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その40

事実上、すでにエピローグみたいになっていますが、まだ続きます。

 翌日の朝。学校の最寄り駅で麻生に会った。こいつは基本的に遅い登校なので、いつもは会わない。


「よう。昨日は眠れたか?」

「いつもと変わらない」


 確かに昨日で面倒ごとを全て解決した。しかし、それほどプレッシャーを感じていたわけでも、心苦しかったわけでもない。まあ肩の荷が下りたのは間違いないのだが。


「しかし、とんでもない結末だったな」


 麻生が言っているのは、おそらく真嶋と天野のことだろう。とんでもないとは思わないが、意外だったのは確かだな。


「これで俺が言っていたことが正しかったと解っただろう?」


 うーむ。いろいろ反論したいところはあるのだが、事実TCCはいろいろなところに影響力があるらしい。今回のことで理解したのは確かだ。麻生が言っていたとおり、TCCは生徒間でそこそこ有名らしい。だが、


「俺が言っていたことも正しかっただろう」


 何度も言うが、やはり俺は何も悪いことをしていなかった。完全に天野の逆恨みだった。


「まあそれに関しては、疑われる成瀬が悪い。実際お前にも非があったわけだからな」


 そりゃどういうことだ?俺はそんなに女に対してひどいことをしそう、してもおかしくないと思われているのか?甚だしく不快な話だな。俺が普段だらしないからと言って、そこまで言われる筋合いはない。さすがに異議を唱えるね。


「にしても、お前は大変だな」


 完全に他人事だな、お前は。何で俺だけなんだよ。


「自覚ないのか?お前は結構頼られているんだよ。いろいろな人からな」

「何のことだよ」


 突然何を言うんだ。俺が頼られているって?俺から見れば、麻生のほうがよっぽど頼られる人間だと思うが。友人の少ない俺が、一体誰から頼られると言うんだ。


 全く思い当たる節がなかった俺だったが、その俺の発した言葉を聞いて、麻生はわざとらしく肩をすくめ、わざとらしくため息をついた。その仕草、ムカつくから止めろ。


「ちゃんと自分を理解したほうがいいぞ。また誰かに誤解されて、面倒ごとに巻き込まれても知らないぜ」

「何が言いたいのか、さっぱり解らないな。言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」


 お前までそんな遠まわしな表現をするとは思わなかったぜ。そんな言い方をされると、俺が自分を正しく理解してなかったせいで、天野とすれ違ったみたいじゃないか。


「俺はかなり正しく自己分析している。正しく理解できていないのは、真嶋と阪中だ。天野もちゃんと俺を理解していたぞ」


 天野からの罵声はちょいと過激だったが、的外れではなかった。


 俺の言葉に、麻生は両の手のひらを上に向け、首を横に振った。だから、そのわざとらしい仕草を止めろ。


「お前は全然解ってないよ。もうちょい自分のことを認めてやったらどうだ?お前はいつも皆の期待以上の仕事をしているぜ」


 それは結果的な話だ。今のところ期待に応えられているかもしれないが、いつもミスがある。本当はもっとうまくできたはずなのに、危険を増やしてしまっている。それがいつ結果に繋がってしまうか解らない。これまでの結果はたまたまでしかないんだよ。


 この話はここで終わり、それからはいつもの下らない世間話をしていた。学校に到着し、お互いの教室に入るところで別れた。それにしても、


「正しく自分を理解しろ、ねえ」


 珍しく哲学的なことを言っていたな。自分を理解すると何か解るのかね?もっと周りが見えてくるとか?自分を正しく理解するものは、世界を正しく理解する、ってか?少し見下しているような様子だったが、まあ考えてみようかな。暇つぶし程度にな。




 教室に入ると、見慣れた光景。俺の席に岩崎が座っており、真嶋と雑談していた。


「あ、成瀬さん、おはようございます」


 岩崎の挨拶で、真嶋が俺の登場に気付く。やたら気まずそうだな。まあ昨日の今日だからな、気持ちは解る。よし、その気持ちを汲んで、放っといてやろう。


「今日は機嫌がよさそうだな」


 俺は真嶋のほうを見ずに岩崎に話しかけた。すると、岩崎は、


「ええ。昨日は久しぶりによく眠れました」


 本当に機嫌がよさそうだった。そいつは結構ですわ。


「でもまだ終わってません。今日は占い研の人たちと、再び相見えなければなりませんから」


 あー、すっかり忘れていた。まだそんな面倒な行事が残っていたのか。何か適当にボランティア活動にでも参加させればいいんじゃないか?若しくは校内ごみ拾いでもさせろ。あいつらの罰則になるし、校内もきれいになるし、あいつらの評判も落ちない。一石三鳥の案だと思うのだが、どうだろうか?


「我々にケンカを売ってきた挙句、一時的にしても我々の名を汚したわけですから、しかるべき処罰を与えなければいけません。登校の際にいろいろ考えていたのですが、まだいい案が思い浮かばないんですよねえ。どれもインパクトにかけるというか、面白味にかけるというか・・・」


 何やらとても楽しそうである。いっそ、全部こいつに任せてしまおう。


「何でも好きな罰ゲームを与えてやってくれ。昼休みにでも一人で行って来い。今回の件は全てあんたに・・・」

「駄目です!成瀬さんが解決したんですから、もっと主体性を持って参加して下さい!」


 うるさいやつだ。せめて最後まで言わせろ。やりたいやつがやればいいという考えはいけないのか?ちなみに俺はやりたくない。こうなったら最後の手段だ。


「あんたならできる」

「その言葉はもう通用しません」


 一掃されてしまった。もう駄目なのか。まだ二回目なのにな。


「もう少し物事に積極的になって下さい。でないと、また天野さんに嫌われてしまいますよ」


 別に構わんと何度も言っているだろう。それに、昨日積極的に俺を最低な男にしようとしていたのはどこのどいつだ?


「成瀬さんのせいで真嶋さんと天野さんがケンカしてしまったのですよ。もっと噛み締めて下さい。ね、真嶋さん?」


 急に話を振られて、真嶋は、


「え?ごめん、聞いてなかった」


 となっている。さっきからずっとこっちを意識していたような雰囲気だったのだが、話までは聞いてなかったようだ。


「天野さんとはちゃんと仲直りできましたか?あのあと会話は弾みましたか?」

「あ、うん。大丈夫だったよ。盛り上がりすぎて、今日はちょっと寝不足」


 結局、天野は泊まっていったようだ。


「それはよかったです。楽しいですよね、お泊り会。盛り上がりますよねえ」

「うん。でも結構ずっと怒られていたから、ちょっとつらかったかも」

「あー、心配させて、ということですか?」

「うん」

「本当に心配だったんだと思いますよ。かなりの慌てぶりでしたから。見せてあげたかったです。そりゃあ大嫌いな成瀬さんのいる我々の部室に来たくらいですからね」


 何で真嶋と普通に会話しているのに、突然俺に毒を吐くんだよ。この期に及んで、俺と天野を不仲にさせるつもりか?


「本当にすみませんね。成瀬さんが迷惑かけました。悪気があったではないので許してあげて下さいね」


 お前は何様だ。保護者気取りは止めてもらいたいね。


「全然!本当に迷惑とかかけられてないから、許すとか、別に、本当に、何でも」


 あー、よく解らないこと呟いているな。どうやらこいつには特定の弱点があるらしい。俺は結構真嶋が困っている姿を目撃している。


 しかし気まずそうだな。俺はそうでもないんだが、やはり昨日のことがいろいろ気になっているのだろう。昨日は天野にあることないこと言われていたからな、そのときも気まずそうだったし。


 現状、俺は気を遣っている。しかし岩崎は何を考えているのか、どんどん俺の話題を振っている。そろそろ止めてやるべきだな。


「でも少しは成瀬さんにもいいところがあるんですよー」

「もういいだろ、席に戻れ。もうすぐ担任が来る」


 というかうるさいよ。何が悲しくてあんたに庇われなくてはいけないんだ。しかも真嶋は何も言ってないぞ。


「何ですか?私が邪魔なんですか?」

「邪魔だ」


 もうほっといてくれ。俺のことも、真嶋のことも。少しは空気を読んでやれ。真嶋はこれ以上話しかけないでくれ、という空気を発しているじゃないか。真嶋が怒っても知らないぞ。俺は無関係を貫くからな。


「そんなに真嶋さんと二人で話したいんですか!もういいです、もう成瀬さんなんて知りません!」


 いつぞやの様に泣きマネをして、教室から走り去っていった。だからもうすぐ担任が来ると言っているだろうが。


 ふう。朝から疲れるな。岩崎は機嫌がよくても悪くても疲れるのだが。


「・・・・・・・・・」


 俺はかばんから教科書やら何やらを出し、授業の準備を開始していると、左から強烈な視線を感じた。思い切って左に顔を向けると、やはり真嶋が俺を凝視していた。そして毎度お馴染みのように、慌てて視線をそらす真嶋。


「・・・・・・・・・」


 何か、かえって気まずくなってしまったような気がするが、仕方があるまい。俺のせいではない。もはや手遅れだ。ご愁傷様である。


「あ、あのさ、」


 真嶋が口を開いた。真嶋は手に教科書を持っている。かばんから出しているところなのだが、パッと見、教科書に向かって話しかけている痛い子に見えなくもない。


「何だ?」

「今日の放課後、部室に行ってもいい?」

「別に構わないが」


 その話は昨日しただろう。今まで許可取ったこともなかったし、こっちも拒否したこともなかったはずだ。なぜここに来て二度もそんなことを言い出したのだろうか。


「か、勘違いしないでよね!別にあんたに会いに行くわけじゃないんだからね!」


 そんなことも微塵も考えていないのだが、こんな真嶋の様子を見ていると、日常に戻ってきたような気がした。真嶋とはそれほど会話を重ねてきたわけではないのだが、何でだろうか。俺にも解らん。


「な、何笑ってんのよ!」


 別に笑ったっていいじゃないか。なぜなら、俺は日常をこよなく愛しているのだから。




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