その27
最近あまり時間がなくて、進行具合が良くないです
今朝、犯人が捕まった。
そんな話を聞いたのは、俺が教室に到着したときだ。どうやら確かな噂らしく、うちのクラスメートほぼ全員が知っていた。だが、はっきりしたことは公表されていないようで、結局動機は解っていない。プライバシーということもあり動機についてはこれからも公表されないだろう。はっきりとしたことが公表されていないせいで、生徒間では勝手な憶測が飛び交っている。噂というものは得てしてこういうもので、とりあえず面白おかしく話される。どこまでが事実で、どこからが尾ひれなのかいまいち解りにくい。まあ振られた腹いせとか、ストーキングが度を越えたとか、要するに男女関係のもつれではないかというのが、大方の見解である。
事件解決に従い、新聞部がこれを大々的に取り上げ、朝っぱらから号外がばら撒かれていた。事件解決は、おそらく昨日の放課後。教員・学校関係者とともに、契約相手である新聞部にもその事実が昨日のうちに知らされていたのだろう。そうでなければ朝一で号外が配れるはずもない。では解決した人間は誰か。もちろん占い研究部である。
「捕まった方は大した罰則もなかったらしいです」
岩崎は号外を見ながら呟いた。それは正しい情報なのか?まあ嘘か本当か解らないが、新聞部の連中はさすがにやりすぎだろう。教員たちもそう思ったようで、新聞部は朝のホームルーム終了直後、職員室に呼び出されていた。おそらく厳重注意を受けていたのだろう。そりゃそうだ。世間を騒がせたとは言え、教育の場でここまでつるし上げて叩かれていいはずがない。それ以前に世間的な犯罪者も、未成年は顔も名前も明かされない。ここで明かされていいはずがない。
授業合間の移動時間で、号外の提出を促す放送がされたことから察するに、連中の有する残りの号外及び原本は回収されているだろう。もしかしたら一ヶ月くらいの活動禁止を言い渡されているかもな。だが、連中は後悔していないだろう。なぜなら今日一日その話題で学校中が満たされていたからだ。
放課後になった今でも、至る所で岩崎のように号外を覗き込んでいる生徒を見かける。果たして素直に提出した生徒がどれだけいることか。
「今日が金曜日だったのが不幸中の幸いですね。この騒ぎも、土日で少しは落ち着くでしょう」
確かに。こんなお祭り騒ぎが数日続いたら気が滅入る。何となく、俺たちは同情のまなざしで見られるしな。
それにしても。
「・・・・・・・」
三人ともえらい落ち込みようだな。
「・・・・・・・」
真嶋は泣きそうな表情をしているし、岩崎は強がっているが真嶋とあまり変わらない顔をしている。麻生に関しては死んだ魚の目をしている。麻生がそこまで落ち込んでいるのかは不明である。もちろん触れたりはしないが。
部室全体が、いやーな雰囲気に包まれている。静かなのは好きだが、今の雰囲気は好きじゃない。いくら静かだからといって、通夜が好きなやつはいないだろう。それと一緒だ。俺のモノローグも、いつもに比べて空回り気味だ。
「今日はもう帰ろうぜ。することもないわけだし、ここでみんなして落ち込んでいても仕方ない。早く帰って気持ちを切り替えよう。そうでないと、せっかくの週末がもったいないぞ」
俺はこのくらい空気を何とかするため、口を開いたのだが、
「そうですね、今日は帰りましょう。それで明日、みんなで気分転換をしましょう!」
どうやら俺は誘導する方向を間違ったらしい。
「じゃあとりあえず、お昼に成瀬さんの家に集合ということで」
この提案に反対するやつは誰もいなかった。いつもなら俺が反対するところだが、さすがの俺も拒否しづらいくらいに三人とも落ち込んでいた。日常をこよなく愛する俺にとって、この三人の状況は芳しくない。
それからしばらく明日の計画について話し合っていたのだが、それでもいつもの調子を取り戻すことはなかった。明日の外出がいい気分転換になればいいが。