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その18

最近更新が遅くなってしまっていますね・・・。事件に相変わらず進展はありません。

 ものすごい音を立てて閉まったと思ったドアが、再び開いた。天野と入れ替わりで部室に入ってきたのは岩崎だった。


「今、天野さんとすれ違ったんですけど、何かありましたか?ものすごく怒っていらしたようでしたが」

「ああ、すごく怒っていたな」


 それ以上は俺にも解らない。間違いなく俺が原因ではあるのだが、理由が解らないのだ。答えようがない。


 岩崎は適当に荷物を置くと、俺の正面に座った。


「あの、成瀬さん?」

「何だ?」


 岩崎は不安そうに俺を上目遣いで見上げる。


「一体どういう状況で天野さんがこの部室に訪れたのですか?」


 俺は一瞬考える。


「成瀬さんが呼ぶとも思えませんし、かといって彼女が個人的に足を運ぶとも思えないのですが」


 俺は考察の結果、素直に話してやることにした。確かに若干プライバシーに関わったことであるのだが、特別問題ないだろ。それに相手は岩崎だ。もしかしたら何か気が付いているかもしれない。加えて、あの女がここに足を運んだんだ、それほどおかしな状態なのかもしれない。


 そう難しい話でもないので、適当にはしょりながら俺は岩崎に話してやった。岩崎はふんふん頷きながら、真面目な顔をして話を聞いていた。


「なるほど、真嶋さんの様子を気にしてここに来たわけですね。確かに状況から言って、捜査に行き詰まった我々が真嶋さんに手伝いを要請したように見えるかもしれません。そうでなくても最近我々と一緒にいる時間が長いですからね」


 それも事件が起きてからは特にな。嫌な繋がりだな。


「それで、あんたはどう思う?何か気が付いたか?」


 俺は当然解らなかったし、今も見当がつかない。真嶋も結構理解不能な行動をすることが多いからな。多少変わったことをしていても、俺には解らないだろう。


「私も特に気になりませんでしたね。天野さんは真嶋さんと付き合いが長いですからね、天野さんにしか気が付かないような、些細な変化だったのではないでしょうか?」


 しかし、その天野にすら原因が解らないのである。少し気になるところだが、まあそれは置いておいて、


「それで、」

「はい?」


 俺は話を変える。


「事件の捜査のほうはどうだ?何か新しい情報はあったか?」


 岩崎は若干表情を変えた。


「今、他の部の部員のアリバイを取っていたのですが、やはり時間が経ってしまっていますから、証言が曖昧で・・・。ちょっと休憩し来ました」


 さすがの岩崎も疲れているようだ。これだけやっているのに成果が出ないと、精神的にもきついだろう。結果こそ伴わないが、こいつは一生懸命動いているようだ。俺はその健闘を称えて、紅茶を淹れてやった。


「ありがとうございます」


 そう一言礼を言うと、岩崎は一口含み、ふうと大きく息を吐き出した。


「それで、キーホルダーのほうはどうだ?」

「そっちも進展なしです。会場に行った人たち何人か話を聞いたのですが、どの方もキーホルダーを手に入れることができなかったみたいです。加えて、持っている人も知らないとおっしゃっていましたね」 


 キーホルダーは部室内に鎖が切れた状態で落ちていたのだ。おそらく慌てて逃げ出そうとしたとき、何かに引っ掛け、力任せに引っ張った結果、鎖が千切れたのだろう。つまり、キーホルダーは外に露出していたということになる。ということは、周りの目に移る場所についていたということで、クラスメート一人くらいはそのキーホルダーを目にしていた可能性が高い。よって地道に情報収集を続けていれば、きっと情報が入ってくるはずなのである。犯人にたどり着く可能性は十分にある。


 しかし、岩崎は俺と違う考えだったようで、


「我々は占い研に勝てるのでしょうか?」


 と、突然呟いた。珍しいな、弱音を吐くなんて。


「ここ最近走り回って、しかも部外者である真嶋さんにも協力してもらっているのに、正直進展はありませんし・・・」

「何情けないこと言っているんだ?もう負けた気でいるのか?」

「もちろん負ける気はありません。何と言っても物証があるわけですし。ですが、これではキーホルダー頼みになってしまっていると言うか・・・、私は役に立てていないと言うか」


 おそらく誰もそんなこと思ってはいないだろう。しかし責任感の強さと、仕事に対する真面目さが岩崎を後ろ向きにしているのではないだろうか。


「今回は依頼が来たわけでもありません。完全に私が皆さんを巻き込んでしまったわけですから。私が一番頑張らなくてはいけないはずなんですけど・・・」


 俺はいつも巻き込まれている。とは言えなかった。


「成瀬さんはすでに仕事をしたと言えますので、これ以上は面倒だとおっしゃるなら、抜けていただいても・・・」

「・・・・・・・・・」


 ここまでネガティブになっているとは思わなかった。驚天動地だ。表情がないことで有名な俺も、どうやら驚いていることが解るほど驚いてしまったらしい。岩崎が慌てて付け足す。


「もちろん私個人としては一緒に調べたいですし、成瀬さんのお力はTCCにとって必要不可欠ですし、ましてや邪魔に思っているなど千パーセントありえないのですが!」


 身振り手振りを加えて、一生懸命否定の言葉を並べていた岩崎だったが、突然トーンを落として、


「もしかして誰かの役に立つことに幸せを感じていて、こうして皆さんと何かに取り組むのが楽しいと思っているのは、私だけなのではないか、と思いまして・・・」


 どうやら俺が嫌がっているのではないかと真剣に考え始めたようだ。自主的にこんなことを考えてくれたのなら、俺は岩崎の人間的成長を喜んでやるのだが、俺には別に心当たりがあった。


 ここ最近俺以外の面々が、精力的に活動しているのにもかかわらず、何もしようとしない俺に対して、岩崎が口やかましく手伝え、と言わなかったのにはこんな理由があったということか。理由が解れば、何てことはない、こうして岩崎がネガティブになっている原因は俺の悪ふざけにあったというわけか。


「確かに、妙な事件で正直面倒だと思うな」

「はい」

「俺は無関係だし」

「そう、ですね」

「考えてみればまともな被害者もいないし、学校側も乗り気じゃないんだ。積極的に取り組む理由がない」

「・・・・・・はい」

「というわけで俺はお言葉に甘えさせてもらうことにする」


 岩崎は俺が下した決断について、言葉を返せずにいた。うつむき加減で、手元を見つめている岩崎は、傍から見たら泣いているようにも見える。だが、顔を上げた岩崎は、どう見ても泣いているようには見えなかった。いつもどおりにも見えなかったが。


「解りました。あとは私がやりますので、成瀬さんは自由にしていて下さい」


 岩崎はそう言うと、立ち上がった。


「では私はもう一度行ってきますので、これで・・・」


 俺に表情が見られぬよう、うつむき加減のままかばんを握ると、岩崎は部室から出て行こうとした。しかし俺はそのときの岩崎の表情がはっきりと見えた。


「バカが・・・・・・」

「え?」


 ドアに向かう岩崎が足を止めて、こちらに振り返る。


「何強がっているんだよ、アホらしい」

「わ、私は、別に強がっているわけでは・・・」

「じゃあ何でそんな顔してんだよ」


 岩崎は今にも泣きそうな顔をしていた。


「そんな顔するくらいならこんなこと言い出すな」

「ですが・・・」

「だいたい、らしくないんだよ。あんたが俺に気を遣うなんて。正直気持ち悪いね」

「き、気持ち悪いって」


 岩崎はきっと俺がふざけて怒った振りをしたときのことを気にしていたのだ。まさかここまで効果があるとは思わなかったね。ノーベルにでもなった気分だ。きっとあいつも自分のやったことで世界がとんでもないことになるとは思っても見なかっただろうよ。


「そもそも俺は副部長じゃなかった?組織のナンバー2を、役に立たないからってこんな簡単に切り捨てるなんてひどいと思わないのか?あんたが俺を副部長に指名したのならなおさらだ。そんなに俺をクビにしたいなら責任とってあんたも辞めるべきだ。それがトップってもんだぜ」


 そこまで言うと俺は岩崎に向かって笑いかける。岩崎はまだ口を開けたまま固まっていた。


「ついでに言うと、俺はこの落ち着いた部室が好きなんだ。だが、事件が絡むと慌しくなってしまってちっとも落ち着かない。落ち着いた部室を取り戻すためにも、捜査に協力してさっさと解決してしまったほうがいい。そっちのほうが面倒じゃない」

俺の言い分を理解したのは、それとも俺の顔が面白かったのか、あっけに取られたようにポカーンとしていた岩崎がやっと笑顔になった。

「調子に乗らないで下さい。TCCは実力主義です。結果を出さなければいつでもクビや降格がありますから、せいぜい精進して下さい」


 やれやれ。


 疲れた。何でも岩崎を笑わすためにここまで頑張らなければいけないのだ。こいつを笑わせるのにこんなに苦労するとは思わなかったね。どっと疲れた。反対に岩崎はかなり元気になっている。まるで俺に疲れを移したように。相変わらずテンションの上下が激しいやつだ。しかし今はそれが何となく微笑ましいのだが、それは言わないでおく。


「さて。不安要素が一つ片付いてすっきりしたところで、情報収集に戻りますか!」


 岩崎は残っていた紅茶を一気に飲み干し、大きく伸びをした。


「ちょっと待て」

「はい?何でしょう?」


 岩崎は今にも飛び出していきそうな雰囲気を抑えると、俺のほうに振り返った。すっかり忘れていたが、気になることがあった。


「女子バレー部の部員を紹介してくれ」


 若干言いまわしを間違えたかな。


「は?どういうことですか?」


 言い方を変えよう。


「バレー部の連中の話が聞きたい。話を通してくれないか?」


 そう言うと、やっと岩崎は表情を穏やかにした。


「いいですけど、何かわかったんですか?」

「いや、ただ気になることが一つあったな」 


 バドミントン部とバスケ部には体調不良を起こした部員がいた。バレー部にもいるならば俺の違和感は膨らむだろう。被害にあった部の部員が現在二人、体調不良を起こしている。そしてバレー部にも一人いたら、各部に一人ずつと言うことになる。偶然にしては律儀すぎる。事件に関係あるか解らないが、これは不自然だ。立派にいつもと違う状況であると言うことができる。きっかけになるかは解らないが、俺は勘を信じることにする。


 俺と岩崎は部室のドアに施錠を済ませると、部室を出た。そこで、岩崎が口を開く。


「もしかして、気になることって・・・」

「何だ?」

「気になる女の子がいて、とかじゃないですよね?」


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