第40話
それじゃ、と言って通話を切った私は、年末帰らなかったからやってなかった、自分の部屋の整理をついでにすることにした。
2階に上がって、学祭前の合宿以来に戻ってきた自分の部屋に入る。
一応、部屋の掃除はお母さんがやってくれてるらしく、綿埃が転がってる、みたいなことも埃っぽさも無かった。
今の学校へ転入する前に、結構ごっそり整理した事もあって、見える範囲だとあんまり物が無いけど、
わ、しばらくここ触ってなかったもんなあ。
机と逆サイドの壁にある押し入れを開けると、下の段に段ボールがみっちりと詰まっていた。
小学生のときは何かしらを集めるのが好きで、しばらく部屋に置いて眺めてから、それを適当に箱へ放り込むというのを繰り返していた、というのを思い出した。
そんな押し入れ下段右の箱の上に、
――ッ。
前の学校指定のスクールバッグが横倒しで置かれていた。
ほぼ使ってないから、それはほとんど新品ぐらいに綺麗なままだった。
あんまりそれを意識しないようにしながら、左側から箱を引っ張り出して中を確認する。
3段積まれた箱の一番上には、壊れたおもちゃや何の物だか分からないフタとか、そんなガラクタが詰め込まれていた。
どれもこれも懐かしくはあったけど、流石にこんな山のようには要らないし、特に思い出がある物だけ残すことにした。
それを片づけてから1個下を開けると、
あれ、これ全部空き箱だ。
妙に軽いなあ、と思っていたら、英語が書いてあるお菓子とか、なにかしらの小物とかの箱ばっかり入っていた。
当時は全部宝物だったんだよな、と思い返して、私は苦笑いを浮かべながら、やけに綺麗なままの箱を畳んでいく。
そんな調子で、別の段ボール箱を開けていくけど、4箱もそんな空き箱ばっかりので、いくらなんでもため込み過ぎな過去の自分に、私はちょっと呆れた。
7箱あるうちの6箱目は、新聞紙に包んである空き瓶で、珍しい形のものから普通のそれまでいろいろと入っていた。
だいたい、こういうのってアルバムとか昔の雑誌とか、そういうのを読みふけっちゃって進まない、とかあるはずなのに、そういうのが一切無いまま作業が進んでいく。
そしてついに、残りがあと1箱になったところで、
「ん? あ、整理してるの」
お母さんが開いていたドアからひょっこり顔を覗かせて、積まれている畳まれた箱を見て訊いてきた。
「そう」
「荷造りヒモいる?」
「うん。もってきて」
「はーいよ」
ちょっと待ってて、と言ってお母さんは顔を引っ込めると、ドタドタと階段を降りていった。
さてと、これは何が入ってるんだろ。
その上に乗ってるバッグを意識しない様にしながら、私はグイッとそれを引っ張り出そうとする。
だけど、敷居に箱の端が引っかかって前のめりに倒れてきた。
「うわっ! いたっ!」
なんとか段ボール箱が横倒しになるのは回避したけど、その上のバッグがずり落ちてきた。
ファスナーが開いてたらしく、それは私の右腕に当たって、引っくり返って中身が出てきた。
散らかったそれを見ないようにしながら、急いで回収してバッグの中に戻していく。
ふう……。危ない危ない……。
なんとか何かしらがフラッシュバックする前に、全部しまうことに成功した。
今度はうっかり出てこないように、ちゃんとファスナーを閉めて押し入れの中に突っ込んだ。
「今なんか、大きい音したけど大丈夫? はいヒモ」
それと同時に、お母さんがビニールの荷造りヒモを持って、心配そうに部屋へ入ってきた。
「ああうん。ちょっと落としただけだから。ありがと」
「そう?」
残りがあんまりないそれを受け取りつつ、お母さんにそうやって説明した。
気を付けなさいよ、と言って、またパタパタと階段を降りていったところで、
「休んでなさい、って言われたでしょ母さん!」
「この通りピンピンしてるじゃないか。心配しすぎだよ」
どうやら、働こうとするお婆ちゃんと鉢合わせたらしくて、下からお母さんの大声が聞こえてきた。
お婆ちゃん、この調子で長生きしてくれそうだなあ……。
やいのやいの、と言い合うのに、私は思わず苦笑いしてしまう。
「だいたい、いつも人の言うこと聞かないで――」
「自分の事は自分で分かってるよ! ボケ老人扱いは心外だね!」
「そんな事言ってないでしょうが!」
「まあまあ」
「紅葉さんは、今日ぐらい休んでください、って気を遣ってくれてるんですから」
今度は、伯父さんとその奥さんがその仲裁に入って、言い合いを収めようとし始めた。
「お母さーん、私、後で手伝うから、お婆ちゃんに休んでもらってー!」
それに加勢しようと、私が手をメガホンにして下へ声を張って言うと、
「だって、母さん」
「分かったよ。可愛い孫に言われちゃ仕方ないね」
煮えたお湯へ水を入れたみたいに、すぐにわちゃわちゃは収まった。




