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終幕(中)

終幕feat.真嶋綾香

 放課後になり、俺は現在部室にいる。うむ、静かだ。なぜなら今は一斉委員会で、岩崎と麻生は招集されているからだ。まさか、誰かが相談に来るなんて事はないだろう。頼むから来ないでもらいたい。


 占い研の連中は今頃、俺の条件をクリアするために走り回っているはず。きっとやってくれるだろう。これ以上俺を面倒ごとに巻き込まないでくれ。条件をクリアしてくれなければ、今度は本格的に警察を呼ばなければならない。そんな面倒ごとはごめんだぜ。


 しかし、本当に静かだ。静寂は好きだ。だが、現在俺の心は安らいでいない。なぜかというと、答えは簡単だ。ずばり、俺は今部室に一人じゃないからだ。


「・・・・・・・・・・・・」


 朝言っていたとおり、真嶋がいる。料理雑誌で完全に顔を覆っているため、どんな表情をしてるのかさっぱり解らないが、確かに真嶋はここにいる。


 しかし相変わらず気まずそうだ。そんなに気まずいなら、来なければよかったのに。急に用事ができた、とか言われたら、全く止めるつもりはなかったのだが。


「あ、あのさ・・・」


 真嶋は雑誌で顔を覆ったまま、話しかけてくる。


「何だ?」

「これっておいしい?」

「これってどれだよ」

「だからこれだよ」


 どうやら真嶋は雑誌の中のある料理を指差しているらしい。もちろん俺からはどの料理を指差しているのか全く見えない。なので、雑誌を覗き込もうとすると、


「ちょ、ちょっと、こっち来ないで!」


 何なんだよ、全く。こっち来ないでって、俺は犯罪者か!


 あー、駄目だ。若干いらいらしてきた。これ以上まともに相手をすると、俺の堪忍袋に限界が来てしまうかもしれない。適当に流すことにしよう。


「気になるものがあるなら、雑誌ごと持って帰っていいぞ」


 真嶋ではたぶん作れないが、誰かに作ってもらえばいい。


「あー、ありがと」


 全然感謝の気持ちが伝わってこない感謝の言葉を口にすると、またしても黙り込む真嶋。何なんだ、一体。


 他のクラスメートと比べると、真嶋はそこそこ会話をしているほうだ。そりゃ岩崎や麻生とは比べ物にならないが、それでも俺の交友関係の中では多く言葉を交わしてきたほうだろう。にもかかわらず、全然距離が縮まっていないような気がする。まあ、俺とて積極的に近づこうとしているわけではないのだが、何となく、真嶋は自らこの距離感を保とうとしているような気がするね。これ以上近づくことを恐れているような、そんな気がする。


「そ、そういえば!」


 その割りには自分から話しかけてくるのだが。単に沈黙が嫌なだけかもしれないな。


「ごめんね。手伝ってくれって頼まれていたのに、結局何もできなくて」


 何について謝られたのかと思えば、そんなことか。確かに頼んだが、それはこっちにも目的があったからだ。別に謝られることではない。結局目的は達成できなかったが、それは俺のミスのせいだ。それに、


「十分手伝ってもらったぜ。あんたの協力がなければ、真相には辿りつけなかったと思う。それに、無茶するなといったのは俺のほうだ」

「そ、そうかな?」


 にもかかわらず、無理矢理頼んでしまった上に、こんな風に気を使わせてしまった。どうやら、


「謝らなければいけないのは俺のほうだな。面倒ごとに巻き込んで悪かったな」


 今更気付いた俺だったが、真嶋は、


「ううん、全然!あたしは気にしてないよ!」


 と、寛大にもあっさりと許してくれた。


「あたしは自分から参加したんだし、力になれたならそれだけでよかったよ」


 最近こいつの性格が今いちよく解らないのだが、最初からこんな性格だったかな。もっときつい性格だったような気がしたのだが。まあ、きっと真嶋もいい方向に変化したのだろう。そういうことにしておこう。前向きにな。


「そ、それにしても、結局成瀬が解決したみたいだね。すごいじゃん」


 相変わらず気持ちが伝わってこない。そんな様子だと、褒められているんだかバカにされているんだか、とても微妙である。


「別に俺がしたことは大したことじゃない。皆が集めてきた情報を当てはめて納得できる仮説を作っただけだ。穴埋め問題みたいなもんだよ。俺じゃなくてもできる」


 情報を集めるほうが大変な作業だ。動き回らなければならないし、かと言って運動量がそのまま成果に繋がるとは限らない。それなりに頭を使って効率よく動かないと、時間の無駄になってしまう。加えて情報収集は交友関係の広さが物を言う。俺には到底できない作業だった。


「一番頑張っていたのはあんたたちだったよ。俺のしたことはいいとこ取りだ」

「成瀬じゃなきゃいいとこ取りもできなかったよ」


 そんなに力説されても、この事実は変わらない。結局のところ、俺は仮説を立てただけで、証明はしていないのだ。にもかかわらず、占い研究会の連中を強気な言葉で騙して、自白させたのだ。詐欺だと言われても、まったく否定できない。


 しかし、俺は岩崎と違い、社交辞令という言葉を知っている。これ以上否定の言葉を繰り返しても堂々巡りだろう。


「そりゃどうも」


 俺がこう言えば、話は終わる。それだけのことだ。別に俺の考えや気持ちが変化したわけじゃない。だが、あながち百パーセント社交辞令で礼を言ったわけでもない。


「あんたはやっぱりすごいやつなんだよ。沙耶も言ってたよ、驚いたって。だからさ、もっと自信持っていいんだよ!」


 こいつは本気で俺を褒めてくれていた。その言葉を真に受けたわけじゃないが、やはりこういう気持ちは嬉しかった。こんな風に真剣に言われると、自分のやった行為が肯定されているようで、俺は正しいことをしたんじゃないか、何もミスをしてないんじゃないかって思えてくる。自分の情けない部分を少しは許してやってもいい気がしてくる。これはそんな気持ちにさせてくれたことに対する礼だ。


「お褒めに預かり、光栄だ」

「うん!」 


 ここに来て、ようやく気まずい空気が緩和された気がした。


「と、ところでさ」


 会話が終わると、すぐさま真嶋は口を開く。よくもまあ、そう次から次へと話題が思いつくな、と感心したのだが、今回は何やら様子が違う。おそらく、次の言葉が今一番口にしたいことなのだろう。真嶋の表情が緊張で硬くなった。


「何だ?」


 これから何を言い出すのか、こっちも緊張してくる。そして、真嶋はその言葉を口にした。


「今までどおり、普通に話しかけてよね」

「は?」


 どういうことだ?俺は普通に話しかけているだろう。確かに、今日はいつもと比べると、あまり話しかけてないが、それは真嶋が気まずそうにしているからで・・・。まさか、こいつ。


「昨日の今日でまだ気持ちが整理できてないのかもしれないけど、あんまり気まずそうにされると、こっちも気まずいからさ」


 間違いない。俺があまり話しかけない理由を、真嶋たちの過去を知ってしまって気まずいから、だと勘違いしてやがる。


「誤解を解こうとして話したのに、今度は気まずくなってちゃ、本末転倒だと思わない?あたしも恥ずかしい思いしたのに、それじゃ意味ないし」


 自分のこと棚に上げんなよ。誰がどう見たってあんたのほうが気まずそうじゃないか。緊張しているのもあんただ。俺はいたって普通だ。少なくとも真嶋よりは平常心を保てている。


「一応クラスメートで席も隣同士でしょ?まだあと一年近く変わらないわけだし、それなりに仲良くしたほうがいいと思うんだよ、それなりにね。ほら、お互い岩崎さんと仲いいわけだし、岩崎さんを通じて一緒にいる機会も増えると思うの。だからもっと普通に話しかけてほしいなー、って思って・・・」


 この場合、一体どうすればいいのだろうか。きっと真実を言っても、真嶋は受け入れやしないだろう。こいつが頑固であることは、初対面で理解した。ここは俺が大人な対応をするべきだな。


「解った。あんたの言うことはもっともだ。これからはもっと話しかけてやる」

「う、うん。別に話しかけてほしいとかそういうんじゃないんだけど、ある程度仲良くしたほうがいいかな、と思って・・・」


 はっきりしないやつだな。ある程度ってどの程度だよ。


「よく解らないが、こう言ったからには、あんたも普通に返事してくれよ。無視するとか、妙に驚くとか止めてくれ」

「そ、そんなことしないよ!今までもしたことないし」


 確かに無視されたことはないが、妙に驚かれたことは何度もある。比較的よく見る光景である。


「あと、こっち来ないで、とか言うな。結構傷つくから」

「そんなこと言わないよ!」


 さっき言ったばかりだろうが!


「あと、たまにはこっち見てしゃべれ」


 いつもいつも手元に話しかけやがって。それだと誰に話しかけているのか解らないぞ。


「い、いつも見てるもん!」


 現在進行形で自分の手元を見ているやつが何を言うか。


「こっち見てしゃべれ」


 俺がもう一度言うと、


「わ、解ったわよ」


 と言い、手元から顔を上げる。すでに真嶋は耳まで真っ赤である。それほどまでに照れ屋なのか。相手の目を見るということは、見られることと同義だ。人の視線が嫌いということなのだろう。とはいえ、自分からもっと仲良くしようと言い出したのだ、そんな言い訳、認めるわけにいかない。


 真嶋は顔を上げ終え、今度は徐々に視線を移動させる。顔を固定させたまま目だけがゆっくり動き、そして、俺の視線とぶつかった。そして・・・。

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