その38
今回は行方不明の解決編(前)です。真嶋・天野・成瀬の関係の謎を解きます。
「どうだ?これで満足か?」
俺は天野に向かって話しかけた。
「え、ああ、うん」
どこかはっきりしない返事だったが、納得してくれたと判断していいのだろう。これでもう一つの問題も解決できる。
「じゃあ真嶋さんのところに行きましょう」
俺たちは立ち上がり、部室から出ようとしたのだが、
「ちょっと待ってよ!」
姫に制止をかけられた。
「何だ?」
「何だ、じゃないわよ!私たちはどうなるのよ、ここまで言っておいて放っておくわけ?」
ああ、そういうことか。
「悪いが今は時間がない。もういい時間だし、あんたらも帰っていいぞ」
「・・・・・・」
俺の言葉に姫は絶句していた。
「か、帰っていいのか?教師や警察に言わないのか?」
「それでは約束に反します。あなたたちは素直に白状してくれましたし、今日は止めておきます。また明日にでも詳しい話を聞かせて下さい。あなたたちの処分はそれから決めましょう」
「逃げるかもしれないぞ」
そうなったら困るな。しかし、困るのはお互い様だろう。
「逃げたら警察に言うだけだ」
その言葉を最後に俺たちは部室を出て、学校を後にした。
「あんた、いつから気が付いていたの?」
校門を出た直後に拾ったタクシーの中で天野が口を開く。主語がないが、おそらく今回の事件のことだろう。連中がこの事件の黒幕であることを気がついたのはいつか、ということだろう。
「怪しいな、と感じたのは、罰則なしだったことがきっかけだな」
何でそんな条件を出したのか。それは、そこまでしてでも犯人を捕まえたかったということだろう。やってないことも知っているわけだし、罰則を与えるのも忍びなかったのかもしれないな。
「それにしてもかなり無茶な作戦でしたね。テーマからして無茶苦茶でしたが」
そいつに関しては天野に言ってくれ。今すぐというのが天野からの要望だったのだ。無茶をするしかなかった。
「結局世界の逆位置ってどういう意味だったんだ?ブラフは解るが」
「世界はタロットで、正位置は完全・総合・成就です。逆位置は未完成・臨界点・調和の崩壊です」
つまり、未完成な推理を強気のブラフでごり押しして何とかしようというわけだ。ちなみにブラフはそのまま、はったり。
「言っておきますけど、さすがの私も警察を動かせるようなコネはありませんよ。日向さんはあるかもしれませんが、彼女はあまり日向の権力を使いたくないと思います。この作戦の成功率は結構微妙だったと思います。そもそも、勝手に彼女の名前を使ってもよかったんでしょうか?」
まったく、岩崎の言うとおりである。反論の余地はない。
だが、ギャンブルというのはこういうもんじゃないのか?ポーカーなんて特にそうだ。手が悪いので負けを認めます。これではポーカーは成立しない。勝てるものも勝てやしない。強気にベットして相手を引かせる。これこそポーカーの醍醐味だ。今回のは見事にそれがはまった。
「それで、どこに行くんだ?」
麻生が天野に聞く。タクシーは目的地に向けて走り続けている。しかし、まだ目的地を聞いていない。
「もうすぐ着くよ」
「もうすぐって、この辺りは・・・」
と、岩崎が言っている間に、タクシーは停車した。俺たちは追い出させれるように車外に出された。そこは想像通りの場所だった。タクシーの走る道を見ていた限りここに向かっているのではないか、と頭の隅で考えていたのだが、まさか本当にここにくるとは思わなかった。
そこは真嶋の家だった。
「どういうことですか、天野さん。ここは真嶋さんのおうちじゃないですか」
「真嶋はここにいるのか?そんなわけないだろう」
「ここにいるか解らない。でも聞けば解るよ」
意味の解らないことを言い、インターホンを鳴らした。すると中から使用人が出てきて、天野と話し始める。どうやら天野は使用人とも認識があるらしい。少しの間会話をしていたのだが、しばらくすると天野の話を聞いた使用人が室内へと消えてしまった。
「どういうことなのでしょうか。確か、どこにいるか解らないと家の人は言っていたはずですが・・・」
俺にも解らんが、何やら裏がありそうだな。口上通りの展開ではないようだ。
「入っていいって」
再び外に出てきた使用人と、二言三言会話した天野はこちらに振り返り、了承をもらったことを報告する。俺たちは言われるがままに中に入った。
岩崎も麻生も、頭上に大量の疑問符を浮かべていたが、俺はぼんやりと自体を理解し始めていた。どうやら俺たちは騙されていたみたいだ。
天野に先導されて、俺たちは屋敷の中を進んでいく。その進行順路は俺の予想通りの場所へと向かっている。ちなみに一回目に来たとき招待されたリビングはとっくの昔に通り過ぎてしまっている。二回目に来たとき、案内された場所が今日の目的地で間違いないだろう。
そして、天野は一つのドアの前で立ち止まる。そこはあやかとひらがなで書かれたネームプレートがかけられている場所。天野がノックをする。
「はい」
中からの返事を確認すると、天野はドアを開けた。そこには、
「久しぶりだね、綾」
そこにいたのは真嶋綾香で間違いなかった。
「二日ぶり、沙耶」
「真嶋さん!今までどこにいたんですか?探しましたよ!」
「ごめんね、岩崎さん」
ものすごい勢いで真嶋に飛びつく岩崎。それを申し訳なさそうに受け入れる真嶋。そんな美しい光景を見て、麻生が一言。
「結局どういうことなの?」
推測される答えは一つ。
「つまり、今回の行方不明騒動は、真嶋家ぐるみで仕組んだ芝居だったということだろう」
「芝居?家ぐるみで?何のために?」
そいつは俺にも解らない。しかし、本人が目の前にいるんだ。正解は本人の口から聞こうじゃないか。天野も解っていたようだったから、別に天野でもいいが。
「それで、何で行方不明なんか・・・。ずっと家にいたんですよね?」
「全部あたしのせいよ」
岩崎の質問に答えたのは、天野だった。真嶋は申し訳なさそうに俯く。
「ケンカのことですか?」
思い当たるのはそれくらいか。しかし、天野はあっさり否定して、
「違うわ、成瀬のことよ」
ここまで来て、まだ俺が関わっているのか。
「そうでした!成瀬さん、思い出したんですか?」
何も思い出さないな。相変わらず、こいつらとの思い出など記憶にない。
「本当に駄目な人ですね!今すぐ思い出して下さい。そして二人に謝って下さい!」
こいつは無茶ばかり言いやがるな。そんな簡単に思い出せるなら、とっくに思い出している。謝らねばならないなら、謝ってもいいが、実際俺が頭を下げる理由がないのだ。今のところな。
俺と岩崎のやり取りを見ていた天野が静かに笑う。そして、
「成瀬は何も知らないと思う。それに、謝られることもないの。むしろ逆」
「え?そうなんですか?」
そらみろ!と言ってやりたいのだが、真相が解らない以上、あまりでかい口を利くのはよろしくない。
「話してくれるんだろ?」
天野と真嶋は同時に頷いた。
「ちょっと長い話になると思うけど」
構わん。これまで結構な時間振り回されているんだ。もう時間を惜しむ気も失せたね。毒を食らわば皿までも、だ。
「あたしと綾は同じ中学出身なんだけど、もう一人同じ中学の娘がいるの」
天野と真嶋が同じ中学なのは知っていた話だ。つまり、そのもう一人が重要な人物なのだろう。
「中学のころからよくいじめられてしまうような娘で、あたしたちが庇ってあげたことがきっかけで仲良くなったの」
仲良くなってからは、天野と真嶋がいつも一緒にいたため、いじめられるようなことはほとんどなくなったのだが、高校に入って、あまり一緒にいられなくなったため、またしてもいじめに巻き込まれてしまったらしい。それが去年の話だ。
「様子がおかしいことに気が付いたあたしたちは、その理由を何度も聞いたの。だけど結局教えてもらえなくて、あたしたちは行動に出ることができなかった」
当時のことを思い出しているのか、二人の顔には影がさす。力になれなかったことを悔やんでいたに違いない。
「それがある日突然元気になっていて、そのとき初めていじめに巻き込まれていたことを聞いたの。次に何かあったら絶対に相談して!って言ったら『もう大丈夫。信頼できる人たちを見つけたから』って言われて。それがあんたたち、お悩み相談委員会だった」