その20
短めですが、ご了承下さい(´_ゝ`)
「早く教えて下さいよ!いったい何が解ったんですか?じらさないで下さいよ!」
体育館から部室に帰るまでの道のり、岩崎は知りたがりの子供と化し、しつこくこの質問を繰り返していた。本当にいい加減にしてもらいたい。俺は一度で全員に話したいんだよ。何度も同じ話をするのは面倒だからな。
いちいち相手にしていられないので、俺は九割がた無視して、残り一割で適当に相づちを打っていた。すると、
「あら?ごきげんよう」
妙な挨拶をして登場したのは占い研究部の三人だった。相変わらずどこぞのわがままなお嬢様にしか見えない女子生徒と、相変わらずもともと一人の人間が細胞分裂のように分身したのではないかと疑ってしまうほど似ている双子である。何となく気味が悪い。悪気はないが、目をそらしてしまうね。
「あなた方の噂はかねがね伺っていますわ。ずいぶん精力的に活動しているみたいですね。首尾のほうはいかがかしら?」
ずいぶん余裕だな。
「おかげ様でなかなか順調です。皆さん我々に協力的のようで」
「それはよかったですわ。私、弱いものいじめは好みませんの」
結構口が達者なやつだな。おかげで岩崎はすでに前のめり気味で、戦闘体勢に入ってしまっている。岩崎に挑発は効果抜群だ。岩崎と挑発の関係は、闘牛と赤いマントのそれと酷似している。
「今何て言いましたか?よく聞こえなかったので、もう一度お願いします」
やはりというか、もう規定事項と呼べる。
「おい」
俺は前傾姿勢になっている岩崎の頭に手刀をくらわす。
「いたっ!何するんですか!」
「安い挑発だ。乗るんじゃない」
「わ、解っていますよ!本当に聞こえなかったんです!」
「すぐばれる嘘をつくな。あんたは顔に出るんだ、猿でも解るよ」
「いくら何でもそれはありません。言いすぎです!」
「じゃあ、馬でも解る」
「霊長類ですらないじゃないですか!せめて、子供でも解る、と言って下さい」
「ちょっと!」
岩崎がなかなか鋭いつっこみを披露していると、姫と呼ばれる占い研究会のトップの女子が叫んだ。
「私を無視しないでくれる?安い挑発で悪かったわね!」
今までのような妙な口調ではなくなっている。どうやらいらいらしているようだ。
「私はあなた方の夫婦漫才を見るためにここに来たわけではありませんことよ!」
あ、元に戻った。忙しいやつだな。
「俺だって漫才をやっているつもりはない」
「そうですよ。成瀬さんの年齢ではまだ結婚はできません。まあ、私はすでに結婚できますけど・・・」
こっちをみて頬を赤らめながら妙なことを言うな。つっこむところが違うぞ。
「じゃあ何をしに来たんだ?事件のヒントならやらないぞ」
「そんなこと聞かないわよ!私は忠告しに来たの!」
どうやらこの女子、岩崎以上に挑発に乗ってくるものすごく血の気の多いやつだったようだ。まるで、目の前にマタタビを差し出された猫のようだ。すごい勢いで反応してくる。おかげでせっかく作ったキャラクターが台無しである。やはりあれはペルソナだったのか。
そこで俺はようやく気づく。
「忠告しに来たって?」
「そうよ、そうですわ!」
だんだん落ち着いてきたのか、女子は口調を元に戻した。
「あなた方にこの事件を解くのは無理ですわ。これから、今以上に複雑になりますから」
「・・・・・・・・・」
実に意味深な発言である。それはこれから起こる事象についてすでに解っているかのような、まさしく未来予知的発言である。
言うことを言ったのであろう女子は、俺と岩崎のすぐ横を抜けて立ち去ろうとした。
「ちょっと待って下さい!」
岩崎の言葉に、彼女は優雅に振り返る。
「それは、どういうことですか?姫」
彼女は肩にかかった長い髪を少々大げさな雰囲気で払うと、
「あなた方にもいずれ解りますわ。それと、ちゃっかり姫って呼ばないで下さる?」
最後まで丁寧に挑発に乗り、去っていった。