第5話 提案
「ねえ、あんたの悪巧みに一枚噛んであげる」
進は何を言っているのかわからなかった。
いや、本当はわかっている。
そして、それが待ちに待ったものだということも。
だが、それに素直に頷くことは出来なかった。
進は確認する。
「オレの悪巧みを知っているのか?」
「あんたは気付いてないかもしれないけど業界では結構有名な話よ。あんた派手に動きすぎ。それにあんたかなり質の悪い大物に目を付けられているのね。業界中に話を聞くなって出回ってるわよ。あんたの悪口とセットでね」
やっぱり、あいつの仕業か。
進は歯軋りをしていた。
そんな進を春奈は含みのある笑みを浮かべてみている。
そして
「確か『芸能記者を標的にしたゴシップ誌』だったわね。本気でやりたいの?」
真面目なトーンで聞いてくる春奈に進は素直に頷いた。
それを見た春奈はうんうんと嬉しそうに頷くと
「それわたしが手伝ってあげる」
軽くそんなことを言ってくる。
進はその提案に応えることが出来なかった。
進はいい意味でも悪い意味でも春奈のことを信用している。
この女は自分の得にならないことは絶対にしない。
いや違う。
例え損をしても何年かかってでも必ず回収する。
こいつはそういう女だ。
泣き寝入りなど絶対しない。
その女が進を助けてくれるというのだ。
それはなぜか?
将来性を見出したから?
進の正義に賛同したから?
この世のことを思って?
バカを言うな!
この女が自分の特にならないことをするわけがない。
進はジッと観察する。
彼女は純真無垢な笑顔で進を迎え撃つ。
天使のような悪魔の笑顔だ。
ならどうしてだ。
こいつになんのメリットがある。
しかし、いくら考えても分からない。
わからないから素直に聞いた。
これは進の長所だろう。
「オレに手を貸してお前になんのメリットがある」
静かな声音で問い質した。
その質問に春奈は質問で返す。
「わたしのメリットとあなたにしてあげられることは密接に関係してるんだけど聞く気がある? 聞いたら戻れないかもよ?」
その挑発ともいえる問いに進は何も考えずに頷いていた。
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