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その32

さらに自体は加速します。ようやく推理要素が出てくるかも。

 翌日の昼休み。俺は昼食を摂りながら、昨日の放課後聞いた話をかいつまんで説明してやっていた。


「なるほど。かなりの有益な情報ですね」


 ちなみに、連中の裏切り云々のことは言ってない。この考えは無駄に頭を悩ませる。今俺がその状態にある。自ら面倒なことを呼び込んでしまった。失敗したと後悔している。


「やっぱり何か隠していると考えて間違いないでしょう。このあとどうしますか?」


 それについても悩みどころである。正直手段はあまり残されていないのだが・・・。


「?」


 廊下が騒がしい。昼休みの廊下は普段から騒がしいのだが、それを考慮しても騒がしすぎる。


「何かあったんですかね?」


 岩崎も気になったようで、箸を置くと、立ち上がった。ドアからひょいと顔を出した岩崎だったが、


「!」


 外を覗いた瞬間顔色が変わった。どうやら何かあったらしいことは間違いないようだ。


「どうしたんですか!二人ともちょっと落ち着いて下さい!」


 何かを見た岩崎は、叫んで教室から勢いよく出て行った。ただ事ではないみたいだ。俺も廊下へ行ってみた。すると、


「・・・・・・・・・」


 真嶋と天野がにらみ合っていた。いや、にらんでいたのは天野だけで、真嶋は泣きそうな顔をしてうつむいていた。詳細は解らないのだが、どうやら二人の不仲が目に見える状態で出てきてしまったらしい。


「落ち着いて下さい、天野さん。何があったんですか?」


 真嶋を庇うように、天野の正面に立つ岩崎。さすがに暢気に見ていられる状況ではないらしい。


「どうした?何か問題か?」


 俺は後ろから真嶋に話しかけた。


「あ・・・・・・、成瀬」

「あんたのせいよ!あんたがこんなやつじゃなければ!」


 同時に俺に気が付いた真嶋と天野が、それぞれのリアクションで俺を向かえた。現状の原因は俺みたいだな。いないところでもアクシデントに巻き込まれるとは、いよいよ偶然が信じられなくなってくる。


 俺の登場で、いっそうヒートアップする天野を岩崎が抑えている。自分の無能さについてはいろいろ理解しているが、そんなことをここで説教されても困る。


「こんなやつで悪かったな。だが、俺がどんなに無能でも真嶋に当たる道理はないぞ」

「うるさいわね!あんたがあたしたちに何してくれたか解っているの!それであたしたちがどんな気持ちになったか、解る?」


 解る訳がない。そもそもあんたたちに何かした覚えがないからな。


「恨み言なら口に出せ。でないといつまで経っても伝わらないぞ」

「黙りなさい!」


 天野の叫びは廊下中に響き渡った。


「何も理解してないくせに、偉そうな口利かないで。これ以上綾に近づかないで」


 捨て台詞のように言い捨て、天野は去っていった。最後まで殺気を放っていた天野だったが、去り際に見せた一瞬の表情はどこか悲しげだった。


 結局半分も理解できないまま事態は収束し、廊下もいつもどおりの騒がしさに戻っていった。


「それで、何があったんですか?成瀬さんが話の中心だったみたいですが」


 岩崎は真嶋に尋ねた。


「成瀬さんが何かしたなら、遠慮なさらずにおっしゃって下さい。土下座でも切腹でもさせますので」


 何言いやがる。誰が腹切りなんかするか。偉そうなやつだ。何度も言うが、俺には一切覚えがない。だが、どうやらかなり重大なミスをしでかしてしまったらしい。無意識のうちにそんなひどいことをしてしまうとは、俺自身さすがにやばいと思う。事の次第によっては謝ってもいい。


 俺としては、とにかく教えてほしかったのだが、真嶋は、


「成瀬は悪くないよ。でも沙耶も悪くないの。だから沙耶のこと嫌いにならないでね」

「・・・・・・」


 こう言われては、俺も岩崎も黙るしかない。何だが真嶋の性格が解らなくなってしまったのだが、この件はまたしてもうやむやな形で終わってしまった。




「とうとう目に見えてすれ違ってしまいましたね」

「ああ」


 放課後になってもこの話題のままだった。当然ながら真嶋はいない。用事があると言っていたが、おそらく嘘だろう。


「今まで外見上は仲良くしていたんですけど、あのときどんな会話があったのでしょうか?」

「さあな」


 よくない方向であるのは間違いないだろう。何がよくないって、俺が無関係でないところだ。


「本当に心当たりないのか?」


 麻生も話に加わってくる。何度も言っているだろう。ないものはない。そもそもこの学年に上がるまで、二人と接点がないんだ。何かするなど不可能だろう。だが、何かしたのはもはや確実だ。困ったものだ。


「天野さんの様子ではかなりひどいことをしたみたいですが」

「だったな」

「もう!この期に及んでまだ他人事なんですか?成瀬さんが原因であることはもはや言い逃れできない事実なんですよ!」


 他人事であるつもりはないが、自分が当事者であるという感覚もない。


「どっちにしろ、謝っただけでは許してくれそうにない状態だったからな。解決しようもないな」

「暢気なこと言ってないで、さっさと思い出して下さい。このままでは本当に仲悪くなってしまいますよ」

「お前のせいでな」


 嫌なやつらだ。そう急かすなよ。そんな目で見られたって思い出さないぞ。こういうのは自然に思い出すのを待つしかないんだ。


 まったくいい身分だな、お前らは。立場的にはあまり変わらないのに、なぜ俺だけここまで責められなくてはならないんだ。仲たがいの原因が当事者じゃないってそうそうない状況だぞ。それにしたって、俺の言い分を少しは認めてくれたっていいじゃないか。俺がないって言っているのに、麻生も岩崎も天野の言うことばかり信じやがって。付き合いの長さじゃ俺のほうが上なのに、情のないやつらだ。


 俺の居場所であるはずの部室で、四面楚歌状態を味わっている俺。ストレスで頭がどうにかなりそうになってきたとき、またしてもドアが叩かれた。今度は誰だ?何度も言うが、ノックをするやつに心当たりはないぞ。


「はい、どうぞ。開いてますよ」


 岩崎がノックに応じる。そして、入ってきたそいつを見て、


「あなたは・・・・・・」


 どうやら知っているやつだったようだ。まあ、岩崎が知っているやつは数知れないので、今更どうでもいい話だが、ただの知り合いではなさそうだ。


「誰だ?」

「この人、部室荒らしの犯人です」

「は?」


 一体何なんだ?調べていたときには、一切出てこなかったくせに、止めた途端これか。いい加減にしてもらいたいね。


「我々に何の用ですか?」


 入ってきたそいつに尋ねる岩崎。今更どんな話があるというのだろうか。言っておくが、中途半端な情報ならお断りだぜ。面倒はごめんだからな。


「俺、部室荒らししてません!」

「・・・・・・」


 とりあえず最悪なことを言った。こいつの言い分が正しいのか解らないが、とりあえずまたしても事態は動き出そうとしていた。




「何で今更、しかも俺たちにそれを言うんだ。捕まった時点で占い研のやつらと教師に言えよ」


 当然の話だ。捕まって、犯人だとつるし上げられたあとにこんなことを言っても誰も信じちゃくれないぞ。


「そうですけど・・・」


 自分の言い分が無茶であることを理解しているのだろう、そいつは俺の言葉に小さくなってしまった。


「でも、信じて下さい!本当にやってないんです」

「信じてほしけりゃ、相手が信じてくれるように話せ」


 あの麻生ですらこう言っている。それほどこいつは無茶苦茶言っているんだ。


 勇気を出してここに来たのだろう。それなのにこの罵倒の嵐。まだ歯を食いしばって耐えているが、そのうち泣いてしまうだろう。厄介なやつが来てしまったなと思った俺だったが、こいつを信じてやってもいいような気になっていた。こんな弱虫が部室荒らしなんかするだろうか。


「とりあえずあったことを話せ。信じる信じないはそれからだ」


 俺の言葉に、黙って頷くと、そいつはゆっくり話し始めた。


「捕まった前日に占い研究会の人たちに呼び出されたんです。そしたらいきなり、君が犯人だろう、と言われました。俺は違うと言ったんですけど、なぜか俺があの時間に部室に入っていたことを知っていて・・・・・」


 いきなり理解できない。


「あなたはあの日のあの時間に部室にいたのですか?」

「はい。バドミントンなんですけど・・・」

「それなのに部室荒らしはしてないって?」

「はい。してません」


 それは本当なのか?きっと誰に言っても信じてもらえないだろう。


「何で、そんなところにいたんだ?」

「えーっと、呼び出されまして・・・」

「誰に?」

「解らないんですけど・・・」


 話を聞くも失せるね。


「成瀬さん、この話聞く意味あるのでしょうか?」

「無理矢理作った作り話にしか聞こえないぞ」


 口々に言う岩崎と麻生。俺もそう思う。だが、


「最後まで聞いてみよう。新しい情報には変わりない」


 俺としてはこいつの話し方がむかつく。まどろっこしいんだよ。こいつに話させるのは止めようか。


「何で呼び出しに応じたんだ?怪しいと思わなかったのか?」

「あ、いえ。俺、バドミントン部に好きな子がいまして・・・」


 もう解ったみなまで言うな。


「つまりその娘からのラブレターだと思ったわけですね?」


 代わりに岩崎が言った。嫌な話だ。入学してきたばかりで、一体何を考えているんだ。これだからガキは困る。高校にどんな思いを馳せてやがるんだ。高校に入ってまずやることが恋人作りだと思ったら大間違いだ。漫画の読みすぎだ。


「わくわくしながら部室に行ったわけだ。それで相手はいたのか?」

「いませんでした」


 解っている。おそらく嵌められたのだろう。


「騙されたと解ったので、頭に来てすぐに外に出ました」

「鍵はかかってなかったのか?」

「はい」


 間違いない。真犯人に嵌められたな。こいつが言っていることが、本当ならば、な。


「そのことを占い研に言わなかったのか?」

「言いました。けど、誰も信じないぞと言われまして。それどころか入った形跡があるんだから、もし万が一警察が動き出したら、捕まるかもしれないとも言われました」

「・・・・・・」


 確かにそうだ。こいつの言っていることが真実でも嘘でも、部室に入ったのは事実だ。他に当てはまる容疑者がいなければ捕まってもおかしくない。


「ここで認めてくれれば、我々が守ってやる。だから本当のことを言えって言われて仕方なく・・・」


 その結果、あれだけ大きな事件だったにもかかわらず、罰則なしだったわけだ。しかし、占い研のやつら、どんな手を使って教師どもを納得させたのだろうか。そしてもう一つ。


「連中はどうやってお前が部室に入ったことを突き止めたんだ?」


 前にも言ったが、一人の犯人に絞り込むにはかなり重要な手がかりが必要になる。


「未来予知って言ってました」

「・・・・・・・・・」


 いい加減にしてほしいね。そんな冗談誰が信じるんだ。


「もしかして、それを信じて白状したんじゃないですよね?」

「そうですけど・・・」


 こいつは間抜けだ。とんでもない間抜けだ。こんな間抜けを弁護してやる意味があるのだろうか。こいつに過失が多すぎる気がする。


「どう思いますか?成瀬さん」


 真面目に考えるのも嫌になってきた。しかし、ここで放り投げると、ここまで頑張ってこいつの話を聞いたことが全て水の泡になってしまう。


「うちの部室に入ったのもお前か?」

「いえ、あれは・・・」


 これは違うのか?今度はまともな話をしてくれよ。そう思ったのだが、やっぱりこいつは期待を裏切らない。悪い意味でな。


「あれは皆さんが俺を呼んだんじゃないんですか?」


 つまりどういうことかというと、こいつはあの日TCCという団体から手紙が届いたというのだ。内容は、


『君の大事なキーホルダーを見つけた。渡したいから部室に来てくれ。我々はいないと思うが鍵は開けておくから勝手に入って勝手にかばんの中を探ってくれ。ちなみに電気はつかないから、そのつもりで』


 だったらしい。


「それで、お前は素直に従い、電気もつけずに忍び込んだ。そして、俺のかばんの中から限定品のキーホルダーを発見して、ルンルン気分で帰ろうとしたところ、俺たちと出くわし、びっくりしたため一目散に逃げ出した、と」

「はい」


 俺たちは一斉に頭を抱えた。いい加減にしてもらいたい。部室荒らしがあったばかりで、なぜ鍵を解放したまま、どこかへ行かなくてはならないのだろうか。


 そしてこいつはもしかしたら部室荒らしと間違えられるかも、と考えなかったのだろうか。鍵も開いていたわけじゃない。ぶっ壊されていたんだ。いくら暗がりだったとはいえ、ドアに触れているんだ、気付いてもらいたかった。前にもこんなことが、と少しは考えてもらいたかった。この短期間で二度の偽造文書に引っかからないでもらいたかった。


「あのー、もしかしてあの手紙は皆さんが送ったんじゃないんですか?」

「当たり前だ!」


 見せてもらうと、その手紙はワープロソフトを使ったもので、もちろん誰が書いても同じような文字になる。つまり誰が書いたか解らない。


「どうしますか、成瀬さん」


 岩崎は俺に尋ねてくる。こいつの話はこの辺りで全部だろう。全部聞いた上で俺に判断を委ねるらしい。


「成瀬はこいつのいうこと信じるのか?」

「確かに信じにくいですよね。誰かが、知らない人が。こんな証言しているだけの人を信じられるわけありません。仮に真実を言っていたとしても、この人の場合、騙されたほうが悪いと言えるのかもしれませんね」


 確かに間抜けで、俺ならば絶対に騙されなかったと思うが、まあ待て。犯人はこいつが間抜けなことをあらかじめ知っていた上で、こいつをターゲットにしていたかもしれない。そうなると、こいつは狙われた弱者とも言えないもない。それに、


「お前らがこいつの立場だった場合、どうやって自分の無実を晴らす?」

「・・・・・・」


 やってもいない罪に問われ、やってもいないのに妥協点で無理矢理合意をさせられてしまう。こいつは無実を晴らす機会が与えられていないのだ。


「もし警察が動いていたら、無実を証明できたかもしれない。占い研が真面目に捜査したら、真犯人が解ったかもしれない。しかし、こいつはすでに罪を認めてしまったのだ。今更学校側に言っても占い研に言っても、もう聞く耳持たないだろう。そうなると、こいつが頼れるのはTCCだけだ。俺たちしか、こいつの無実を晴らしてやれないんだ」

「確かにそうですけど、信じる意味はあるのでしょうか?我々にメリットはあるのでしょうか?」

「俺は面白いと思うぞ」

「え?」


 岩崎は驚いた様子。麻生も同じような表情をしている。おそらく俺がこんな発言をするとは思わなかったのだろう。あれだけ興味ないと言っていたのだから無理もないか。


「どういうことだ?」

「理由を聞かせて下さい」

「このまま終わればこいつを信じようと信じまいと占い研に完敗なのは変わらない。逆にこいつの言うことを信じて、なおかつそれが真実だったと証明できれば、占い研に完勝な上に妥協点を探って無罪の人間を捕まえたというレッテルを貼ることができる。これはちょっとしたギャンブルだが、伸るか反るか、二つに一つだ」


 まあ、若干ニュアンスが違うが、この二人相手には少し熱いくらいの表現が丁度いい。


「面白そうだ。俺は乗ったぜ」

「そうですね。このまま諦めてしまうよりはずっと面白そうです。私も乗ります。ピンチから一発逆転を狙うのは物語の王道です」


 これでよし。二人とも思ったとおり、賭けに乗ってくれた。


「一応お前の言うことは信じてやる」

「ありがとうございます」

「一つ教えろ」

「何でしょう?」

「占い研の連中に口止めされなかったのか?」


 俺があいつらの立場なら間違いなく口止めする。これは口外されてはならない事実だからな、他言するなというのも条件に加えただろう。


「言われましたけど」

「は?じゃあ何でここに来たんだ?」


 こいつの間抜けっぷり追随を許さなかった。


「先輩に相談したら、そいつはおかしいと言われまして。それでTCCを紹介してくれました」


 どうやら俺たちより前に、すでに誰かに言っていたらしい。下手したら、裏切り行為とみなされ制裁を加えられるかもしれないのに、こうも躊躇いなく口外するとはな。連中もさすがに予想外だっただろう。それにしても、


「その先輩って誰だ?」


 ここを推薦するとは、あまり心当たりがないぞ。その迷惑なやつはいったい誰だ?


「横山先輩です」

「横山さんって、横山大貴さんですか?あの生徒会長の?」

「はい」


 俺もこの名前には聞き覚えがある。それは去年の出来事だ。そいつの名前を聞いたとき、まだ副会長だった。去年の冬に行われた生徒会選挙にてめでたく昇進を果たし、今では生徒会のトップである。


「つまりあなたは空手部ということですか?」

「そうですけど、変ですか?」


 変というか、似合わん。まあどうでもいい。


 とりあえずこの間抜けの持ってきた情報によって俺たちは再び動くことになった。さらに面倒くさいことになってきそうだ。やれやれ。



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