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その9

ちょいと早めにUPします。対占い研対策会議です

 さて。おそらくライバルになるであろう占い研究会の連中に目をつけ、観察を始めてから一週間が経過した。そして、出た調査結果が、


「かなりやばいです!」


 何やらすでに事件を解決してみせたそうだ。うむ、やるな。うちは最初の相談者が来るまで、発足から二ヶ月。さらに解決に至るまでにプラス一ヶ月要したのだ。だいたい十二倍くらいのスピードだ。しかもその噂は口コミでどんどん広がり、クラスでも話題に挙がったりする。


「どうしましょう、やばいですよ成瀬さん!」

「ああ、如何ともし難いな」


 俺としてはあまり興味のないことなので、正直どうでもいい。何がそんなにやばいのか、いまいち理解できない。


 あからさまに興味なさそうな反応を示した俺だったが、岩崎は本気で焦っているのか、俺のリアクションについて何のお咎めもしなかった。


「このままでは我々の積み上げてきたものが全くの無駄になってしまいます。何か手段を講じなくては」


 まさに市場経済のようだ。部活は金を取らないわけだから、消費者を呼ぶのはサービス内容ということになる。その点、うちはあまり芳しくなく、逆に連中はうまいことやってのけたと言える。


「どうしましょう、成瀬さん」


 正直鬱陶しい。少し落ち着いたらどうなんだ。何をそんなに焦っているのか知らないが、どんなに最悪な結果が出ようとも命まではとられないぞ。


「あいつらの情報は集めたのか?」

「はい、集めました。けれど対策になるようなものはありませんでした」


 岩崎は自分のかばんからファイルらしきものを取り出し、俺に手渡した。中を開けてみると、そこには最初の事件解決から今日に至るまでの、やつらの関わった事件の概要が記されてあった。相変わらずこういう作業には文句のつけようがない。


 まず、最初の事件。以前から続いていたいじめともいたずらとも呼べるような事件に、誰に頼まれるわけでもなく着手したようだ。それは客観的には些細なことであり、教師や友人に相談しても明確な解決策を見つけることができるものではないのだが、さすがに警察沙汰にするには小さすぎるような事件で、最終的には被害者が泣き寝入りするしかないようなものであり、当面の解決策がない事件だった。それをあっという間に解決。そこから名前が広がり、興味本位でやってきた依頼主の相談もほんの二・三日で解決してしまう。それらの小さな事件の解決が徐々に人気を呼ぶことになり今に至る、と。


「何だが意図的なものを感じるな」


 名前を売るために発足し、事件を解決したみたいな印象を受ける。それが、この資料を見た直後の率直な感想だった。


「そうですよね。不特定多数を相手とする事件って結構噂になりやすいですし、それを解決したら自然と噂が広まりますからね」

「となると、連中には生徒の悩みを解決する以外に目的があるってことか?」


 麻生の発想は間違っていない気がする。俺も考えていたことだ。まあ、人気を獲得するためにいろいろ手を尽くすのは現在の市場経済上でも当たり前のことであり、人気や名前が売れてから出ないとできないこともある。名前を挙げるために占いを選び、人気が出てから本来の目的に向けて行動を移す。別に何ら問題のないことである。そこに、悪意が介在していなければ、の話ではあるが。


 とにかく今考えることは他にある。悪意があろうとなかろうと、事実としてあいつらは現在人気を獲得しているということだ。存在意義云々は脇に置いておいて、依頼人を奪われかねない状況に瀕している。独占状態だった悩み相談という市場に新規参入会社が現れ、競争をしなければならない状況になってしまったのだ。今のところ完全に劣勢であり、それを打開しなければならないわけだ。


「まあ、そんなに難しい話でもないが」

「どういうことですか?」

「簡単だ。連中の人気をそのまま奪い取ってしまえばいい」


 岩崎も麻生も頭の上に疑問符を浮かべている。


「丁寧に説明してやると、あいつらに直接対決を挑み、勝利すればいい。そうすればTCCのほうが優秀であることが客観的に示すことができるし、それができればあいつらの人気をそっくりそのまま貰い受けることができる」


 岩崎は俺の考えをしばらく咀嚼するように小さく口に出して反芻すると、


「それは、思いつきませんでした。名案です。単純明快ですし、将来的にも相手への牽制にもなります」


 岩崎は大きく頷くと、俺の考えに賛成を示した。


「しかし、成瀬さんもあくどいことを考えますね。人気をそのまま掠め取り、何食わぬ顔をして相談を受け続けるわけですね。盗人猛々しいとはこのことです」


 口ではこう言いながら、岩崎はとても嬉しそうである。元来悪人の考え方が合っているやつなのだろう、正義感のあるやつやスポーツマンシップを体現しているやつならこの考えに反対のはずである。ところが岩崎のやつはすっかり乗り気である。ヒッヒ、と悪人特有の笑い方まで使い始めている。俺は、


「まあ、正攻法だけでは世間は渡っていけないからな」


 と言い訳じみた言葉を一言つけたし、


「お前はどう思う?」


 と麻生にも意見を聞いてみた。


「悪くない。というか、むしろ率先してやりたいね。悪の手先というのも実は嫌いじゃなかったりするんだよね」


 それは相手が正義であること前提の話だな。加えて、TCCは悪の手先なのか?


「そうなってくると、解決する事件のほうも選びたいですね。噂として広がりやすく、かつ、そこそこ難易度の高いものを選択しないといけませんね」

「そうだな。そうなるとやっぱ不特定多数をターゲットにした連続窃盗とか?」

「悪くないですね。連続しているものはそれだけで噂になりますし、やはり不特定多数というところが重要でしょう。次は自分が狙われるかもしれないという気持ちが、事件自体への恐怖心をあおります。その恐怖を一掃してあげれば我々に尊敬のまなざしを向けてくれるでしょう」

「そうなれば入部希望者も増えるかも。信者やスポンサーが現れたりしてな!」

「そうなるとTCCはかなり拡大できるのではないでしょうか?私は過剰にメンバーを増やすつもりはないのですが、どうしても入部したいと言う人が出てきてしまったら、そしたら下部組織を作りましょう」


 どんどん妄想が膨らんでいる。こいつらどれだけ幸せものなんだ。とは言え、現在はこんな感じでいいと、俺は思っている。今から意気込んだところで、事件すら起きていないのだ。

アクセルと踏み込んでもファイナルラップまであと何週あるのかも、そもそもゴールが存在しているかも解らない。先の長い戦いなのだ、前半は多少温存しなければなるまい。どうせ、事件が起こり明確なゴールが見えたらアクセル全開にしてしまうのだから。やれやれ、やる気ばかりでペース配分という言葉を知らないやつらの手綱を握るのは苦労するぜ。しかも、上手に握らないと、手綱でさえ操ることができないんだからなおさらだ。


 というわけで、あっさりと説得することができてしまった。簡単なやつらだ。


 言っておくが、俺は乗り気なわけではない。何度も言っているが、TCCの存在意義なのどうでもいいし、加えて連中が何を企んでいても俺に被害が出なければはっきり言って興味ない。ではなぜ、俺自ら対策案など出し、二人をたきつけるような真似をしたかと言えば、明確なところ俺にも解らない。ただ、漠然と嫌な予感がするだけだ。


 占い。つい最近まで俺には無関係で、無関心な対象だったにもかかわらず、俺の意志とは違うところで何か特別な意志が働いているのではないかと言うほど、あっという間に俺の近いところに蔓延り始めやがった。正直気分が悪いし、気持ちが悪い。それが理由だ。理由が軽い?俺はそうは思わないね。誰しも気持ちが悪いものが嫌いなはずだ。排除できるのなら排除したいはず。ゴから始まる四文字の名前の害虫が自分の部屋に現れたとき、反射的に叩いてしまう理由など、気持ち悪いからで十分だ。そんな不快感にも似た感情が俺の中を満たしている。気持ち悪い。誰かのシナリオの中で、そのシナリオどおりに動かされている、そんな感じがするね。


 この前の占い師から始まり今回の占いがらみの同好会、誰かの意図が介在しているに違いない。さすがの俺も今回は偶然であるとは思わなかった。


 ちなみに俺の作戦についてだが、万が一敗北を決してしまった場合、排除されるのは俺らのほうであるというそこそこ大きな欠陥を抱えているわけであるのだが、それは内緒の話である。


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