フェアリーの告白。
また生徒会長からメールが来ていた。適当に内容見繕って、勉強会は行けないと返信する。
“身勝手だって分かってるけど、今会ったら、自分の気持ちを確かめてしまう。”
「ぉ–ぃ、、ぉ–ぃ、、、。おーい! 七瀬!」
「・・・はっ!」
気がつくと悠人くんが僕に話しかけていた。
「おいっ、七瀬大丈夫かよ? 昼飯も全然食べてないし。話しかけてもぼーっとしてるし・・・。それに最近仲よかった生徒会長も見かけねーし。」
そう話しながら、悠人くんの目は僕のお弁当に視線が合っていた。
「食べないなら、俺が食べちゃうゾォー!」
悠人くんが入学式のような不思議な動きで迫ってきた。
「いいよ食べても。食べる気分じゃないんだ・・・。」
「冗談だよ。七瀬マジでお前大丈夫か?なんか ここ最近おかしいなぞ。ずっとぼーっとしてる。」
「・・・。」
「お前とは長い付き合いなんだから、相談くらいしろよっ。」
「何でもいいだろ。」
「何でもよくなんかない。俺たち・・・友達だろ。」
「・・・じゃあ言うけど、もし好きな人と絶対に結ばれない場合ってどうしたらいい?」
「えっ・・・。恋の悩みだったのかぁ。」
悠人くんは困った顔をした。
「えーと。えーと・・・。」
悠人くんは眉間にシワをよせながら考えていたが、この調子だと答えは出そうになかった。
「そうなるでしょ。何もできない。だから悩んでるんだよ。もう忘れるくらいが楽なんだよ・・・。」
そういうと悠人くんが机を叩き、立ち上がった。
「諦めるなよ!俺には、何で結ばれないのかも分からないけど・・・。俺だって色んなことで悩んだことはあるんだぞ。 七瀬はすごいって俺は思う。勉強だっていつもトップで、俺なんか足元にもおよばねー。うまく伝えられないけど・・・。俺は・・・。」
悠人くんの声にクラスは静まっていた。
「悠人くん・・・ありがとう。でも、どうすることもできないことってあるんだよ・・・。」
悠人くんのあんなに熱の入った言葉は、初めて聞いた。
“僕は、知らない間に周りに迷惑をかけていたんだ・・・。”
次の日には、もう悠人くんはいつもの悠人くんに戻っていた。
「悠人くん。昨日はごめんね。」
「いいって。俺も熱くなっちまった。」
悠人くんは普段の表情で、また学食の話をし始めた。
僕は悠人くんに相談をしていない後ろめたさが耐えられなかった・・・。
「悠人くん!!」
悠人くんは話の途中で名前を呼ばれ、少しビックリしていた。
「ちょっと来て。」
僕は悠人くんの手を引いて屋上まで連れて行った。
「おいっ ここ立ち入り禁止じゃねーの?」
「いいから!」
僕は悠人くんの手を離し、深呼吸をした。
「おいっ。七瀬どうしたんだよ急に?」
「昨日、僕が悩んでるって言ったでしょ。実は・・・。」
「・・・。」
「・・・僕会長さんのことが好きなんだ。」
「っ!?」
悠人くんは驚いた様子を隠せないようだった。
「七瀬・・・お前。なんで・・・俺。」
「僕、会長さんが好きで・・・、どうしようもなくて・・・。」
「でも・・・。でも男同士だろ?なんで・・・。」
「だから、悩んでたんだよ!会長さんは僕とは友達でしか見られない。だから・・・。だから・・・。」
「・・・。」
「っう・・・。」
「七瀬。・・・辛かったんだな。気づいてやれなくてごめんな。俺が気づいていれば・・・。」
悠人くんは黙って肩を貸してくれた。
“悠人くん、少し震えてる・・・。そんなに考えてくれてたのかな・・・。ごめん・・・ごめんね。”
「・・・僕、何も言わずに悠人くんに当たって迷惑かけてた。それをちゃんと謝りたくて・・・。ごめんね。」
「いいってよ!お前と何年一緒にいると思ってるんだよぉ。七瀬は七瀬だ。」
-そう励ましてくれた悠人くんは、僕を強く抱きしめていた。-
夏休みに入り早3週間が経つ。
「台風13号が本州に接近中です。関東地方には今日午後6時ごろ・・・。」
テレビでは朝から天気予報ばかり放送してる。
“特に予定もないし、どうでもいいか。”
生徒会長との勉強会も一学期だけで、もうメールも来なかった。
僕もやっと生徒会長への気持ちを忘れられそうだった。
携帯の着信が来た。
-会長さん-
その文字を見るのも、大昔前のように思えた。
「もしもし・・・。」
ずっと聞かなかった声。
「おー。電話出てくれたか!久しぶりだな。」
「お久しぶりです〜。」
“声が震えた。気づかれたかな?”
「後ちょっとで夏休みも終わるな。1年も休み明けのテストあるんだろ?また俺の家で勉強しないか?」
突然の誘いに戸惑った。
「だっ 大丈夫ですよ。」
「そうか。じゃあ 今日なんてどうだ!?」
「・・・えっ。今日ですか?」
「何か予定あったか?」
「いえ!ないです!!」
とっさに答えてしまった。悪い癖だ。
「じゃあ 俺の家でまってるからな。」
「ちょっ・・・。」
-すでに電話は切れていた。
僕は生徒会長の家へ向かった。
あいにく、空は曇り空。
無意識に聞いていた天気予報を思い出した。
“大丈夫かな?”
「久しぶりだな。」
そういって生徒会長は、僕を出迎えてくれた。
「夏休みの課題やったか?」
“予定もさほどなかったし・・・。”
「やりましたよ。」
「じゃあ テスト対策そのままできるな。」
そう言って生徒会長は僕の頭を撫でた。
勉強会が始まり数時間が経った。外は雷と雨の音が激しくなってきた。
「おっ 雨強くなってきたな。」
そう言って生徒会長はテレビを点けた。
「台風13号が関東地方に上陸中です。不用意な外出は・・・。」
「うわっ!? 今日台風来てたのか。ごめんな小熊、今からでも家 帰るか?」
「・・・いいです。もう今帰ってもいつ帰っても同じですよ。」
「そうか。じゃあ 帰るときは送っていくからな。」
生徒会長は僕がずっと勉強会を断り続けたことの理由も、連絡をしなくなったことの理由も聞かなかった。
ただ、いつもの勉強会だった。
「夏休み中何してたんだよ〜。全然会わなかったからちょっと気になってた。俺は勉強ばっかしてたな。親も大学受験にうるさいしな。なぁ小熊、お前の友達の永瀬とかと遊び行ったりとかしたか〜?海とかいいぞ。」
「別に・・・。」
「別にってなんだよっ。勉強に明け暮れる日々って感じか?」
「関係・・・なぃ・・・。」
“違ぅ・・・。”
「ちゃんと課題もやってたしな。」
「関係なぃ・・・じゃん。」
“違うんだ・・・。”
「おい、小熊。どうした?具合悪いのか?」
“忘れるなんて・・・できるわけないよ。”
「大丈夫です。別に悪くないです。」
「本当か?念のため薬取ってくるから待ってろ。」
そう言って立ち上がった生徒会長を、僕は引き止めた。
「会長さん・・・・・・。」
「どうした?他にも何か必要なもの・・・。」
「会長さん!」
「なんだっ?」
「もぅ・・・。もう僕に・・・優しくしないでください。」
“分かってる・・・。”
「でも、本当に調子悪そうだぞ。顔色もよくなっ・・・。」
「あなたはいつもそうやって!なぜ僕に優しくするんですか!?」
“分かってるんだ・・・!”
「もう やめて下さい!!」
「すまん。俺、気に触るようなことしたか?」
“絶対に結ばれないって・・・。”
「これ以上。僕は耐えられないんです。僕は・・・先輩の前でとんでもないこと言い出しそうで・・・。」
僕はもう生徒会長の顔は見れなかった。
「小熊・・・。言ってくれなきゃ。俺はどうすることもできないんだよ。聞かせてくれ・・・。何も怒ったりしないから。」
“好きを言ってしまったら・・・。”
「・・・。」
“言ってしまったら・・・。”
「小熊・・・。」
「す・・・っきなんです・・・。」
「ん?」
「す・・・きなんです。」
「・・・ちゃんと言ってくれよ。」
「・・・好きなんです!。会長さんが好きで・・・。一緒にいたら・・・僕、もう何も考えられない・・・・・・。」
「小熊・・・。」
「・・・。」
「俺っ・・・。」
「気持ち悪いですよね・・・。男が男を好きだなんて・・・・・・。もうこれ以上。あなたに嫌われたくないんです・・・。」
「・・・・・・。」
「帰ります・・・。お邪魔しました・・・・・・。」
「待ってくれ・・・。 台風来てんだぞ!」
「・・・。」
「・・・七瀬!!」
“もう 戻れないって。分かってた。”
-後悔の雨音は消えず、雷は近くなって来た。もう何も残りはしない・・・。-