第21話 おやっさんの紹介
「どうしてもお礼がしたいなら一つ頼みたいことがあったんだ」
露骨に嫌な顔をして見せる、進。
そんな彼を見ておやっさんは大声をだして笑っていた。
「あはははは。そんな警戒せんでいいわい。一人面倒を見て欲しい奴がいるんだ」
「面倒?」
本当に面倒を掛けられそうで勘弁してほしいのだが、おやっさんはそんなことを聞く気はないようだ。
「こいつなんだがな」
写真付きのプロフィールを渡された。
準備が良すぎることに溜息しか出ない。
どこまでが計画的なのかさっぱりわからないから困ったものだ。
ただ、おやっさんのことは信用できる。
下手な人間は紹介しないだろう。
それに騙されても仕方ないと諦められる。
それくらいに進はおやっさんのことを信頼していた。
「えっと……」
進は渡されたプロフィールを見てみる。
見た目はどこかひねたような目が特徴的な少年。
細身で小柄。
髪も染めてないし格好も白シャツにGパンと普通だ。
どこにでもいる大学生という感じだろう。
なんでこんな普通の若者が?
進は首を傾げることしか出来なかった。
プロフィールは……
名前は新井忠。
歳は18歳。
東大に合格して上京。
情報屋になりたいとおやっさんの元にやって来た。
はあ、なんで一般人がおやっさんのことを見つけられるんだよ。
そう思いながら先を読む。
高校時代、家庭の問題やいじめを理由に引きこもりになる。
時間を持て余した彼はプログラミングを独学で学び、ネット界隈では有名なハッカーとなった。
そして、愉快犯として活動していたそうだ。
その活動は晒し行為。
主に未成年者の殺人犯やいじめで自殺に追い込んだ加害者、殺人予告など行った者の身元を洗って実名などをネットに流していたらしい。
正義漢ぶったバカか
そう思って進ははっきりと断ろうと思った。
だが……
「これは本当なんですか?」
「ああ、忠がここに来た理由はそれだ」
そこに書かれていた一文
『誤情報を流して一人の女性を自殺に追い込む』
「気付いた時には遅かったらしい。慌てて訂正や情報の抹消に手を尽くしたそうだが、一度ネットの海に流れた情報は次々に拡散されて消しきることなど不可能だ。そうしている内に精神的に追い込まれた女性が自殺したんだそうだ。ちゃんと裏も取れている」
進はその時の忠のことを思って目を瞑る。
ペンは剣より強しとはよく言ったものだ。
この時代、人を殺そうとするのに武器などいらない。
ネットにつながる環境と方法さえ知っていれば簡単にできてしまう。
社会的に人を抹殺するなど容易いことなのだ。
そして、人間は脆く、簡単に自殺してしまう。
「それでなんでそいつはおやっさんのところに?」
進の目は厳しい物になっていた。
普通なら罪の意識でネットに触れるのを忌避するようになる。
罪悪感がないバカはさらにエスカレートする。
もし調子に乗って第二、第三の被害者を出すようなら
ギラリと進の目が光っていた。
獲物を狙いすました獰猛な肉食獣の目だ。
そんな進を見ておやっさんは盛大に溜息を吐く。
「そんな怖い顔をするなよ。オレがお前にバカを紹介すると思うか? そんな奴ならオレが先に潰している」
強面のおやっさんが言うことには信憑性があった。
確かにおやっさんなら、そんな奴、散々痛めつけたあと。コンクリ詰めにして東京湾に沈めててもおかしくない。
そんな失礼なことを考えている進をおやっさんンがひと睨み。
大きく息を吐いてから話を続ける。
「忠は情報の正しい使い方を教わりに来たんだ。ネットから一切手を引くことも考えたみたいだが、それは違うと思ったそうだ。こういう被害者が出ないように自分に出来る精一杯のことをしようとか青臭いことを言ってたよ」
「なるほどね。おやっさん、そう言うの好きそうだもんね」
「うっせえ!」
照れ隠しなのか大きな声を上げる、おやっさん。
そんな彼を微笑ましく見ながら進は
「それでオレに面倒を見ろと?」
「ああ。それにどうせ人手不足なんだろう? ネット調査の腕なら現時点でうちの誰よりもスゴイ。便利だぞ」
進は少し悩んだ。
だが、確かに即戦力の人材は欲しい。
ただ、一つ気になることが
進は事務所の住所の書かれたメモを渡す。
「本当にオレに預けていいのか、おやっさんが判断してください。OKなら明日の午後1時ここの住所に来るように伝えてください」
おやっさんはメモに書かれた住所を確認すると驚愕に目を見開く。
「お前、ここって」
おやっさんならわかると思って渡したのだが、こんなに驚くとは思ってなかった。
進はニヤリと笑ってその場から立ち去る。
おやっさんのあんな顔を見れただけでここに来た価値はあったというものだ。
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