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その41

もうほとんどエピローグなのですが、ここは抑えておかないといけないので、もう少しお付き合いください。

占い研による事件の真相の告白です。

 昼休み、俺は前の席にやってきている岩崎のトークショーを聞き流しながら弁当を食していると、珍妙な客がうちのクラスにやってきた。


「な、な、な」


 この時点で、自分が呼ばれていることが解った俺は、なかなか直感が鋭いのではないか。不運にも呼び出し係に任命されてしまったのは戸塚だった。三原は何をしているのかと思ったら、隣で笑いをこらえていた。


「あ、あの、呼んでます・・・」


 と言って廊下を示す戸塚。その先には、


「おい」

「何ですか?」


 俺は岩崎に声をかける。岩崎も廊下に目をやった。


「あ、占い研の・・・」


 双子がそろってそこにいた。どうやら向こうからわざわざ足を運んでくれたらしい。どうやって呼び出そうかと考えていたのだが、手間が省けた。俺は食べかけの弁当をそのまま片付けると、連中のもとへ向かった。


「自分たちから来るとは殊勝だな」


 廊下に出ると、どうやら姫も来ていたようで、ふくれっ面に腕組をして、いかにも機嫌悪そうにしていた。


「話がしたい。付き合ってくれ」


 双子の片割れが言う。そろそろ自己紹介をしてもらいたいな。


「こ!ここじゃなんですから、うちの部室に来て下さい!」


 俺の後ろから岩崎がすっ飛んできた。どうやら弁当を最後まで食ってきたようだ。


「解った」


 軽々しくこちらの要求に応じる双子の片割れ。やけに簡単に事が進むな。こいつら、何か訳ありなのかもな。それほど真相がばれてしまうことをそれほどまで恐れているということだろう。


 部室にいく前に麻生を呼び出し、計六人で部室に向かった。




「昨日言ったように、このことは公にしないでもらいたい」


 部室に着いた俺たちに言った、双子の片割れの第一声がこれだ。


「それは昨日聞いた。そうしてもらいたいなら事情を話せ」


 そっちの出方次第だと昨日言ったはずだぜ。岩崎を説得しないと、悪どい事をしでかしかねないぞ。そうだな、とりあえず、


「自己紹介からお願いしようか」

「ああ、そうだったな」


 今思い出したように、そいつは自己紹介を始める。


「俺は二ノ宮一輝。こいつは二ノ宮悠二。見てのとおり双子だ。ちなみに俺が兄」


 今までずっと話していたやつが兄だったようだ。お前らが双子じゃなければクローンだろ。もしくは細胞分裂だ。正直、『たった今二つに別れたので、我々に個別の名前はありません』と言われても、直ちに信じてしまえる。まあさすがに冗談だが、それほど似ているということだ。


「そして、こいつが泉紗織」


 敬語じゃないな。姫とも呼んでない。


「三人の関係は何なのですか?本当に教祖と側近というわけじゃないと思いますが」

「ああ。俺たちはイトコだ」


 なるほどね、そういう関係だったのか。学年が違うし、どこかに繋がりがないと手を組んでここまでしないだろう。


「ではえーっと二ノ宮兄。質問に答えろ、正直にな」


 ここから本題だ。さて何を聞こうと考えていると、


「そんなやつらの言うことなんて聞かなくていいって!」


 後ろで姫、否、泉紗織が叫ぶ。


「うるさいですよ。少し黙っていて下さい。この期に及んで見苦しいですよ。こっちは精一杯譲歩してあげているんです。もっとありがたく感じて下さい」

「別に頼んでないし」


 ケンカするなよ。岩崎、お前のほうが年上なんだから、もっと大人な反応をしろ。


「どうするんだ?まだ意見がまとまっていないようだが」

「あいつは気にしないでくれ。今日中に話してをつけておきたい」


 俺は二ノ宮兄に話しかけたのだが、どうやら双子の意見はまとまっている様子。どう考えても俺たちに従ったほうがいい、という事実を、二ノ宮兄弟は理解しているようだ。ただ、泉紗織はプライドが高いせいで、俺たちの高圧的な態度が気に入らないのだろう、なかなか素直になれないらしい。姫と呼ばれていたのは、性格も踏まえてのことだったみたいだな。


 まあそれは置いといて、話を進めよう。


「じゃあとりあえず動機を教えてくれ」


 どう考えてもこいつらに部室荒らしなんかするような動機はないような気がするのだが。


「俺たちは紗織に友達を作ってあげたかったんだ」


 意味が解らないし、俺の質問の答えになってないような気がするのだが、二ノ宮兄の真剣な様子から、そこそこ深い話なのだろうと察し、俺は黙って話を聞くことにした。


「こいつは中学生のころからずっと、友達がいないんだ。小学生のころは何人かいたのだが、中学に入ったころからクラスに溶け込めずに友達ができなかった。こんな性格だから、素直に仲良くしてくれとも言えずに、逆に小バカにしたような態度を取っていた」


 彼女は高飛車な態度がよく似合う。きっと生まれたときからお嬢様気質を持ち合わせていて、中学に上がるころにその片鱗が開花してしまったのだろう。心が育ち切る前に、周りの人間を超える才能を持っていることに気付いてしまうと、周りを見下すようになってしまうこともあるらしい。その辺も関係しているのかもしれない。


「今年から高校に上がる。それを転機として、友達を作って高校生活を楽しく過ごしてほしいと思ったんだ」

「あんたら、そのためにわざわざ編入してきたの?」


 麻生は呼吸するのと同じくらい自然に友人を作る。それくらい麻生にとっては普通のことなのだ。そんな泉紗織も、わざわざ編入してくる二宮兄弟も、麻生には信じられなかったのだろう。俺には少し解るぜ。


「ああ。紗織には俺たちがいる高校に進学してもらいたかったのだが、俺たちがいた高校はあまり治安のいいところではなかった。だから紗織には自分の実力にあった高校を受験してもらって、俺たちがそれに合わせたというわけだ」


 ご苦労なこった。しかしそんな苦労も全てが報われるわけじゃない。


「当然、同じ高校にいるからと言って、ずっと一緒にいられるわけじゃない。それに俺たちが一緒にいたところで、友達もできない。それで考えたのが部活動の立ち上げだ」

「選んだのが占い研究会だったわけは?」


 既存の部活動では、性格上友達を作れる可能性は少ない。先輩もいるわけだし、そんな環境ではこいつの性格上長く続けられるはずがない。よって部活動をするには新たに創設するしかない。ここまでは解る。しかし、なぜ占い研究会なのか。よりによってなぜ占いを選んでしまったのだろうか。


「それは占いが流行っていたから。それと、性格上、対等だとうまくいかないと思ったんだ。だから初期設定から立場を若干上にしてしまえばうまくいくんじゃないかと考えたんだ」


 あー、いろいろ考えているんだな。しかし、甘やかしすぎじゃなかろうか。


「じゃあ事件の解決は?占いの力ではなかったのですか?」

「ああ。俺たち三人で力を合わせて、何とか解決していたんだ。まあ幸運にも解決できていたし、そこそこ知名度も上がっていた。あと一押しで、目標が達成できるところまで来た」

「それで、その一押しに選んだのが自作自演か」

「ああ。部室荒らしの件、全部あんたの仮説どおりだったよ」


 最後の一押しだ、ある程度の注目を浴びたい。それなりに大きな事件で、それなりに難易度の高いものが好ましい。だが、他者から難易度の高いものが持ち込まれた場合、解決できるか疑わしい。ではこっちである程度難易度の高い事件を起こしてしまって、そいつを解決すればいい。そう考えたのだろう。


「だが、これであんたらに公表されると、何もかも水の泡だ。だからこうして頼みに来た」


 どうやらこれで話は終わりみたいだ。さて、判決の時間だが、


「それで許されると思っているんですか?」


 うちの裁判長はこんな様子。さてどうなるかな。


「思っていない。だからあんたらの言うことを何でも聞こう。真相の公表以外なら謹んで罰を受けるつもりだ」


 こいつら、本当に大変な役回りだな。相変わらず、泉紗織は機嫌悪そうにそっぽ向いている。こいつらがここまでしているのに、感謝しているのだろうか。


「どうしますか?正直、この人たちは反省している様子ですが、肝心の彼女は全く反省している様子がありませんし」


 確かにな。だが、お前は許す気満々なようだな。どう見ても怒っている顔には見えないぜ。こいつらの話を聞いて同情したのか?それとも双子の献身的な様子に心を打たれたのか?どっちにしろ、甘いやつだ。


「何でもいいんじゃない。何か恥ずかしい罰ゲームでもやらせれば?」


 麻生はすでに興味なさそうだ。こいつ、呼ぶんじゃなかったかな。


「この件を解決したのは成瀬さんです。今回は成瀬さんに全権を委ねたいと思います」


 いきなり丸投げしやがった。朝はあんなに楽しそうだったのに、こいつらの話を聞いただけでこれか。こいつらの術中に嵌っているんじゃないか。


 ま、任せてくれるなら俺の好きなようにやるまでだ。やらねばならないことも解っているわけだし、あとは罰になるようなことを考えるだけだ。


「解った。そっちの要求を呑もう」

「本当か?」

「もちろん、条件がある」

「解っている。何でも言ってくれ」


 何と妹思いなやつだ。いや、正しくはイトコなのだが、まあ意味的にはだいたい合っているだろう。


「まず一つ。冤罪であることを校内に公表しろ」


 これは当然のことだろう。あいつは罰則なしとは言え、不名誉な罪を擦り付けられているのだからな。あの間抜けのことだ。それでも飄々と暮らしていそうだが。つくづく悪運の強いやつだ。ま、再三救ってやっているのは俺なのだが。


「そのあとの処理は任せる。真犯人について、どうやって誤魔化すかはあんたらの好きなようにしていい。他に冤罪を増やさなければ、な」


 これは結構面倒な作業だぞ。まあ俺には無関係だ。それに罰則なんだ、少しは罰則らしいこともしてもらわないと意味がないだろう。


「二つ目。あの間抜けに謝りに行け。もちろん三人でな」


 これも当然だろう。深く理由を説明する必要もあるまい。


「これは公表じゃなくていいぞ。どっかに呼び出して謝ればいい。結果としてあいつに謝れば構わない」


 双子は真剣に俺の話を聞いている。泉紗織は聞いているのか解らない。まあ、耳には届いているだろう。


「そして三つ目。占い研究会は解散。二ノ宮兄弟はそれぞれ別の部活に入れ」

「え?」

「何の部活に入るかは、任せる。とりあえず、バラバラになれ」


 こいつらは互いに甘えすぎだ。三人とも高校生なんだし、いくら仲がいいからといってイトコ同士四六時中一緒にいるなんて、みっともないわ。


「紗織はどうするんだ?」


 こいつを双子から離すのが最大の理由だ。何しろ、甘やかされすぎだ。過保護な双子も悪いのだが、それに依存する泉紗織が一番よくない。この二人に囲まれて暮らしていては、友達ができようと、何も変わらないだろう。いずれ双子は先に卒業してしまうのだ、それまでに自ら学校生活を楽しめるようにならなければ何の意味もない。


「そして最後。泉紗織はTCCに入部」

「ええー!」


 俺以外の五人から驚愕の声。驚いてもらえて光栄だ。


「以上が条件だ。これが飲めないなら交渉決裂だ。ちなみに今の証言、録音させてもらった。こいつを警察に持っていけば、何が起こるか解るよな」


 そんなに無茶苦茶な条件は出していないはずだ。少なくとも、何でもすると言っていた双子は条件を飲んでくれるだろう。問題は、


「何で私がこんなところに入部しなきゃいけないのよ!」


 泉紗織ともう一人。


「成瀬さん、ちょっと待って下さい!何で泉さんがうちに来なければならないんですか?」 


 TCCの部長、岩崎だ。


「麻生は別にいいよな?」

「ああ。驚いたが、別にいいよ。また賑やかになりそうだな」


 麻生からは快く了承してくれた。あと、二人か。


「私は許しませんよ!ちゃんとした理由を教えて下さい。もしあれば、ですけど!」


 俺が考えなしでこんなこといっていると思っているのか?俺は一応いろいろ考えるほうだぞ。岩崎のほうがよっぽど考えなしだと思うが。


「双子の作戦を否定した以上、別の案を提示するのが筋だと思わないか?」

「作戦というのは、友達を作るって事ですか?うちに入ると友達ができるんですか?」


 あの性格では普通に学校生活を送るだけでは友達などできないだろう。


「まずは性格を矯正する必要がある」

「誰が矯正するんですか?」

「あんた以外に誰がいるんだ?」

「私がやるんですか?何で私が!」


 あんたが世話好きだからだ。どうせ双子の話を聞いて、いても立ってもいられないんだろ。何とかして、友達を作ってあげたいと思っているのだろう。その証拠に、こう聞いてやる。


「嫌なのか?」

「別に嫌じゃありませんけど・・・」


 と答えてくれた。その言葉は了承と受け取って問題ないよな。これで、あと一人だ。


「こっちは話がまとまった。あとはそっち次第だ」


 まだ決めかねている様子。その理由は愛する妹を四六時中見守ってあげられないという辺りにありそうだ。兄弟愛も良し悪しだな。これ以上だらだらやっていると、昼休みが終わってしまう。俺としてもこの話を先に延ばしたくない。何とかこの時間で終えてしまいたい。なので、助け舟を出してやる。


「言っておくが、あんたらの思惑は半分以上成功しているぞ」

「え?」


 三人は眉をしかめる。


「占い研にそこそこリピーターが付いたのは、あんたらのいんちき占いに騙されたからじゃない。親身になって相談に乗ってやったからだ。真剣に話を聞いてやったからだ」


 バドミントン部の女子なんて、最たる例だろう。彼女は占いがどうだったとか、そんな話は一言も口に出さなかった。真剣に話を聞いてくれた、真剣に返事をしてくれた。そこばかり強調していた。彼女にとって占いは二の次だったはず。


「リピーターの連中はもう友達みたいなもんだろ。他のクラスメートにも、相談を受けた要領で接すれば、すぐに友達になれるだろう」


 少なくても嫌われはしないはずだ。


「本当に友達できる?」


 泉紗織が食いついてきた。


「俺は未来予知なんてスキルは持ってないから絶対とは言えない」

「・・・・・・・・・」

「その代わり、何か悩み事ができたとき、親身になって相談に乗ってやるよ」


 悩みあるときの、話を聞いてくれる人のありがたみが今回のことで解ったはず。泉紗織が親身に相談を受けたことで、相手は救われていたのだからな。


「あんたの言うこと、信じられないわ」

「そうか」

「だから、あんたのそばで、その言葉が本当かどうか見極めてあげるわ」


 最後まで上からの発言だな。だが、その言葉は了承の意志で相違ないだろう。


「だそうだ。あんたらはどうする?」

「紗織がいいなら、俺たちが反対する理由はないな」


 これで決まりだ。


「交渉成立だな。まずはあんたらが条件を実行してくれ。期限は決めないができるだけ早くやってくれ」

「ああ」


 きっと相当早く、おそらく今日中に達成してくれるだろう。別にこいつらを信じているわけじゃない。可能性の話だ。俺が持っている情報から考察して、今日中に実行してくれる可能性が高いと判断しただけだ。別に他意はない。 話はそこで終わり、俺たちはチャイムが鳴る前に部室を後にした。



次回から終幕編です。長いので、上中下に分かれています。今日から四日連続であげます。よろしくお願いします。

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