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その2

 それ以来、真嶋と岩崎は仲良くなったようで、二人で談笑している姿をよく見かけるようになった。しかし俺への態度は相変わらずで、いつも不機嫌を隠そうともしないような雰囲気で突っかかってくる。授業中ちらちら俺のほうを見てくるのも変化はない。


 正直あの件で、俺は真嶋と関わることについて身の危険を感じているので、あまり話しかけてきてもらいたくないのだが、なぜだがことあるごとに突っかかってきては文句を言うようになっていた。俺の考えでは嫌いなやつとは関わりたくないので話しかけないのが普通なのだが、真嶋の考えでは違うのだろう。


「真嶋さんの話では、この辺りにとてもよく当たる占い師さんが来ているみたいですよ」


 放課後、開店休業状態の部室で、岩崎はさっそく真嶋からの情報を俺たちに教えてくれた。正直占いなどという全く興味を持てない内容ではあったが。


「友達から紹介されてみたいで、真嶋さんも半信半疑ながら相談に行ってそのとき言われたことを実行していたら、効果があったみたいで!」

「ほー!」


 俺とは違って麻生には少し興味があったようだ。


「まだ日程など詳しいことは決めていないのですが、今度一緒に行こうという話になっています」

「へえ。俺も一度見てもらおうかな」


 何やら二人とも乗り気である。


「麻生さんはどんなことを相談するつもりですか?」

「もちろん恋愛運についてだよ」

「やっぱりそうですよね。私もそれが一番気になります!」


 盛り上がり始めている。二人とも青春を謳歌している高校生そのものといった感じである。

恋愛だ何だということに関してははっきり言ってどうでもいいのだが、何というか、自然に青春を謳歌できるところに関しては、正直うらやましい。俺は恋愛を通して発生する対人関係の複雑化を考えると、どうしても尻込みしてしまう。まっすぐに恋愛を楽しめるところは少しだけ見習わなくてはいけないのかもしれない。


「成瀬さんも今度一緒にどうですか?」


 岩崎が雑誌を広げている俺に話を振ってくる。


「俺はパス。はっきり言って興味ない」

「そんなこと言わないで行きましょうよ!新たな自分と出会えるかもしれませんよ!」


 新たな自分とはいったいなんだろうか。


「俺は行かない!だいたい占いって結構依存性あるみたいだぞ。一度はまると抜け出すのに時間がかかるなんて話をよく聞くし」

「大丈夫ですよ、一回だけなら」


 それはタバコや麻薬を勧めるやつの常套句だぞ。


「でも確かに的中率がいいと中毒になりそうですよね。事あるごとにその人に聞きに行ってしまったり」


 冗談めかして言っているが、結構真面目な話になるな。もしかしたらその真嶋の友達というのもすでに中毒者なのかもしれない。


「冷静になると、ちょっと考えてしまいますね。もうちょっと詳しい話が聞いてみましょう。今度真嶋さんをここに呼んで」


 止めておけ。言っておくがここはお前の私的スペースじゃないんだぞ。


「教室で聞け。それに詳しいことを聞くなら、その友達にも聞いたほうがいいんじゃないか?」

「そうですねぇ。まあとりあえず真嶋さんに聞いてみますよ。明日にでも」

「そういえば、俺の委員会の相方も占いの話をしていたな」

「じゃあ話し聞いておいて下さい」


 いったいなんでこんな話で盛り上がっているのか。俺は一人冷静にこんなことを考えていたのだが、今日の占いトークの盛り上がりはまだまだピークではなかったようで、結局下校時刻までこの話で盛り上がっていた。もちろん俺以外の二人が。




 次の日。俺が教室に着くと、岩崎と真嶋が何やら盛り上がっていて、話に花を咲かせていた。


「あたしも詳しくは解らないけど、結構評判いいらしいよ。値段も相場より安いし。悪い話も聞かないし」

「そうなんですか!ますます興味深いですね、一度行ってみたいです」


 どうやら話の内容は、昨日岩崎が部室で言っていた占いについてであるようだ。朝一で情報収集に走るとは、よほど興味があるらしい。勉強熱心なのはいいことなので、なるべく邪魔はしたくないのだが、俺はこいつに話しかけなければならない。


「おい」


 俺の呼びかけに、二人が同時に反応し、それぞれ違ったリアクションで迎えてくれた。

 

 真嶋は、普通に顔をこちらに向け、呼びかけたのが俺であると知ると同時にそっぽを向いた。岩崎はあくまで穏やかに反応し、


「はい?あ、成瀬さんおはようございます」


 などとのんきに挨拶などしてきた。


「おはようございます、じゃない。そこをどけ」

「え?」


 何を隠そう、岩崎が現在陣取っている席は真嶋の隣、つまり俺の席で間違いない。他の女子なら関わらず、教師が来るまで適当に時間をつぶしていてもよかったのだが、こいつに気を遣うのは少々気に食わない。


「いいじゃないですか、減るものじゃないんですから」


 確かに俺の机とイス自体がなくなるわけではないのだが、生憎場所は無限ではない。俺の居場所をお前が使っていたら、当然俺の居場所がなくなる。


「いいからどけ」


 俺がそう言うと、岩崎はしぶしぶといった感じでイスから立ち上がった。


「情報収集しろと言ったのは成瀬さんなのに」


 岩崎は立った直後にぼそっと言った。聞き捨てならないな。それでは俺が情報を欲しがっているみたいじゃないか。


「あともう少しで予鈴なんですから、それまで貸しといて下さいよ!」

「あともう少しで予鈴なんだから、それまで立っていろ」


 俺の返答が気に食わなかったようで、あからさまに眉毛を吊り上げて俺をにらんだ。いい加減にらんでプレッシャーをかけて後、あきらめたようにふんっといった感じで顔をそらすと、


「いいですよーだ!真嶋さんと占い師さんのところに行ったときに、成瀬さんの来週の出来事のこととかも占ってもらってきちゃいますから!どんな悪相が出ていても成瀬さんには教えてあげませんから!」


 何を言い出すかと思えば、子供じみたことを。


「それは脅しのつもりか?」

「強がっていられるのも今のうちですよ!私は成瀬さんの生年月日も血液型も星座も干支も知ってます!本当に占って来ちゃいますよ!いいんですか?」

「好きにしろ」


 はっきり言ってどうでもいい。岩崎は三文芝居丸出しの大げさな演技で泣く真似をしながら教室から走って出て行った。いったいどこへ行ったのやら。


「あのさ、成瀬」


 声をかけてきたのは真嶋だ。俺は岩崎を追って、教室のドアを見ていた視線を隣の席の真嶋に移動させる。


「何だ?」


 俺が顔を向けるとほぼ同時のタイミングで真嶋は顔をそらした。そして、


「あんた、占いとか興味あんの?」


 と言った。


「は?」


 俺は一瞬真嶋の言っていることが理解できなかった。


「だから、占い一緒に行ってあげてもいいよって言ってるの!」


 意味が解らない。


「何で?」

「何でってあんた興味あるんでしょ?さっき岩崎さんが言ってたじゃない、あんたが情報収集しろって言ってたって!だからあたしが一緒に行ってあげてもいいよって言ってるの!一緒にって言っても、もちろん岩崎さんと三人でって意味だけど、あたしは構わないよ、成瀬が行きたいって言うなら」


 気を遣ってくれているのか解らないが、やはり先ほどの会話は誤解を生んでいたようだ。俺は占いなんて少しも興味ないし、実際信じないと思う。それにいくらだか知らないが、占いなんかに金を払うなど到底考えられない。


 とはいえ、なぜだか知らないがせっかく気を遣ってくれているのだから、こんなことは言えない。


「いや、俺は遠慮しておく」


 俺は短くこう答えた。すると真嶋は、そう、と一言興味なさそうに言うと、俺の顔からそらしていた目線をさらにそらし、俺に背を向ける形で窓のほうを見ながら、


「あたしはまだ一度しか行ったことないからからよく知らないんだけど、詳しいことが知りたいなら何回か行っている友達紹介してあげようか?」


 と言った。


「いや、それもいい。俺じゃなくてあいつに紹介してやってくれ」

「そう、解った」


 窓のほうを向いている真嶋はいったいどんな顔をしているのか解らないが、なぜだか妙に俺に気を回してくれていたようだ。目の前で、岩崎にひどいことを言われていた俺に同情してくれたのだろうか。


「悪いな、気持ちだけ受け取っておくよ」

「べ、別に成瀬のために言ったわけじゃないし。勘違いしないでよね」

「そうか」


 そんなことは解っている。こいつはなぜだか知らないが、俺のことを快く思っていないようだからな。俺自身、自分のことを世界中の誰からも好かれるような超人的な人間だと思っているわけではないから、別に気にしてないが。


「そうよ、別に成瀬のことなんか・・・」


 まるで自分に言ったような真嶋の呟きは、予鈴にかき消されて最後まで聞こえなかった。まあどうせ大したことは言っていなかっただろう。




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