影人、人の子を育てる3歳
季節が2回変わり、オーレルが3歳になった。
ここまでにいろんなことが多くあった。
オーレルがハイハイで歩けるようになったり森羅族に新たに子供が4人産まれたりなどである。
しかし、このような出来事が一瞬で吹き飛ぶほどのことが昼頃にセルムルスの前で起こった。
「こはん〜」
オーレルがハイハイしながらご飯という意味の言葉を彼には放つ。彼は、その瞬間手に持った食器を落とした。
「今・・・喋ったのか?」
「こはん〜」
その瞬間、セルムルスは自分の全力の速度で小屋か、飛び出した。鬱蒼に生い茂る木々を走り抜け森羅族がいる集落に向かう。
「サリー!!」
集落に着くなりサリーのいるテントに入る。
「どっどうしたんですか!?」
「いいから来い!!」
「えぇ?ちょっきゃあ!」
セルムルスは、サリーの襟を掴むと有無も言わさず走りだす。この時、彼女は絶叫マシンに乗ったような感覚に陥ったのだが彼には知るよしもない。彼の小屋に着く頃には真っ白になって放心していた。
「何ぼけっとしてる!!早く見ろ!、見ろ!!」
「・・・一体、何なんですか・・・」
「こはん〜」
「ああ。オーレルちゃん、喋べれるようになったんですか。」
「そうなんだ!!これは、普人族では早い方じゃないか!?オーレルは、天才かもしれん!!」
「いえ、これは多分、平均的かと・・・それより、ご飯作らなくていいんですか?」
「おお、そうだった。どうだサリーも食うか?」
「ええ、いただきます。」
セルムルスは、台所へと消えていくのを見るとサリーは大きくため息をつき
「あなたの父親は大変な子煩悩ね。」
オーレルの頭を撫でた。
「3歳なら、魔力測定をしなければなりませんね。」
昼食を食べ終えたところでサリーが思い出したように言う。
魔力測定。
特殊な魔法を用いてその人の魔力の量とどの属性に適正があるか調べることが出来る。
この世界では魔力は3歳ぐらいで固まり算出することが出来る。これはどの種族でも同じだが唯一の影人族だけは例外である。その理由は、影人族の誕生が他の種族とは全く違うからである。
「あー。そうか、サリーすまないが頼めるか?俺は影魔法以外使えないからな。」
「かまいませんよ。じゃあ、早速・・・」
オーレルの頭に手を当て魔力を込めて詠唱する。
「その者の真価を探りここに表せ。・・・スループ。」
オーレルの頭から虹色の光が空高く昇る。
「こっこれは!?信じられない・・・こんなことが・・・」
「どうしたんだ?」
「・・・適正は全属性、魔力の量は測りきれません。」
「おー!すごいなーオーレル!!全属性だとさ。」
セルムルスはオーレルを抱き上げ持ち上げる。オーレルは嬉しいのか笑って楽しんでいる。
「すごいなんてどころじゃないですよ!!普通なら属性は1つ!よくて2つ。!!それを全属性?それにこの魔力の量なら軍くらいと対等に戦えることだって可能かもしれないんですよ!!?」
「そう言われてもな。ようわからんよ。とりあえず、全属性使えるってことは便利に使えるってことだろ?」
「そんな簡単に・・・」
これほどの逸材が世に放たればどうなるかサリーには容易に想像できた。下手したら世界の敵になるかもしれないと。それゆえに彼女は心配していた。
しかし・・・
「今日は良いことづくめだ!お祝いしなきゃな。」
日々、父親として成長するセルムルスを見て何故か安心感を得てしまう。彼なら、オーレルをキチンと育ててくれると。
今、自分に出来ることはこの2人を見守ることしかできない。彼女はそう思いながら2人を見続けた。