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その5

 さて。最近はTCCのメイン業務である、お悩み相談そっちのけで(まあ相変わらず開店休業状態なのでそっちのけも何もないのだが)例の占いの話ばかりしていたのだが、今日は割合静かである。それもそのはず。先日の天野とのやりとりのせいで、情報の収集もろくにできなくなってしまったからである。


 真嶋が聞いてくれればもしかしたら教えてくれるかもしれないが、二人の仲を悪くする可能性も考えられるので、正直その手段もなしの方向にしたい。


 なんて、真剣に考えている振りをしているが、全く関係ない俺から言わせてもらえばどうでもいい話である。しかし、岩崎はとことん前向きで、


「まあ情報は真嶋さんから得たものしかありませんが、これでも十分戦えるのではないでしょうか。依存云々の話も占いを受ける人の心がけ一つで難なく看破できるわけですし。やはりここで考えているより、実際に行ってみるのが一番ではないでしょうか!」


 前向きとかそういう問題ではない。今までの行動を残さず無駄にしかねない発言である。


「俺もそのとおりだと思う。占いを受ける受けないで、ここまで真剣に情報を集めるやつがいったいどこにいる?はっきり言って、全国で二桁くらいしかいないと思うぞ」


 言いすぎだろ。三桁はいる。たぶん。


 麻生と岩崎はすっかり行く気になっている。その盛り上がり方は、今すぐにでも現地に直行するのではないか、というくらいである。まあ実際そうしても問題ないのだが。


 現在授業終了のチャイムが校内に鳴り響いてから、約三十分が経過し、帰宅部の連中はほぼ残らず帰路についている時間だ。開店休業中のTCCなど店じまいして、さっさと帰宅しても全く問題ない。あるはずなどない。だから帰ろう。


「それでいいと思うよ。あたしも不安だったけど、特に問題なかったし、そこまで警戒しなくてもいいと思う」


 先ほど言ったとおり、今は放課後で、ここはTCCの部室である。最初二つのセリフは岩崎・麻生であることは明白であるが、さて、今のセリフは誰のものだろうか。


 答えは簡単。いつぞやのセリフどおり岩崎が部室に招待したのだ。真嶋綾香を。


 岩崎が変な女であるのはもう疑いようもなく、もはや全校生徒が知っているのではないかと言うほど常識の一つであるが、この女も結構変な女である。


「な、何よ」


 俺は何気なく、真嶋のことを見ていただけなのだが、真嶋は俺の視線が気に食わないようで、すかさずにらまれた。そんなに俺のことが嫌ならここに来なければいいのに。天野とは現在も仲睦まじいようだからいいが、あれでけんかにでも発展していたら確実に俺のせいである。おそらく前にも増して俺のことが嫌いになったはずなのに、よくよく解らないやつである。


「では全員一致で現地調査に赴きたいと思います!」


 岩崎は高らかに宣言した。全員というのには全く口を挟んでいない俺やTCCでない真嶋も含まれているのか?


「日程を決めたいのですが、その占い師さんはいつごろいるのですか?」


 真嶋に聞いたようだ。


「うーん、あたしが行ったのは日曜日で夕方だったよ」

「じゃあ日曜日に決行しましょう。集合場所と時間はのちほど、追って連絡します」


 俺を含める三人の頭の上に疑問符が浮かんだ。何で今言わないんだ?まあ俺には関係ないので謹んで無視させていただく。


「楽しみですね!私、占いって初めてなんですよ」

「そりゃ俺もだ。興味はあったけど」

「そういえば、真嶋さんはどうだったんですか?体験してみて」


 二人は気になるところらしい。あまり聞かれたくないようなそぶりをしている真嶋は、言葉を濁す。


「結構当たり障りのないことしか言われなかったような・・・」


 確かに盛り上がっている二人には言いにくいことである。予想どおり二人のリアクションはあまりよろしくない。


「で、でも今よりいい状態になるにはどうしたらいいか、って聞いてみたんだけど、それは結構効果あったよ!」


 何だかとってつけたような言葉だった。


「そうなんですか?」

「うん。効果としては小さいものだったけど、それでもあたしは嬉しかったし、格段に近づけたと思う!」


 近づけた?何か叶えたい夢についてでも相談したのだろうか。


「ふーん。でもそっちのほうが嬉しいかもしれませんね。私も今の袋小路を脱する方法でも聞きましょうか」


 こいつはどこか迷路にでもいるのだろうか。


「しかし、結局は占い師なんてどいつもこいつも一緒なんだな。当たり障りのないことしか言わないなんて、テレビ番組のちょっとした占い速報でもできる」


 雑誌の広告とかニュースにもそういうものが存在するがどれも当たり障りのないことしか言わない。当たらずとも遠からずというか、広く捉えれば間違ってないみたいなことしか言わないよな。


「成瀬さんって本当に夢がないですよね」


 お前が言っているのは夢ではなく妄想だ。


「どんな夢を持っているのか知らないが、叶える努力はしているのか?占いなんてものに頼る前にもっと現実的なことを考えてみたらどうだ?」


 占いやまじないをすることは決して努力とは言わないぞ。


 すると、俺の意見がとても気に入らなかったようで、岩崎はイスを吹っ飛ばして立ち上がった。


「努力しようにもその方法が解らないんです!普段は冷静沈着な私が、冷静でいられなくなっちゃうことがあるんです!鈍感な成瀬さんには解らないでしょうけど!」


 いろいろ突っ込むところがあるが、けんか売られているような気がするのは俺の気のせいか?


「そういうもんなのか?」

「そういうものです!」


 よく解らないが。


 麻生もその辺は理解できているようで、意味深に頷いている。俺だけ仲間はずれか。


 そしてもう一人、ここにいる人物に目を向けると、


「・・・・・・・・・」


 無言で俺のことをにらんでいた。俺は当然ぎょっとする。何かまずいことでも言ってしまっただろうか。


「なんだ?」


 俺が真嶋にそう問いかけると、真嶋は拗ねたように顔をそらすと、


「成瀬って、最低!」


 と、叫んだ。もう何が何だか解らない。どうやら俺の考えはここではものすごい少数派であるようだ。やはりこれだけ信じている人がいるということは、根拠があろうとなかろうと、占いには力があるのかもしれない。宗教と似ているな。


 それから下校時刻のチャイムがなるまで、俺を除いた三人は占い話に花を咲かせていた。よくもまあここまで盛り上がることができるな、と感心するくらい話は膨らんでいて、いつの間にか、麻生と真嶋はとても仲良くなっていた。何となく俺の居場所が減ってきている気がする。これからは図書室にも行きにくいし。


 俺としては、先ほど学んだので、こいつらの占い話にはあまり介入しないようにするしかない。どうせ俺の考えは理解されないし、怒鳴られるだけだ。今度の日曜日だったか?せいぜい楽しんでくるといい。


 このときの俺は、今度の日曜日俺は別行動になることをちっとも疑っていなかった。当然占いには岩崎と麻生、もしかしたら真嶋が来るかもしれないと考えたが、そこに俺が含まれていないことは明白だった。なぜなら誘いを受けていないからだ。正直、いつ誘われるのかと思ったが、最後まで俺のことは空気のように扱っていて、集合時間も場所も何も言われていない。やはり今回の話は、俺には無関係だったようだ。まあ、誘われたからと言って参加するかどうかは別問題だったが。


 俺は休日をどう過ごそうか考えながら帰路に着いた。

 

 しかし、どこか俺も抜けていたのだろう、俺の考えは甘かったようだ。岩崎が一度言ったことをこうも簡単に諦めるはずがなかったのだ。どうやら俺は岩崎を正しく理解していなかったようだ。一方岩崎は俺のことをとてもよく理解していたようだ。普通に誘ったところで俺は来やしない。なら、どうしたらいいか。その辺り、岩崎のほうが一枚上手だったようだ。



 日曜日の午前、俺は俺の詰めの甘さと、世の厳しさについて嘆いていた。俺はどうしてこんなにもついていないのか。


「どうしたんですか?朝から暗くなって」


 結果から言うと、岩崎は俺の家に乗り込んできた。真嶋と麻生を連れて。


「諦めろ。お前は俺たちと一緒に占いに行く運命なんだよ」


 運命とか奇跡とか必然とか言うな。俺はこんなことが運命として決定付けられているのならば、断固として運命に逆らってやる。


「・・・・・・・」


 俺の家に慣れている岩崎と麻生はかなりくつろいでいるものの、真嶋は何やら緊張しているようだ。どう考えても俺の家のほうが、あの真嶋邸に比べてアットホーム感はあると思うが。まあ俺の私見だけどね。


 所在なさげに立ち尽くす真嶋。本人に自覚はないだろうが、結構気を使わせる。


「適当に座れよ。気ぃ使うことないぞ」

「べ、別に気なんか使ってないから!」


 そう答えると、リビングにあるテーブルに備え付けてあるイスに着席した。ちなみに、岩崎と麻生はとっくに座っている。


「成瀬さん、とりあえず何か飲み物が欲しいです」

「俺は何か茶菓子的なものが欲しい」


 こいつら、アポなしで人の家にやって来たくせに何でこうもずうずうしいんだ。真嶋は置いといて、この二人を客と呼ぶのはいささか不愉快である。


 俺は岩崎と麻生を無視して、とりあえず真嶋に問いかけた。


「コーヒーでいいか?」

「あ、うん」


 普段の勢いはいったいどうしたのか。まるで借りられた猫のようだ。二人が自分の家のように振舞っているだけに、真嶋がこうしてしゃちこばっているのは何だか申し訳ない。


 まあそれはさておき。


「今日はいったい何の用だ」


 一応聞いておかねばなるまい。俺は真嶋の隣に着席しながら、岩崎に問いかけた。


「もちろん、みんなで占いに行こう!ってことで、集合したわけですが」

「俺は誘われてなかったと思うが?」

「普通に誘っても来ないかと思いまして、策を練ってみました。私って結構策士ですよね。あれ?成瀬さん、寂しかったんですか?」


 断じて違う。俺が言いたいのはそういうことじゃない。お前だって解っているはずだ。


「普通に誘って行かなそうなやつを妙な手段を使って誘うな。お前らだけで行けばいいじゃないか」


 俺の案は間違っていないはずだ。


「私的な用事だったら個人的に行きますけど、今日は違います」


 何を言ってやがる。私的な用事でないと言うつもりか?どっから見ても超個人的じゃないか。


「私考えました。たぶん我々の元に相談者が来ないのって例の占い師さんが結構関係していると思うんですよ。だから今日は調査です」


 明らかに後付けの丸出しの考えだな。


「それで何で俺が関わってくる?」

「成瀬さんもTCCのメンバーだからです!だから調査に協力するのはもはや必然的です!」


 俺の口からはため息しか出てこない。岩崎以外の二人のリアクションを見る限り、二人にすらこの考えを言っていなかったようだな。所詮は言い訳だろ。麻生はともかく、真嶋はTCCのメンバーですらない。しかも相談者でもない。もはや何でもありだな。


「で、何でこんな早くから来たんだ?真嶋の話ではその占い師は夕方くらいに現れるんじゃないのか?」

「それは、あれですよ。先日、真嶋さんにはご自宅に招待してもらったので今回は我々が招待しようじゃないですか、ってことですよ」


 いい加減にしろ。それは俺が思うことであり、お前が言うことではない。


「お前が思いついたのであればお前の家に招待しろ」

「まあまあ。お前だって呼ばれたのだから、お前の家に招待したって全然問題ないだろ」


 麻生よ、お前はそう言うが、来たくもない俺の家に呼ばれた真嶋はどうしたらいいんだ。おそらく、今日俺の家に来ることなど、微塵も知らされていなかったであろう、真嶋はきっと俺の家に来たくなかったはずだ。きっと迷惑だったはずだ。


 俺は横にいる真嶋をチラッと窺う。真嶋も俺のことを見ていたようで、一瞬目が合ったがすかさずそらされる。相変わらず所在なさげにしているが、それはここにいたくないという意志の表れなのかもしれない。


 とはいえ、真嶋をここに連れてきたのは俺ではないので、俺が責任を感じる必要はないはずだ。必要以上にもてなすこともない。この二人と同等に扱えばいい。ここにいたくないと考えているやつに対して、手厚くもてなすのは返って面倒がられるというものだ。


「適当にくつろげ。昼飯くらいは用意してやる」


 俺はやれやれとため息をつくと、寝起き丸出しの格好をどうにかするために寝室へと向かった。


 しばらくうちで適当にくつろいだ後、例の占い師探しに出かけた。まあくつろいでいたのはもっぱら岩崎と麻生だけで、なぜだか俺は自分の家であるのにもかかわらず、くつろぐことができず、来たときからずっと緊張し続けていた真嶋は最後まで緊張していた。ここまで緊張されると俺に何か問題があるのではないかという気になってくるね。


「さて、じゃあ行きましょう!皆さん準備はいいですか?」


 準備も何も、本当に行くのか?という気持ちでいっぱいである。


「任せとけ!俺は準備万端だ」

「う、うん」


 妙なやる気を出している麻生に、若干引き気味な真嶋。こんな変なやつらに関わってしまったことをわずかばかりか同情してしまうね。口には出さないが。


「どんなことでもいいんですかね?例えば前世の話とか」

「どうだろう?あたしも一回しか行ったことないし」

「前世なんかに興味はねえ」

「私もあまりないですけど。ただ得意なジャンルとかあるのかなと思いまして」


 いったい何を気にしているのか、俺には全く理解できない。まあ占い自体に俺の理解が及ばないのだが。


「どうだろうね」


 何かあまり乗り気じゃないような真嶋。俺の察するに、こいつはあまりこういったものに興味ないのではないだろうか。実際占いなど受けに行ってしまった自分が信じられないのだが、効果があったことに舞い上がってしまって岩崎に話してしまった、ということではないのだろうか。


「そうですか。まあ私が聞くことは決まっているわけなのですが」



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