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ペンはペンで斬る  作者: 吉見アキラ
第一章 創刊
13/43

第13話 プロデューサーの陰謀


「彼の評判について何か聞いていませんか?」


「いくつものヒット作を作った映画界では有名な名プロデューサーよ」


「そうですね。ですが、ここ数年目立ったヒット作は出ていない。前回は某男性アイドル事務所一押しアイドルの初主演映画を作って大コケしましたよね」


「あれは事務所の口出しと本が酷かったのよ。あれで責められるのはちょっとかわいそうね」


「ですが、作品の責任は監督とプロデューサーに回ってくる。彼は崖っぷちに立たされていたんですよ。今回の作品は何としてもヒットさせないといけなかった」


「そんなまさか」


 春奈の誘導に女社長はまんまと乗せられていた。


「その通りです。プロデューサーが映画の話題作りとして木島さんを利用したんです」


「嘘よ。そんな話、信じられない。あの人がそんなことをするわけが――」


 首を振って否定する女社長。

 今回の映画は木島奏太にしても大抜擢だった。

 そんな恩人と感じていた人に最初から騙されていたと言われても信じたくないだろう。


 でも


「今回の木島さんの役どころおかしいと思いませんでしたか?」


「それは結婚したから、いつまでも爽やか路線ではいられないでしょ。こういう悪い役も出来るというのは役者としても幅が……」


「そうですね。ですが、復讐の為に女を次々に騙す役と言うのは都合が良すぎませんか? イケメンヒーロー俳優が女を騙す悪役を、さらに実物もそうだった。出来過ぎた話ですよね」


「そんな……」


 女社長はまだ春奈の話を疑っていた。

 というより、信じたくなかったのだろう。


 だから――


「別にわたし達の話を信用する必要はありません。まあ、保険と考えておいてください」


「保険ですか?」


 首を傾げる女社長。


「ええ、我々は独自に取材を続けます。得られた情報は随時提供しましょう。もし、この話がデマなら普通に対処するしかありません。しかし、もし嵌められたのなら……」


 一拍置いて春奈がニヤリと笑う。


「逆にこっちが利用してやりましょう」


 そう言うと今後の作戦について説明していく。

 女社長はまだ半信半疑だったようだが、黙って話を聞いてくれた。


 そして、説明が終わり席を立とうとした時だった。


「申し訳ありません。こんなことをして貴方たちになんのメリットがあるのですか?」


 そこが一番の疑問だったのだろう。

 この社長、業界に長いこといるのでタダより怖いものがないことを知っている。

 この世界は信用が第一なので借りを作るというのは危険な行為なのだ。


「そうですね。今回の件はわたし達のWEB雑誌の宣伝にもってこいだったからです」


 春奈は正直にぶっちゃけた。

 そして、さらに踏み込む


「あと、成功したらでいいので高崎社長を紹介してほしいんですよ」


「高崎社長を……」


 女社長の顔が引き攣った。

 そう高崎修と言うのはそれほどのビックネームなのだ。


 高崎エンタープライゼスの三代目社長、高崎修。

 いくつもの事務所をその傘下に収める巨大芸能プロダクショングループのトップ。

 創業者の孫で親の七光りとも言われたが実力でその評価を覆した。

 今では芸能界のドンと言われるほどの影響力を持つ。

 しかし、ほとんど表舞台に現れない。


 彼が売り出した歌手、俳優、女優、アイドルはすべてトップを取っており、

 それは彼の眼力や手腕がなせる業なのか

 それとも権力のなせる業なのか

 と恐れられる人物。


 春奈はそんなビックネームを出してきた。

 確かに高崎なら良いスポンサーになってくれるかもしれない。

 でも、まだ会ったばかりで信用もないのにそんな話を持ち出して良いのか?


 進は心配そうな目を春奈に向ける。

 しかし、春奈の表情は揺るがない。

 目を逸らさずに女社長と向き合っている。


 そして


「返答はこの件が片付いてからにしましょう。では、社長さんもお忙しいでしょうからこの辺で失礼します」


「えっ、ええ」


 春奈が席を立つと、若干、顔を引き攣らせたままの女社長も席を立った。

 そして、出口に向かいかけ春奈は立ち止まる。

 訝しそうにそんな彼女を見る女社長。


 春奈は振り向きざまに


「近いうちにプロデューサーがあまり反論せずに認めた方が良いと言ってくるはずなので決して頷かないでください。事態が動くまではノーコメントでお願いします」


 それだけ言い残してドアに足を向けるのだった。


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