0.終わったキオク。
数年前の記憶。
決して忘れられない日の出来事。
――――静かに、春雨が降る夜だった。
「落ち着いて聞いて下さい。 御家族の車が、運転を誤ったトラックに巻き込まれて……。」
一本の電話。
その日は友達との用事で、一人だけ別行動をしていた日で。
帰ってきても、暫く待っても、夕御飯の時間になっても。
連絡すら無く、ただ静かに帰ってくるのを待っていた。
そんな僕に待っていたのは。
そんな、たった一本の事務的な。
今までの生活に終わりを告げる、死神の通告だった。
それからの事は、余り覚えてはいない。
全てが事務的で。
全てが乾いて見えていて。
慌ただしくやってきた親戚が、何かを用立て、集まっては去っていく。
家族と引き換えに得たお金。
お金に群がる見知らぬ人達。
全てがどうでもよく見えていて。
それらを振り払うように、僕はたった一人になった。
時間が過ぎれば、そんな人達も減っていく。
事故として処理された家族は、物言わぬ躯となって墓地へ。
群がった親戚たちは、たった一人の僕を疎ましがるように去って行き。
友人達も、気の毒がっていたのはほんの少し。一人を残して去って行き。
トラックの運転者は、必死で頭を下げていたけれども。
気付けば、慰謝料と言う名の手切れ金を残して牢へと向かって。
残ったのは、たった一人になった家族と。
それでも、声をかけ続けた母の妹家族だけだった。
孤独。
唐突にやってきたそれは、乾いていて、冷たくて、静かで。
共にある友人としては、不思議と悪くはないように感じて。
毎日のように足を運んでは、家に閉じ籠もる僕を見てくれる伯母さんと。
孤独と、両親が残した本だけが友人となっていた。
乾いた紙が漂わせる不思議な匂い。
それだけが、癒やしとして僕の心に残り。
――――気付けば、僕は高校生になっていた。