が貴方のことが気になる理由が少しわかりました。初対面の僕にも、きっと誰にでも真っ直ぐな目を向けて対峙するんですね」

「そんなことないです」

 と赤くなりながら言う私に、

「自信をもって下さい」

 と先生に似た笑顔を兼人さんが向けてくれた。





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