第6話 天上世界での話
「あははは。そんなにビビらなくてもいいわよ。少し脅してみただけ。進はわたしが携帯アプリを開発している会社に入社したことは知ってるわよね」
知っている。
当時、それは話題になったから。
緒川春奈は優秀な生徒だった。
学年首席で容姿端麗。
超一流の企業の内定をいくつも取っていたし、某テレビ局の女子アナ採用試験の最終選考まで残っていた。
そんな彼女が選んだのが新興のベンチャー。
IT企業と言えば格好いいがソフト開発がメインの何でも屋だ。
当時は弱小もいいところだった。
皆は呆れて、彼女は気が触れたのではないかと噂になったものだ。
そんな企業が今では業界大手に仲間入り、急成長で東証一部上場も夢でないところまで来ている。
彼女の先見の明は間違いなかったのだ。
「それでうちの会社が一年程前にあるニュースサイトの運営会社を買収したの。いま、わたしはそこで働いているのよ」
「なんだよ。その会社でオレを面倒見てくれるのか?」
「そんなわけないでしょ。表だって大手出版社にケンカ売るようなことできる訳ないじゃない。わたしが出来るのはあなたに後ろ盾を紹介してあげることだけよ」
「後ろ盾だって?」
なんか途端に胡散臭い話になってきた。
警戒レベルを一段上げる。
そんな進の反応を春奈は面白がっていた。
「そう後ろ盾。さっき、貴方のことが業界中で噂になっているって言ったわよね。その話が某新聞社の偉い人の耳まで入っちゃったのよ」
とんでもないことを軽く話す春奈。
進は渇いた喉を潤すためにジョッキに手を伸ばす。
しかし、中身は既に空だった。
それを見ていた春奈が進の分を注文する。
「それでどうなったんだ」
「興味を持ったその偉い人がある政治家にその話を通したの。そして、わたしに順番が回ってきた」
進はごくりと生唾を飲み込む。
話の大きさに頭がくらくらしてくるのだった。
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