その15
強力な物証を得たTCC。事件捜査のまとめとこれからの方針を考えます。
放課後、部室に集まった俺たちTCCの面々と真嶋。今日収集した情報を整理した。
「鍵が破壊されていることから、犯人が正面から堂々と侵入したことは明らかです。何らかの方法で鍵を破壊したということでしょう。一応、各部員にもアリバイを聞いたのですが、例の時間にアリバイのない部員は、マネージャーも含めて、いなかったそうです」
この短時間でずいぶん調べているな。こいつの情報網は一体どういうことになっているのやら。
「まだ犯人らしき人物の目撃情報はないのか?」
「そうですね、おそらく男子、という曖昧な情報しか入ってきていませんね・・・」
目撃証言というのは、時間が勝負である。人の脳は曖昧だからな。ここにきて、情報が来ていないのだから、目撃者については、もう出てこないと考えてもいいだろう。
「以上です。はっきり言ってあまり進展はありませんね」
確かにはっきりした情報は少なく、あまり重要なものではないが、これらの情報からある程度犯人像を推測するしかない。
「短時間の犯行ですから、単独ではないでしょう。最低でも三人、四人はいたのではないでしょうか。もしかしたら見張り役もいたのかもしれません」
うちの学校は結構平和な学校であるらしく、鍵の管理はあまり厳重ではない。鍵を入手すること自体はあまり難しいことではないので、誰でもできると言えばできるわけだ。しかし鍵を破壊して中に入っている。犯人は鍵を強奪して開錠するという方法を取らなかったわけだ。そこに一体どんな意味があったのか。それはこれから考えよう。
まあ今回の事件が解決するにせよ未解決になるにせよ、これをきっかけに鍵の管理方法を改めたほうがいい。鍵を盗まれて使われなかったことを幸運に思うべきだ。次にこんな事があったら学校全体の問題になってしまう。管理責任を問うべきだな。
時間が短いということは見つかる可能性が低くなるわけであって、実際目撃情報はほとんど入ってきていない。
というわけで現時点では犯人を特定する要素がない。容疑者は無限にいるわけだ。なので捕まえるのはまず無理。と言いたいところだが、
「これだけでしたらかなり厳しい状況ですが、我々にはリーサルウェポンがあります」
そうなのだ。岩崎の言葉に真嶋が頷く。
「何それ?」
昼休みの一件を知らない麻生だけが疑問の言葉を口にする。
「実は昼休みに、犯人に直結すると思われる情報を成瀬さんがゲットしているのです。我々が走り回って手に入れた情報より、教室でまったりご飯を食べていた成瀬さんが、一番重要な情報を手に入れたというのは、何となく解せませんが」
俺のせいみたいに言うな。
「まさか成瀬が?」
失敬なやつらである。こいつらが俺のことをどんな目で見ていたのか解るね。まあ実際捜査には全くと言っていいほど貢献していなかったわけなのだが。
「それで、どんな情報なんだ?」
「これだ」
俺は例のキーホルダーを見せる。
「それ、確か春先にやってたイベントの限定品だよな?それが?」
「バドミントン部の部室に落ちていたらしい。無理矢理引き千切られたような様子で」
麻生は顔をしかめる。
「持ち主不明のもの、ってことだよな?」
そのとおりである。
「つまり、犯人の物ってこと?」
「おそらくそうだ」
ほー、と大きく頷く麻生。
「それで、どうするの?まさか指紋とか言わないよな?」
言うわけないだろう。どうやって指紋を取るんだよ。何度も言うが、俺たちは警察じゃないんだよ。
「さっき自分で言っていただろう。こいつは百個限定のイベントグッズなんだ。こんなもの持っているやつ、この学校に何人いると思う?多くても二桁いないだろう」
つまりある程度容疑者が絞れれば、犯人を特定することができるんだよ。たとえ、容疑者の中に、こいつを持っているやつが二人以上いたとしても、鎖の引き千切られ具合などを吟味すれば特定することに問題はない。
「だからこれからやることは、このイベントに行った人物の捜索、及びこのキーホルダーをもっている人物の捜索だ」
俺の言葉に三人は頷く。
「今ある情報で、もう少し犯人像を絞ってみましょうか?」
岩崎は再び手帳を開く。
「あの時間にやっていた部活の部員のアリバイはあとで取っておくとして、それ以外ではどう思いますか?」
「感覚的なことなんだけど」
真嶋が手を挙げて口を開く。
「やっぱり男子なんじゃないの?女子には入る理由がないし」
現場は女子の部室なのだ、そう考えるのが妥当なのかもしれない。
「ですが、女子は女子でいろいろあるわけじゃないですか?嫌がらせとかいじめとか考えるとありえない話ではないですよね」
岩崎の言葉に、真嶋は口を閉ざした。反論がないところを見ると、自身にも思い当たる節があるらしい。女子は女子でいろいろある。何だか解らないが、恐ろしい言葉である。
「それに、女子の部室の鍵を手に入れるのは、やはり女子のほうが容易いのではないでしょうか?」
「あんたがさっき言っていた、男子であるかもしれない、っていう情報はどこから得たんだ?」
先ほど、曖昧ではあるがそんなこと言ってなかったか?
「あれは、噂です。どこが出所なのか解らないです」
男子か女子かも特定できないのかよ。不安だな。
「その前に、」
麻生が手を挙げる。
「うちの生徒という前提で話が進んでいるけど、それはいいのか?」
「絶対とは言えないが、かなり高い確率で内部の人間だと思う」
「何で?」
俺が答えようと思ったら、岩崎が先に口を開いた。
「それは学校について詳しすぎるからです」
部室の周囲に人がいなくなる時間帯や、部室を使用する時間帯、下手したら鍵の場所、貸し出し状況まで知っているかもしれないんだ。内部の人間じゃなかったら、どれだけ簡単な学校なんだって話だ。私服の人間がいるだけで異色のオーラを放つわけなんだし、外部の人間である可能性は低いだろう。てか、これくらい解るだろう。ちったあ自分で考えやがれ。
「それにもし外部犯だったら、俺たちにはどうしようもない」
「それはまあ確かに」
今以上に面倒ごとになるのは火を見るより明らかである。悪いが、外部犯だったら俺は今回の件は降りさせてもらう。今思えば俺には無関係な事件なのだ。正直知ったことではない。警察に任せるのが一番である。
「じゃあ生徒っている理由は?」
現状では生徒ではない可能性もあるのだが、
「いい大人がこんな面倒なことやるはずがない。もし教師がこんなことをやっていたら、俺はこの学校を辞める」
「私も辞めます」
「あたしも」
今日はすでに暗くなってきているので、とりあえず明日から容疑者を絞ることにしよう。やることが明確になってきたので、今日以上に精力的に動けるだろう。