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その13

噂の占い研究部が初登場します


 岩崎の号令により、俺たちは現場検証に向かった。そこは女子運動部の部室棟である。


「我々の教室のある新校舎から結構な距離がありますし、狙いやすいと言えばそうかもしれませんね」


 さすがは運動部といったところか。体育館にもグラウンドにも近い。機能性を重視しているだけのことはあり、部活を行うにはかなりいい立地条件なのではあるが、その代償として職員室や事務室からは遠い場所に位置している。


「日が暮れたらいろいろ死角が増えてきそうですね」


 少なくとも顔をはっきりと確認することができないくらいの暗さになりそうだ。


「それで、被害にあった部室はどこだ?」

「バレー部とバスケットボール部とバドミントン部ですから、あそことあそことあそこですね」


 岩崎はそう言い、三つの場所を指差した。この部室棟は二階建てであり、各階五つずつ部屋があるのだが、二階の右端、一階の一番右端とその隣がターゲットとなったようだ。

二階への階段は右端の部室の目の前にあるので、狙いどころとしては間違いない。そして右よりである。あと何か言うならば、この三つの部活はどれも体育館で行う部活である。何か関係があるのだろうか。あと、どれも『バ』から始まるな。・・・これは関係ないか。正確に言えば、バレーボールのスペルはVから始まるので『ヴァレーボール』である。


 やる気など全くない俺は、退屈を持て余し妙なことを考えていたのだが、


「何か下らないこと考えていませんか?」


 と、ものすごく的確に突っ込まれた。やはりこいつはエスパーを使う。



 しばらく現場検証を続けていた俺たちだったが、特別解決に繋がりそうな情報を得ることはできず、そろそろ日も暮れ始めていた。俺はとっくに飽きてしまっていたのだが。


「そろそろ帰りますか?」


 ようやく岩崎がこんなことを言い始めた。やっと帰宅の許可が出そうだ。ふう。


 俺たち三人はそれに同意し、部室をあとにしようと、我らの部室のある旧校舎に向かって足を出した。そのとき、


「あなたがたも情報収集かしら?」


 突然現れたそいつは妙な言葉遣いで話しかけてきた。おれはもちろん知らないし、見たこともない。しかし、誰であるかは直感的に理解できた。俺は岩崎を見る。すると岩崎はうなずき、


「お察しのとおり、占い研究会の人たちです」


 俺の予想通りの答えが返ってきた。なるほど、こいつらか。


 俺は再び連中を見る。最初に抱いた感想は、うーむ、らしからぬと風貌である。俺が想像していたのは、たまに夕方の情報番組でやっている異邦宗教の教祖様だったのだが、目の前にいるこれらはそんな感じではない。例えるならば、わがままな姫と優秀な側近といったところか。しかもその側近らしき二人の男子生徒、全く同じ顔をしている。


「確かあなたは、部屋で話を聞くだけでたちまち事件を解決してしまう、安楽イス探偵だと聞いていたのですが?」


 岩崎が姫に尋ねる。言葉尻だけを捉えるならばいつもと同じ感じだが、口調は明らかに相手を挑発している。


「お言葉ですが、あなたは何か勘違いしているようですわね。私は超能力者ではありませんし、探偵でもありませんわ」


 何だ、この口調は。一体どこの貴族だというのだ。口を開くたびに背中に悪寒が走るのは俺の育ちが悪いせいか?


「加えて私のスタイルは直接この目で見ることが重要な意味を持ちますの。現場を拝見しなければ解らないこともありますわ」

「何だかホームズみたいですね。あら、探偵ではなかったんでしたっけ?」


 ここでふと思う。こいつら知り合いなのか?何だが知らないがこのいがみ合い方、ずいぶん前から何か因縁がありそうだ。


「あんた知り合いなのか?」


 俺が小声で質問すると、


「いえ、顔と名前くらいしか知りません。何せ、今年の新入生ですから」


 驚いた。このふてぶてしさで、ここにいる誰より年下とは。


「それにしちゃやけにけんか腰だな」


 俺はそれなりに何か裏設定的な因縁があるのではないかと期待して聞いたのだが、


「私にも解らないのですが、他人のような気がしないのです。おそらく前世から相容れぬ関係だったのではないかと」


 何だ、そのトンデモ設定は。占いからそんな方向にまで興味が進展していたのか。次は何だ?やはり宗教か?


「姫、お戯れはその辺で」


 やや後ろ気味にいた同じ顔をしている片割れが自称占い師に話しかける。やはり呼び方は『姫』か。先生や教祖様じゃ似合わないもんな。


「あらそう。では私はこれで」

「待って下さい」


 この場から去ろうとしていた姫を岩崎が制止させる。


「何でしょうか?」

「失礼ですが、我々のことをご存知ですか?」

「知らないわ」

「我々はお悩み相談委員会、通称TCCと言います。あなた方と同じく生徒の悩みを解決してあげるのが目的の部です」

「そうですか。それで、何が言いたいのですか?」

「同じ目的の部が二つも必要ないと思いませんか?」


 姫の表情が若干変化する。けんかを売られているということを理解したのだろう。


「つまり私が邪魔だと・・・?」

「ずばりそうです。ですが、設立したばかりの部をいきなり廃部に追い込むのは、さすがに無理でしょう」

「そうですね、では一体どうしますか?」

「我々と勝負して下さい」

「勝負?」


 岩崎の言葉が意外だったのか、疑問文で聞き返した。


「はい。幸か不幸か我々の元にもこの部室荒らしの件について相談が持ち込まれています」


 幸か不幸か、初耳である。


「ですから、この件、どちらが先に解決できるか勝負しませんか?」

「犯人を探し出せばいいのかしら?」

「そうです」


 姫は若干考える振りをして、


「解りました。その勝負、受けましょう」


 と言った。しかし、直後、


「ですが、一つ問題が・・・」

「何でしょう?」


 岩崎が、姫の妙な言い分に本気で聞き返す。


「すでに、私は新聞部による取材を受けてしまっているのですが、それでも構いませんか?」

「え?」


 つまり、この勝負の結果が全校生徒に知られてしまうがいいか?ということである。早い話が勝利宣言である。負けるなど爪の先ほども思っていないからこんなことが言えるのだろう。そこまで自信満々なのか?


「別に今なら拒否できますけど?」

「いいでしょう!構いません、その取材受けてください!」


 簡単なやつだ。実際本当に取材が来ているかも解らないのに。もしかしたら、うちをつぶすためにこれから取材を依頼するかもしれないのにな。とりあえず、相手も俺たちのことを邪魔だと思っていたらしい。評判と言うのはある意味サービス内容や価格設定より重要である。消費者が一度不信感を抱いてしまうと完全に払拭するのに一体どれだけの時間と労力を消費することになるのだろうか。


 一応俺の作戦のとおりに進行しているのだが、あまりに相手が自信満々だったので、俺としたことが、若干疑ってしまった。こいつら本当に何か妙な力を使うのではないだろうか、と。競争以前に犯人を捕まえることも、現状では不可能に近い。その中でここまで自信満々に犯人を捕まえられると言えるのだろうか。根拠もなしに勝ちを宣言できるだろうか。しかし、こんなことを一瞬でも考えてしまったことを当然ながら恥じたね。そんな力存在するわけない。

ちょっと考えれば解ることだ。全く俺らしくなかったね。やり方なんてなんでもいい。


 要は解決に必要な情報をどれだけ早く正確に手に入れるか、これが結果を左右するのだ。俺はこの時点で事件解決の原理を正確に理解していたはずなのに、時が経つにつれて、どんどん忘れてしまっていたようだ。このことを忘れていなければもっと早い段階で、このふざけた事件の全貌が見えていたのだろう。


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