4.露時雨と親類の在り方。
災難というのはどうも積み重なるものらしい。
知っていたつもりだったけれど、それを再認識した。
そんな、不幸続きの本日今。
「……お兄様?」
家の前。
学園から凡そ歩いて15分程度、近くのデパートと商店街の間を一本外れた路地の裏。
若干、いや実際かなり寂れた場所である其処は、以前自殺者が出たとか出ないとか噂が立つ借り屋。
それが事実かどうかはさておいて、今の住処であるその前に。
今見たくない人物がいた。
「…………。」
視界を若干逸らして中心に入れない。
極めて無視。
速度を若干速め、片手に持った商店街の袋を一度強く握り直す。
可能ならば捕まる前に家に逃げ込みたい。
そんな僕の願い事。
「……どうして、無視なされるのです?」
「怖いから無音で近付かないでくれるかな……!」
そんな願いが叶うわけもなく。
通りすがろうとする真横に寄り添うように、一人の少女が張り付いていた。
こうなると引き剥がすのは中々骨がいる――――だからこそ、したくなかったのだが。
意思が通じるように、大きく溜息を吐いて。
「……何してるんだ、菖蒲。」
「お兄様のお世話の為に待機ですが?」
細い絹のような黒髪を腰まで伸ばした、着物姿の少女。
金森 菖蒲。
伯母さん……司書の魔女の一人娘。
つまりは、僕の従姉妹に当たる。
才色兼備、という言葉が文字通り当て嵌まる才女。
僕の一つ下、中学三年で生徒会副会長。 学力も常に3位以内には入っている。
……ただ、何故か。 僕に妙に懐いてきているのだけが不思議な存在。
「要らないから帰れ。 もう何時だと思ってる。」
「まだ7時半……塾に通ってる生徒ならば出歩いてる時間ですよね。」
「それは屁理屈っていうんじゃないのかお前……。」
割と本気で、何故懐いているのかが分からない。
僕は只邪険にし。
彼女はただ、それを硝子のような目で受け入れていたはずなのに。
気付けば――――そう、一年程前から、こんな調子になり始めたのだ。
伯母さんに相談しても、「受け入れろ」の一点張り。
本当に、味方がいない事の苦痛は耐え難くて。
「一人が嫌なら送ってやるから帰れ。」
「お母様から預かった、夕餉もあるのですが……。」
「……待て、まさかお前の分までか。」
「はい。 このままでは私は食事抜きですね。」
その、何処か無機質な中に感情を映した目を伏せて。
明らかに僕が悪い、と雰囲気だけで訴える。
言葉には出さないけれど。
重圧だけを掛けてくる、この行動だけは。 母娘そっくりだった。
「脅すのはやめろ……。」
「事実を事実のままお伝えしているだけですが。」
「それが脅しだって言ってんだよ!?」
恐らく、何を言っても動かないだろう。
そういう人種なのだ、此奴は。
だから。
本当に、嫌々だが。
今すぐにでも帰って欲しいが。
「飯食ったら帰れ。」
「はい!」
「反応はえーよ!?」
僕が折れるしか無いのだ。 毎度毎度。