影人、歴史を知る。
サリーと再会をした日から1日が過ぎた。
朝早くからセルムルスは、小屋からサリー共に出かけていた。寝ているオーレルをカゴに入れて背負いながら起きないように静かに歩く。
「それで?どこにいるんだ?」
「もうすぐ着きますよ。」
神々の庭と呼ばれるこの森にはオルトロスやムーファスパイダーなどの強い魔物が多く生息している。そんな魔物が生息する中で森羅族は格好の獲物である。
それらから生き残って生活するのは至難の業だ。そのため、セルムルスの助力をサリーはお願いした。自分たちよりも長く生活しているセルムルスなら頼りになると確信したからである。
彼は、それを了承し、森羅族がいる場所に案内してもらっている。
「ここです。この茂みの奥にいます。」
サリーが茂みをかき分けると、そこには地獄が広がっていた。
片目を失った女性が死んだように木にうな垂れ、左足を失った男性が呻き声をあげなから地面で横になっている。それ以外の者も何らかしら怪我をしていた。
「・・・ずいぶんと少ないな・・・」
「男性15名、女性13名、子供8名です。」
かつては、数千人はいた森羅族は今や50人にも満たない現状に彼は強く憤りを感じた。
「・・・ここまで、するのか・・・」
「この100年で普人族は大きく変わりました・・・」
「・・・俺が知らない内に何があった?」
サリーは、普人族について知っていることを全て話した。
影人族が滅ぼろした後、200年もしない内に1つの国は2つに別れた。
1つは前から存在しているエホバ帝国。
そして、ある有力貴族がクーデターを起こし独立したシナプス王国。この両国はそれから幾度も戦を行い拮拮抗を維持していた。
「・・・しかし、それもある者たちの出現によって覆されました。」
「勇者・・・と呼ばれる者だな?」
拮抗している状態を脱するためにシナプス王国はある魔法を開発した。
その名も召喚魔法。
膨大な魔力を使い異界から人を召喚する魔法である。
そして、その召喚魔法は成功した。そして、驚くべき発見をした。召喚された人は高い魔力を所持しておりそして、個々に特有の能力があることが判明したのである。それから、シナプス王国は幾度も召喚魔法を繰り返し異界人を召喚し続け異界人に戦闘技術や、魔法を教えた。そして、戦闘能力を鍛えた異界人を勇者と名付けた。
「そして・・・グリプト紀489年。・・・今から50年前に両国の戦争で勇者が投入されました。」
その戦争はあまりにも一方的な戦いだったと人々は語った。
帝国軍2000、対して王国は400。誰もが帝国が勝つと思っていた戦争は帝国が壊滅的な打撃を受けて撤退したことで覆された。
「その時、投入された勇者は6人。王国は死傷者をあまり出さずに勝利しました。」
帝国に勝った王国はこの大陸で実質的に頂点にたった。一方、戦争に負けた帝国は経済困難に陥り国が崩れかけたが何とか持ち直し維持している。
「既に他種族の領土も王国は奪い取り王国の領土は大きくなりました。そして、私たちにとって災厄が起き始めた時期になりました。」
五代目シナプス国王、リブラ・レーム・シナプスは10年前にある宣言を発布した。
普人族史上主義。
『普人族こそが神々に愛されて産まれた存在でありそれ以外の人種は普人族に隷属される種族である。』
この宣言以降、普人族は他の人種を奴隷として扱い劣等種と扱った。
それに、他の種族が黙っているわけがなかった。
他の種族たちは普人族対抗連合を結成し普人族と全面対抗する。しかし、勇者という存在により大きな行動は出来ずに現在まで続いている。
「・・・・・・」
セルムルスは何も言うことが出来なかった。想像以上に世界が変わっていたからである。
これは、1つの世界の終わりでありまた、新しい世界の始まりである。
互いに尊重していた世界から残虐で悲惨な世界へと。
その途中で消えた影人族は良かったかもしれない
こんな世界を見ることはないのだから
セルムルスは、かつての優しい仲間を思い出しながらそう思った。