その36
真嶋探してヤツの元へ。そして次回、いよいよ部室荒らし事件解決!?
「結局手がかりなしだ」
「そうか」
麻生がこんな電話をかけてきたのは、ホームルームが終わった直後だった。簡単にいくとは思わなかったが、やはり現実は厳しい。これは結構手詰まりかもしれない。正直、天野が思い当たるところにいなければ、俺たちには探しようがない。付き合いが短い俺たちには真嶋の行動範囲が解らないからな。
「どこか心当たりあるか?」
俺は岩崎に話しかける。
「これといってありません。真嶋さんとは例のショッピングモールくらいしか遊びに行っていないので・・・・・・」
俺も同感だ。ん?いや、待てよ。
「麻生、ショッピングモールには行ったか?」
「ああ、この前行ったところだろ?行ったよ。全フロア回ってみたけど、発見できなかった」
「そこじゃない」
そこにいるかどうか解らないが、いてもいなくても手がかりがあるのは間違いないだろう。善は急げだ。とりあえず行ってみよう。あまり行きたくはないが。
「俺たちも今から行くから、とりあえずショッピングモールで落ち合おう」
「解った」
俺は麻生との会話を終えると、すぐさま帰宅の準備を始めた。
「またショッピングモールに行くんですか?麻生さんたちが行ってみたんですよね?」
「いや。俺たちが行くのはショッピングモールじゃない」
またしてもあいつの言うとおりになってしまうわけだが、仕方ない。行きたくて行くわけじゃない。もうなりふり構っていられないんだ。割り切ってしまうしかないだろう。
「じゃあどこに行くんですか?」
最近ショッピングモールには二度ほど行ったが、その両方で遭遇してしまった気に食わないあの野郎のいるところだ。その場所はどこだ?決まっている。
「占い館だ」
目的地であるあいつの仕事場へ到着した。めでたく合流することができた麻生から一言。
「何でここなんだ?」
正直、プライバシーな事ではあるのだが、そんなことを言っていられるような状況じゃない。
「真嶋はよくあいつの占いを受けていたそうだ。頻繁に相談に来ていたんだと」
誰から得た情報かは聞くなよ。あまり言いたくないんだ。問題はそこじゃない。あいつがいい情報を持っているかどうかだ。とりあえず行こう。時間は限られているんだ。
俺たち四人は一緒に中に入った。
「またお会いしましたね」
そいつはまったく驚いた様子もなく、穏やかな表情で俺たちを招いた。
「あんたの言ったとおりになったな。占いどおりか?」
「あれは勘ですよ。だから偶然かもしれません」
偶然ね。相変わらずいい響きだ。
「それで、今日はどんな御用ですか?確か、占いは信じないとおっしゃっていたと思いますが」
確かに言った。もちろん占ってもらいに来たわけじゃない。
「私たちは真嶋さんのことを聞きに来ました」
岩崎のその言葉で占い師の表情が真剣なものになる。
「彼女に何かあったのですか?」
俺のほうを見るな。自分に非があったことくらい、理解しているつもりだ。ああ、悪かったな。
「なるほど。皆さんはお知り合いだったのですね」
そんなことはどうでもいい。
「今、真嶋さんと連絡が取れないんです。何か心当たりありませんか?」
言葉だけを聞けば、日常的にある話である。しかし、岩崎の様子は日常のそれとかけ離れている。
「音信不通ですか・・・」
占い師の言葉にも重さが加わる。こいつは異常なまでに真嶋の同行を気にしていたからな、何か思い当たる節があればいいが。
「ふむ」
占い師は何かを納得したように頷いた。
「皆さん、彼女をとても心配してらっしゃるみたいですが、彼女とはどのような関係なのですか?」
「友達です!」
岩崎と麻生が即座に答える。
「あたしは綾の・・・」
少し躊躇ったあとで天野は、
「あたしは綾の親友です!」
占い師は俺のほうに視線を移す。今度は俺の番か。真嶋との関係だって?クラスメート以外にあるわけない。俺がそう言おうとすると、占い師は黙ったまま微笑んだ。
「解りました。しかし、私も一応プロとしてここにいます。仕事で関わった人たちの情報を自ら口にするわけにはいきません。ですので、私の答えられる範囲で質問を受けましょう」
面倒なやつだ。一大事だと言っているだろう。そんな中途半端なプロ意識は今必要としてないんだよ。だが、こんなことを思っていたのは俺だけだったようで、早速質問を開始した。
「真嶋さんからの相談は一体何だったのですか?」
岩崎の質問はど真ん中直球だった。
「その質問には答えられません」
やはり直球過ぎたようだ。しかし、
「ですが、ヒントくらいなら」
「ぜひ教えて下さい!」
占い師は右手を上げ、俺を示す。
「成瀬さん、ですか?」
「そうです。彼がヒントです」
解らん。というか、漠然としすぎている。これで解るやつがいるとすれば、天野くらいだが、
「・・・・・・・・」
天野は腕を組んで考え始めた。
「何だかとてもよくない予感がするんですけど」
よくない予感とはいただけないな。岩崎も勘がいいので、かなり嬉しくないことだが、俺にとってもよくないことなのだろうか。岩崎だけがよくないのなら別に構わないのだが。
「これ以上は言えませんね」
「ますます嫌な予感がするんですけど!」
何だよ、嫌な予感って。怖いからこれ以上言うな。
「綾が来なくなったのはいつですか?」
天野から妙に意味深な質問。どういう意図からの質問だか想像もつかないのだが、おそらく天野は何か閃きつつあるのだろう。
天野の質問に対して占い師が具体的ない日付を答える。そして、
「その相談を一番最初にしたのは?」
「彼と一緒に来たときです」
そればかり言うな。俺と真嶋が二人で来たみたいじゃないか。まあ、ここには二人で来たのだが、一応麻生と岩崎も一緒に来たのだ。何でそれを知っている岩崎が驚いているのだろうか?
「それっていつ?」
天野の質問の矛先が俺に向く。
「あれは確か、真嶋の家に行った次の日だ」
「あたしと綾の家で会った日の翌日?」
「ああ」
確かにあの日も真嶋は様子がおかしかった。相談することがないと言った直後に、自分の言った言葉を否定して相談に行ったのだ。その間、俺と一緒に喫茶店にいたのだが、特に思い当たる節がない。あまり他愛のない世間話だったような気がするのだが。
「綾の相談の内容は自分のことじゃないですね?」
天野の質問がさらに具体的になる。どうやら閃きつつあった何かが具体的なものとなろうとしているようだ。
「はい。彼女自身のことではありません」
占い師は天野の表情とその質問を聞き、静かに微笑んだ。
「どうやらここまででいいみたいですね。彼女の悩みを取り除いてあげて下さい。私にはできませんでしたが、あなたたちならできると思います」
こうして一方的に退場させられてしまったのだが、やはり無駄ではなかったように思える。
「結局居場所についてのヒントはもらえませんでしたね」
「どこに行ったか知らなかったみたいだったからな」
岩崎と麻生はがっくり肩を落としている。時間ももう時間だ。若干日は沈み始めている。できれば今日中に解決したい。次の行動に移るなら早いほうがいいのだが、
「何か解ったか?」
俺は天野に聞く。今回の件で頼りになるのは、やはりこいつしかいない。
「最近綾の様子、おかしかったよね?何かあった?」
俺の質問は一切無視して、こんなことを聞く。いらっときたが、ここでこいつの機嫌を損ねてはいけない。
「そうですね、確か、うちに部室荒らしが入った日の翌日から、何だか考え事をしている時間が増えたような気がしましたね」
「そのあと何かあったの?」
そのあと、とは部室荒らしを発見したあとのことだろう。あのあと、真嶋の家に行って、今後のことを話して解散した。そのときは別に変な様子はなかった。
「帰りはタクシーで、成瀬さんと二人っきりになりましたが」
何だ?俺のせいだと言いたいのか?俺はあいつの機嫌を損ねるようなことはしてないぞ、たぶん。
「俺は天野が心配している、と教えてやっただけだ」
あの日、天野はうちの部室に来た。真嶋に頼まれたから、という理由だったが、そいつは口実で、本当は真嶋が俺たちに何か妙なことをされているのではないかと疑って、その真意を探りに来たのだ。
「だから悩み事があるなら天野に相談してやれ、と言った。それだけだ」
天野が解らなければお手上げだ。警察に厄介になるしかないのだが、果たして。
「あたし、たぶん解ったよ」
どうやら当たりを引いたようだ。期待しているぜ。
「本当ですか?真嶋さんの居場所は?」
「具体的な場所は解らないけど、それは平気」
「では、今からそこへ向かいましょう。時間がありません。天野さん案内お願いします」
「条件があるわ」
「は?」
何を言っているんだ?さすがに予想外だぜ。
「あたしは綾の居場所がだいたい解った。あんたたちに教えてもいいけど、条件があるわ」
意味不明にもほどがあるぞ。何でそんなことをしなくてはならない。
「どういうことですか?居場所が解ったのなら早くそこに行きましょう。真嶋さんが心配ではないのですか?」
「心配ないわ。綾は安全だと思う。だからあんたたちが今考えるのは、伸るか反るか、二つに一つ。どっち?」
天野は真嶋の場所が解ったという。その上でこの質問。ここは乗るしかないだろう。
「いいだろう。条件を言え」
「部室荒らしのこと、まだ調べているんでしょ?それって、まだ解決してないって事だよね?」
「ああ」
「じゃあ、あたしの前で真実を暴いて見せて。真犯人と呼べる人を捕まえて見せて」
天野はどこまでも真剣だった。真嶋の居場所と部室荒らし、どう繋がるのかさっぱり解らないが、天野は冗談で言っている訳ではないようなのだ。
「成瀬さん・・・・・・」
できなくはない。だが確実にできるかと問われれば、それはどうか解らない。
「どうなの?やるの?やらないの?」
これで失敗したらどうなるのだろうか。相手次第なのだ。こればかりは予想がつかない。自信なんてものは最初からない。しかし、やらないわけにはいかないだろう。サレンダーなんて選択肢は選べるはずがない。
「いいだろう。あんたの目の前で真犯人を捕まえて、あんたと真嶋にプレゼントしてやる。リボン付きでな」
「成瀬さん、大丈夫なんですか?」
知らん。だが、やるしかないだろう。
「今すぐ動かないと間に合わない。説明は移動しながらだ。今回の作戦のテーマは『ブラフと世界の逆位置』だ」