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その26

今思いましたが、この話長いですね。ちなみにまだまだ続きます。


 しばらく外を歩いてみたが、バドミントン部の関係者に遭遇できなかった俺と麻生は、部室に戻ることにした。すでに警官の姿は見えず、部室はいつもの風景に戻っていた。


「しかし、これで面白くなってきたな」


 面白いかどうかは解らないが、少し細部が見えてきた気がする。


「例の女子が隠しているのは、何だと思う?」


 おそらく新たな情報だと思う。俺らには隠し、占い研には話していると考えると、それは果てしなく不利な状況であると思う。キーホルダーに関してはまったく逆の状況だった。だから俺たちは気持ち的に余裕を持っていたのだが。


 情報に差があるこの状況、一体どうすれば打開できるのだろうか。どんな名探偵も、正しい情報を得ることができなければ、事件を解決することなど出来ない。事件関係者に情報を隠されては、こっちとしては捜査にならないのだ。


「おそらく、結構重要なことだと思う」


 事件と何ら関係なことなら隠す必要がない。

「そうなると、連中はもうその事実を知っていると考えていいよな?」

「ああ」

「うーむ、不利だな」


 こんな不利な状況になったのは、キーホルダーが盗まれたせいだ。

だが、このままではせっかく俺たちからキーホルダーを盗んだのに、結局占い研の連中に捕まってしまうぞ。これでは何のためにキーホルダーを盗んだのか解らなくなってしまう。最終的に捕まえたのが、うちか占い研かっていうだけで、犯人にとってはあまり利益ないんじゃ・・・。ん?何かひっかかるな。何だか、妙な感覚に襲われた。しかし、俺が再びその感覚を捉える前に、


「成瀬はどう考えているんだ?」


 麻生に話しかけられた。そのせいで、妙な感覚は霧散してしまった。


「何が?」

「これからどうやって詰めるつもりだ?」


 詰めるつもりも何も、はっきり言って勘に頼るしかない。普通に考えて、今回の事件は容疑者が多すぎる。アリバイだってしっかり取れていないし、動機もよく解っていない。容疑者を絞り込む要素がない。当初から最終的にキーホルダー頼みだったわけだし、それがなくなった今、勘とか偶然とかに頼るしかない。


 そこでふと思う。


「連中はどうやって詰めるつもりなんだろうか・・・」




 しばらく部室で麻生と適当に話を紡いでいると、岩崎と真嶋が帰ってきた。


「あ、もうここ使えるようになっていたんですね」


 警察はとっくの昔に帰ってしまっている。


「それで、何か収穫はあったの?」


 聞いてきたのは真嶋だ。あったといえばあった。まあ、大したものではない。しかし、違和感は大きくなったと言えるだろう。実際何か隠しているということは、ほぼ確実だと言っていい。それがどんなものなのか、はっきりしていないが。


「まあ、知っていて損はない程度のものだな。そっちはどうだった?何か妙な行動を起こしていなかったか?」


「そうですね、私は特に感じませんでした。とりあえず彼女たちはこの事件の最中も占い稼業は続けているようです。私たちが監視している間も、何人かの生徒が彼女たちの元へ訪れていました」


 なるほどね。それは余裕なのか、それとも仕方なくなのか。いずれにしても切羽詰った状況ではなさそうだな。


「それで、姫はどこにも行かなかったのか?」

「はい」

「双子は?」

「見分けつきませんが、片方がどこか行ってましたけど、すぐ帰ってきましたよ。十分くらいですかね」


 つまり動きらしい動きは、それだけということだな。しかし、十分か。何ができる?筆談ならメッセージの受け渡しができるが・・・。


「それで?」

「あとは特に報告することはないですね」


 岩崎はちらっと真嶋のほうを見た。それはあとで、ということだろう。


「成瀬さん、そっちの収穫も教えて下さい」


 教えるほどのことでもないのだが、まあいいだろう。


「例の女子バレーの一年、あれは占い研の信者だったよ」

「信者ですか」

「ああ。何をそこまで信頼しているのか解らないが、とにかく俺たちには何も教える気はないそうだ。というか敵視されている」

「敵視ですか」


 何なんだ、その相槌は。


「じゃあ、思ったほどの収穫にはならなかったんだ・・・」


 真嶋は残念そうに呟く。何でお前がそれほど落ち込むのか解らないが、別に予想できなかった展開じゃない。


「今日一日動いただけで何か解るとは思ってない。別にそこまで肩を落とす必要はない。連中の様子からしても、まだ焦らなくて大丈夫そうだ」


 これ以上は特に話すこともなさそうなので、俺たちは解散することにした。いつもより早めだが、たまには早く帰らないと息がつまってしまう。




 帰り道、真嶋は麻生に任せて、俺は岩崎と話をした。


「真嶋の様子はどうだった?」

「そうですね、元気なさそうでした。あと、私と話していないときは何か考え事をしているようでした」


 最近はずっとそんな感じだ。一体何について考えているのか。俺が思い当たることといえば、天野とのことだが、


「最近、真嶋と天野は疎遠になっていたりするか?」

「そんなことはないようです。いつもどおり仲よさそうに話をしていましたよ。まあ、私から見たら、普通に見えました」


 そうじゃないのか?そうなると、俺には心当たりがない。


「成瀬さんは、天野さんとの関係について悩んでいるとお考えなのですか?」

「ああ。というか、それしか思い当たらない」


 もし俺の勘が当たっていたのなら、二人の仲たがいの原因は俺だ。


「私もそう思います」


 岩崎は、一旦俺の考えに賛成したが、


「けど、それだけじゃないような気がします」

「どういうことだ?」


 意味深なセリフだ。天野は関係しているが、メインの話は別ということか?


「私もはっきりとしたことは解りません。何となくなんですけど、二人の関係は以前から比べて、そこまで変化していないような気がします」


 俺には理解できないところだ。だが、同性には何か解るのだろう。


「じゃあ真嶋は何に悩んでいるんだ?天野は関係していると考えているんだろ?」

「うーん、まだそこまで考えがまとまっていないのですが・・・」

「・・・・・・」


 まあいい。こいつの勘はそこそこ信頼できる。現状情報が極端に少ない。そんな中で、推測しなければならない。この状況を打開するには、勘の力が必要不可欠だ。


 それは部室荒らしのほうでも同じことが言える。


「今日の捜査で、あんたは何か感じなかったか?」

「え?事件のことですか?」

「ああ。もう俺たちには犯人を絞るだけの手段がない。そうなると、勘に頼るしかない。何か違和感を覚えたり、引っかかったりしなかったか?」

「えーっと、私は特に何も・・・」


 厳しいな。俺のほうもあまり大きな違和感ではなかったし、難しいかもしれないな。


「実際あんたはどう考えている?占い研について。俺は怪しいと思っている」


 まあ何がどう怪しいのかは、未だ不明だ。


「確かにいけ好かない人たちですけど、能力的には高いと思っています。この事件に関しても、考えなしに解決を請け負ったとは思えません。もし成瀬さんの言うように、何か企んでいるのだとしたら、我々にその尻尾をつかませていないわけですから、なかなかできる人たちなのではないかと思います」


 そこだ。正直、俺だったら性格云々の前に、こんな事件請け負おうと思わない。未だに解決方法が思い浮かばないんだ。どう考えても難しすぎる。だがやつらは自信満々に手を挙げたのだ。実際どんな意図があってこの事件を請け負ったのか知らないが、何か対策があるのだろう。


「ですが!」

「は?」


 俺が自分の考えをまとめていると、突然岩崎が叫んだ。


「彼女たちがどんなに頑張っても、成瀬さんのほうが何倍も上だと私は知っています!」

「・・・・・・」


 何が言いたいんだよ。俺が落ち込んでいるとでも思ったのか?そんな言葉、全然欲してないぞ。そこで、俺はふと麻生の話を思い出す。


「知っているか?俺たちは、巷じゃちょっとした有名人らしい」

「何でですか?」


 情報に強いこいつも知らなかったらしい。そうすると、ガセっていう可能性も出てくるな。


「日向ゆかりの事件が原因だ。あれが解決後に噂として広まったんだとよ」

「へえ。じゃあ我々は今回も期待されているかもしれないんですね?」


 こいつにとって、この話は喜ばしい話だったらしい。俺はあまり喜べないんだが。


「じゃあ、皆さんの期待に応えるためにも、我々はもっと頑張らないといけませんね!」


 そういうと、岩崎は右手を握り締めて、あかね色に染まる空へと突き上げた。


「頑張るぞー!おー!」


 その叫び声に、前方と歩いていた麻生と真嶋が振り返る。


「どうしたの?」

「何でもありませーん!」


 真嶋の質問に大声で答えると、岩崎は二人の下へと走り出した。そして、


「成瀬さんも早く来て下さい!」


 俺はため息をつく。やれやれだ。何だか解っていないであろう麻生と真嶋も、岩崎につられて楽しそうに笑っていた。その笑顔は夕焼けに包まれ、燃えるようなあかね色に染まっていた。


 久しぶりに穏やかな気分になる帰り道だったが、そのとき件はすでに動き出していた。俺たちがその事実を知ったのは、次の日の朝、学校に到着したときだった。


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