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その35

最後の推理ポイントです。成瀬と一緒に考察してみて下さい。お料理ナビ並に丁寧に説明してくれています。簡単です。

 結局真嶋は家に帰ってこなかったようだ。これは今朝天野から聞いた話だ。いよいよもって大変なことになってきたな。


「家の人は何て言っていたんだ?」

「今日はとりあえず様子を見るって」


 結構冷静な人たちだな。普通娘が連絡もなく丸一日帰って来なかったら、かなり慌てると思うが。まあいい。考え方は人それぞれだ。真嶋家の人たちはまだ慌てるような状態ではないと考えているのだろう。それで、俺たちはどうしようか。


「心配ですねえ。私も連絡をとろうと思ったのですが、結局繋がりませんでした。公衆電話や寮の電話も利用したのですが、駄目でした」


 つまり、天野や岩崎とだけ連絡を取っていないのではなく、誰とも連絡を取っていないのだろう。電話での接触は諦めたほうがいいな。


「あたし、学校休んで探してみるよ。じっとなんかしてられないし」


 天野はとうとう行動に出るみたいだ。昨日からかなり焦れていたみたいだし、おそらく止めるだけ無駄だろう。だが、一人で行かせるのは気が引ける。別に危険ではないと思うが、今の天野は冷静な判断が下せそうにない。誰かもう一人くらい一緒に行ったほうがいいだろう。当然俺は無理だろうし、岩崎も無理だろう。となると残っているのは、一人しかいないのだが、


「俺も一緒に行こう」


 自ら決意してくれたのか、俺の心を読んだのか解らないが、麻生が口を開いた。よし、行ってこい。


「昼ごろ、一回連絡を入れろよ」

「解った。じゃあ行こう」

「うん」


 二人は早速教室から出ていった。荷物を置いたまま。


「私たちは何をしましょうか?」


 真嶋のことに関しては、ここでできることはない。


「とりあえずはあいつらに任せて、連絡を待とう。こっちはこっちでやることもある」


 まだ部室荒らしの捜査が残っている。もう調べることはほとんど残ってないが、そっちをやらなくてはならない。


「見つかるといいですね」

「ああ」


 直後、担任が教室に入ってきて、ホームルームとなった。



 そして昼休み。四限が終わった瞬間に、岩崎は麻生たちと連絡を取っていた。結果は、


「まだ何も解っていないそうです」


 おそらく天野の指示で、真嶋が行きそうなところを回っているのだろう。確かにそれくらいしかできることはないのだが、あまり成果は期待できそうにないな。だが、頼りになるのは天野のひらめきしかない。二人には頑張って走り回ってもらおう。


「あの」


 俺と岩崎が深刻そうに話していたからか、話しかけにくそうな雰囲気で声をかけてきたのは三原と戸塚だった。


「これ、南京錠なんだけど」


 もう手に入ったのか。確か聞いたところによると、警察に押収されていたようだが、こんな早く返ってくるとは。


「ありがとうございます。すみません、無理言って」


 言ったのは俺だ。代わりに謝られると、保護者みたいだから止めてもらいたい。


「悪いな」


 俺も適当に謝っておく。


「ううん。迷惑をかけてるのは私たちだから」


 まあ確かにそうなのだが。


 結局最後まで三原だけがしゃべり、戸塚は背中に隠れたまま二人は去っていった。二人の関係も、何だか不思議な関係だ。以前ふざけて通訳とかスポークスマンとか例えたが、本当にそうなのではないだろうな。


「それにしても、」


 手元に来た貴重な物証を見る。そこら辺のスーパーやコンビニには売ってないような、かなり大きな南京錠なのだが、ものの見事に破壊されていた。破壊された、とは聞いていたがこいつはまたすごいな。


「これはひどいですねえ」


 三十分くらいかかるというのが警察の見解だったが、三十分でここまで破壊できるのか?正直もっとかかる気がするね。それくらい見事に破壊されていた。破壊というより、鋳潰そうとしていたのではないか。


 おそらく細くて硬いもので殴られたのであろう、南京錠は原型をなくしていた。正直、よくここまでやったと思う。ここまでやらずとも開錠できるだろう。というか、フックの部分をのこぎりか何かで切り離してしまえば一番早い。やった人物にそういう発想はなかったのだろうか。


「鍵穴も潰されているな」

「そうみたいですね。ドライバーか何かで突っついたみたいになってます」


 犯人は何がしたかったのだろうか。開錠するだけなら南京錠自体を破壊する、もしくは鍵穴を破壊する、のどちらかだけでよかったはず。なぜ両方やったのか。



 俺は授業中も南京錠とにらめっこしていた。こいつにしてもそうだが、今回の事件おかしなことがいくつかある。


 まず一つは動機だ。精神的な攻撃というのが一番有力な見解だが、誰がターゲットかよく解らない。そんな攻撃で狙い通りのダメージを与えることができるのだろうか?もし俺に誰か恨んでいるやつがいるとして、そいつに精神的ダメージを与えるならば、そいつがターゲットであると誰の目にも明らかな方法をとる。少なくともそいつ本人には解るようにやらなければ意味がない。


現在体調不良が原因で学校を休んでいるのは女子バスケ部に一人だけ。事件直後でさえ、各部に一人ずつで、そのうち一人は占い研に促されて休んだということが解っている。つまり部室荒らしによって明らかにダメージを負った人がほとんどいないのだ。周りに言わないで黙っている可能性もあるが、隠せるようなダメージなら大したことないし、毎日授業に出ているなら何も問題ないと言えるだろう。

 

特定のターゲットがいたわけでなく、不特定多数を狙った通り魔的なものだとしても同じだ。これもダメージを負った人があまりいないことが不自然だ。納得できる動機ではない。


 では愉快犯という線はどうだ?これも現実的ではない。思いつきでやったとは思えないほど緻密な計画がいるし、南京錠の破壊がとても面倒だ。そんなやつが三十分間も南京錠を叩き続けるとは思えない。南京錠に並々ならぬ恨みがあるやつくらいしかやらない気がする。


 と待てよ。考えてみれば今回の事件、単独犯じゃありえないじゃないか。五時から六時までの間で、三つの南京錠を原型なくなるくらい破壊して、そのあと部室を荒らすなど、たった一人でできるはずがない。こんなことは誰でも少し考えれば解るはずだ。何で解らなかったんだ。最初からあいつ一人が犯人であるはずがなかったのだ。


 いや待てよ。そうとも言い切れないか。例えば何らかの手段を用いてあらかじめ南京錠を開錠して・・・・・・、いやいやそれじゃあ南京錠を破壊する意味がない。


 どうにも考えがまとまらないな。的を絞って考えることにしよう。


 まずは南京錠の破壊だ。どう考えても南京錠の破壊がネックなのだ。なぜ破壊したのか。ピッキングやフックの切断では得られない何かがあったというのだろうか。そもそも何で南京錠を現場に残していったんだ?見つかるとは思わなかったのか?そりゃあいくらなんでも楽観的過ぎる。ポケットにでも入れて持って帰り、家で処分するばいいだけの話。別に面倒じゃない。


 ということは、見つけてほしかったのか?南京錠が見つかることで、犯人に利益があったとすれば・・・・・・。アリバイか。


 破壊された状態の南京錠が見つかることで犯行時刻が狭められた。残りの五時から五時半までの間にアリバイがあれば、容疑者からはずされる。だが、南京錠をあらかじめ別の場所で破壊していれば話は違ってくる。こうなると破壊に要した三十分という時間に意味はなくなる。当初の犯行時刻五時から六時十分に戻るのだ。南京錠の破壊の理由はアリバイトリックだ。犯人はこのアリバイトリックによって守られる五時半から六時十分の間に犯行を行ったんだ。


 そうなるとさっきの考えが俄然正しくなってくる。犯人はあらかじめ何らかの手段を用いて南京錠を開錠し、別の場所で破壊したんだ。

 

 その手段について、一番最初に考えられるのは本物の鍵を使うことだ。鍵の入手はそれほど難しくない。うちの高校はある程度誰でも鍵を手に入れられる。だが、用心深いやつならこの手は使わないだろう。例の部室棟の鍵は事務室に保管してある。事務員がいなくても名前と部活名をしかるところに記入すれば勝手に借りることができる。しかし、もし万が一事務員がその場にいれば、ちょっと厄介だ。男だったらまず借りることはできないだろうし、ある程度時間帯にも気を遣わなければならない。加えて事務員が部活動についてどの程度情報を持っているか解らないのだ。事務室内に各部活のタイムテーブルが存在するかもしれないし、部員名簿があってもおかしくはない。何しろ未知なる部分が多すぎる。他に手があるなら別の手段を使うだろう。

 

 ピッキングという線はどうか。南京錠用のピッキングがあるのか知らないが、まああってもおかしくはないだろう。技術についてもインターネットを駆使すれば探せるんじゃないだろうか。問題は作業時間だが、そんなにかからない気がする。だが、もう一つ問題がある。想像してもらいたい。女子運動部の部室のドアの前で、しゃがみこんで何やら作業をしているやつを見たら、一般人はどう思うだろうか。この作戦、なかなか悪くない案だが、作業現場を見られた瞬間、両手に手錠がかかる。先ほど同様、用心深い連中なら使わないのではないか。

 

 うーむ、難しいな。やはりどこかで間違えたのだろうか。だが、何度考察し直しても、どうしてもここに戻ってきてしまう。となると、まだ別の手があるということだ。本物の鍵を使わず、ピッキングも使わず、見た目怪しくなくて、なおかつ時間がかからない方法。合鍵・・・は無理だろうな。本物の鍵か南京錠が手に入ればできなくはないが、そもそも南京錠の合鍵を作る人がいるのだろうか。できなくはないだろうが、そんな人ほとんどいまい。犯人としては目立つ行動は避けたいはずだから、この手段を使うとは考えにくい。それ以前に本物の鍵か南京錠が手に入るなら、とっくに中に入れるってもんだ。待てよ、合鍵が無理なら・・・・・・。


「・・・・・・・・・」


 何か閃いたような気がする。これなら全ての問題をクリアすることができる。方法としては結構できる人が限られてくる。俺では到底不可能な手段だが、この方法が使える人物に心当たりがある。

 

 俺はノートの上にある南京錠の成れの果てを見ながら、仮説を補強していく。正直、これで間違いないだろう。というかこれ以外に思い当たらない。

 

 だが、やはり証拠がないな。おそらく間違いないのだが、現時点ではまだ妄想と同じだ。

証拠ねえ。見つかるだろうか。



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