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その16

事件解決の糸口発見か?

 何だかみんなおかしなくらい積極的である。


 岩崎は事件捜査が始まってから教室には授業中しかいないし、真嶋も同じくらいいない。麻生に関してはどうせ暇つぶしくらいにしか思っていないと思うのだが、やはり世間話程度には情報収集しているらしい。


 相変わらず自ら動いていないのは俺だけである。ここ何日かは一人で昼飯を済ますことが多いのだが、別に寂しくはない。それより何だか居心地が悪い。何となく教室で一人弁当を広げていると、周りから視線を感じるようになってきている。おそらく岩崎の行動により、例の部室荒らしの件をTCCが捜査している、という情報が学校単位で広まっているのだろう。それで、うちの教室で一人昼飯を食っていて何もしていない俺に対して、非難の視線を浴びせているのだろう。これは想像だが、何となく合っていそうで怖い。


 俺も少しは動こうかと思ったけど、何をどう動けばいいのか解らないので、相変わらず何もしていない。人には向き不向きがある。必ず苦手な分野があるのだ。これは前に言ったな。

そんな被害妄想的なことを考えながら、箸を進めていると、いつぞやの二人組が話しかけてきた。


「どうかな?捜査のほうは進んでいる?」

「順調ではないが進んでいるな」


 先が見えないのは相変わらずである。俺は食事をしながら答える。


「そっちこそ何かいい情報はないか?」


 別に自分が何もしていないことを卑下して、ちょっとは捜査に参加しようと、思いつきで質問したわけでは決してない。ありきたりな質問で悪かったな。


「そうだなあ、何かある?」


 俺の質問に二人は首をひねり、顔を見合わせる。しばらく待ったが、反応はなかった。俺は質問を変えることにする。二人は何かと積極的なのだ、何でもいいから情報を得たいところ。当事者の証言というのは、どんな事件でも重要なものが多いのだ。


「どんなことでもいい。部員の様子だったり、周囲の人間の様子だったり、事件と関係ないことでもいい。何かないか?」


 事件について証言をもらうとき、重要なことは相手に自由に話してもらうことである。こちらが内容を限定してしまうと、それ以外のことを言ってはいけないと思い、あまり口を開いてくれなくなってしまうかもしれない。加えて、些細なことでもヒントになることがある。事件に関係ないことでも、ヒントになるかもしれない。重要なのは変化なのだ。何か事件があった場合、その前後で何かしらの変化があるはず。そこを見極めれば、糸口が見つかるかもしれないのだ。それに、口に出すことで思い出すこともある。何より相手にしゃべらせることが重要なのだ。


「部員とはあまり事件について話さないから、よく解らないな。周りは気を遣っているのか、私たちの前では話さないな」


 普通の反応だな。特に変わった様子ではないようだ。俺の望んだ情報はない。


「あ・・・」


 何か思い出したかのような反応を見せたB改め戸塚に、俺は、


「何か思い出したのか?」

「え?あ、あのえっと・・・」


 俺が注意を戸塚のほうに向けると、戸塚は途端に落ち着きをなくし、以前同様三原の後ろに隠れてしまった。


「・・・・・・・・・」


 一体どうしたらいいんだ。俺としては普通に話しかけたつもりだったのだが、戸塚はえらく動揺している。三原の後ろでうつむいたまま、口を開く様子はない。


「俺今なんか変なこと言ったか?」


 俺は思わず三原に確かめてしまった。すると三原は無言のまま苦笑して、自分の背中に隠れる戸塚を俺の前に引きずり出した。


「何か思いついたのなら教えてくれ」


 俺はできるだけ優しく話しかけた。それからしばらく待つと、戸塚は顔を真っ赤にして答えてくれた。


「えっと、事件のあった日に、特に動揺していた一年生がいて・・・」


 今のお前の同様具合もかなりのもんだと思うが。


「それで?」


 俺が話を促すと、


「それで、その日からしばらく体調崩しちゃって、昨日まで学校休んでたの」


 何が言いたいのかよく解らない。しかしそうは言えないので、今度は三原に話しかける。


「それは本当か?」

「うん、本当。他にも動揺していた部員はいたんだけど、その娘だけ異常に動揺していたの。今日は学校来てたけど、事件の次の日から昨日までずっと休んでいたみたいなの。今日もまだ顔色よくなかったね」

「別にそいつが被害にあったわけじゃないんだろ?」

「うん。でも仮病とは思えなかったの」

「もともと身体が弱かったのか?」

「うーん、弱くはないと思うけど」


 そこで俺は若干考え込む。身体の弱い人間が事件に巻き込まれた場合、精神的なショックから、その影響で体調不良に陥ることもあるだろう。正常な人間だってありうる話である。おかしいことではない。しかし、何か気になる。正直気のせいで片づくくらいの違和感なのだが、何となく心に引っかかった。


 そこでタイムアップとなり、昼休みの終わりを告げるチャイムが校舎内に鳴り響いた。二人にはまた何かあったら教えてくれ、と頼んでおいてとりあえずここは話を終了させた。





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