その11
二日連続投稿です。今回も短いです。おや?真嶋の様子が・・・?
昼休みも慌しく動き回っていた岩崎は、放課後になった瞬間教室からすっ飛んで行った。さて、俺は一体何をしたらいいのかね。とりあえず部室にでも行くか。今回は鍵を持っていくことを忘れないようにしなければ。
そう思った俺は荷物をまとめると席を立った。すると、
「ねえ」
と左から声をかけられる。俺がそちらに振り向くと、同時に顔を背ける真嶋がいた。
「何だ?」
しかし俺はよく自分が呼ばれていると解ったな。
「ちょっと図書室行かない?」
真嶋はまっすぐ前を向いたまま言葉を紡ぐ。正直黒板に向かって話しかけているように見える。これは俺に言っていると解釈していいんだよな?
「何のために?」
「昨日の盗難のこと調べているんでしょ?」
「それはそうだが」
ちなみにまだ俺は調べていない。調べているのは岩崎だけである。
余談はさておき、俺は図書室にはあまり赴きたくないのだが。つい数日前にまるで親の敵のような対応を受けているからな。もちろん相手は天野だ。まあ真嶋も、俺と天野の険悪さ加減を知っているので、おそらく今日天野は図書室にいないのだろう。
それにしてもこの女、なぜこんなに積極的なのだろうか。いや事件解決に積極的なのは解る。友人が多く関わっているのだ、友人のために頑張っているということだろう。俺が疑問に思っているのは、なぜ俺による事件解決に対して積極的なのか、ということである。俺はそこまで信頼されるほど実績も実力もない。それにそこまで信頼される覚えもない。岩崎なら理解できる。だが、真嶋は?
その真嶋は、俺がなかなか返事をしないことにイラついたのか、
「行くの?行かないの?」
と返事を急かしてきた。俺は、
「解った。行くよ」
と答えて、いったん思考の内容を保留にした。
教室から職員室に行き部室の鍵を取って、それから図書室に向かう。その間、真嶋は一度も話しかけてこなかった。真嶋から離しかけてくることは珍しいので、そこまではいつもどおりだったのだが、前を歩く真嶋の背中はいつもと違う雰囲気をまとっていた。何やら集中しているというか、決意を固めているというか、とにかく話しかけにくいオーラが可視できるくらい、図書室に近づくほど濃いものになっていた。それはどこか、法廷に向かう検事のようだった。
図書室に到着すると、先行して中に入る真嶋に続き、俺も図書室の中に侵入した。すると、
「お、珍しい組み合わせだな」
俺の幼馴染がいた。そしてこいつがいるということは、
「・・・・・・」
隣にはあからさまに不機嫌な顔をしている天野がいた。これはどういうことだろうな。理由を聞くべく真嶋のほうを見たが、真嶋は天野を見ていた。しばらく無言で見つめあった後、真嶋は視線を麻生に移し、
「ちょっと沙耶借りていい?」
「ああ、構わんが・・・」
そう答えたあと、麻生はチラッと俺のほうを見た。その目は、
『どういうこと?』
聞いているようだった。なので俺も、
『知らんよ』
と目で返事をした。
「沙耶、ちょっと話があるんだけど」
俺と麻生が混乱している中、構うことなく真嶋は話を進める。
「どんな話?そいつは関係あるの?」
そいつとは俺のことで間違いないだろう。
「関係ないよ。こいつは勝手についてきただけ」
おいおい、ずいぶんな言い草だな。確かについてきただけだが、ついて来いと言ったのはお
前のほうじゃないか。しかし話が見えてこないな。どういうこった?
すかさず麻生が目で話しかけてくる。
『とか言っているけど?』
『俺にも解らん』
と答えておいた。
「じゃあそいつはどっかやってよ」
「気にしないでいいよ」
真嶋の答えに、天野の顔が若干むっとする。何やら嫌な雰囲気である。真嶋は先ほど様子から、おそらく天野に部室荒らしの情報集めの協力を依頼しようとしているのだと思うのだけど、肝心の天野のほうはすでにけんか腰で、協力に応じてくれそうな雰囲気ではない。今日はこの辺で撤退したほうがよさそうだな。俺は二人の間に入った。
「な、何よ!」
「もういい。撤退しよう」
「な、何で?」
「相手がすでにご機嫌斜めだ」
俺は視線で天野を示す。
「・・・・・・」
さすがに真嶋も天野の様子に気が付いていたようで、俺の発言に押し黙った。
「それに・・・」
俺は天野のほうに振り返り、
「それに、ここでは私語を慎め。図書委員に叱られるぞ」
真嶋は意味が解らなかったようで、頭の上に疑問符を浮かべていたが、他の二人は俺の皮肉を当然理解できたようで、特に天野がリアクションをくれた。
「邪魔したな」
俺は若干冷や汗流し気味の麻生に対して言ったのだが、
「二度と来ないで!」
と天野に怒鳴られた。正直俺も二度と来たくなかったが、おそらくまた来ることになるだろうな、などと虫の知らせ的な雰囲気を感じながら、返事の代わりに、
「図書室では静粛に」
と言って図書室をあとにした。