影人、人の子を育てる。1年
あれよ、あれよと時は過ぎ、セルムルスがオーレルを育て始めて1年が経過した。最初は、上手く出来なかったおしめ作りも上達し失敗せずに作れるようになり乳の飲ませ方もオーレルが飲みやすく温めることを覚えた。
現在、セルムルスは、オーレルを背中に担ぎ畑を耕している。オーレルと会う前は、自分が生きれば良い程度の気持ちしかなかったが、会ってからは全てにやる気を持って行える。
(自分のためではなく人のために働くことができる。
・・・懐かしい気分だ。)
影人族が存在してた頃は、人のために仕事をしていた。親しい人を守るために厳しい修行も耐えて力をつけた。それの気持ちが何よりも誇りだと思えていた。
だが、それも長い年月をかけて深い深い暗闇の中に沈んでいった。
(オーレルを引き取ったのはある意味で俺のためだったのかもしれないな。)
セルムルスは、背中にいるオーレルの頭を撫でる。撫でなれて嬉しいのか笑顔をセルムルスにうかべる。それを見てより一層、愛おしく感じてしまう。そして、その時、森の中から何かしらの気配を感じた。
懐かしい。そう思ってしまう。500年前に感じたものと同じ、モノを観察するような視線。
「オーレル。ここで、ちょっと待っててくれ。良い子にしてるんだぞ。」
オーレルを丸株の上に置いて足元に魔力を込め、視線を感じた木へ向くと。
「影玉。」
彼の影から人の拳程度の球体が放たれる。風のごとく放たれた球体は木に当たるとその木をなぎ倒してしまう。木が崩れる中、人影が飛び出しセルムルスの前に着地する。緑を基調とした装束を身につけ、顔に緑色の布で覆い目だけが見える。その者は、セルムルスを睨み付けた。しかし、セルムルスは、動じない。
「まさか、ここに俺とオーレル以外に人族がいたのは驚いた。」
「・・・・・・」
「だが、仲良くしようと来たわけじゃないだろ?」
「・・・・・・」
「お前にどんな理由があってここに来たか知らないし興味もないが・・・」
「・・・・・・」
「オーレルに危害を加える奴を近づけさせるわけにはいかない。」
「・・・・・・」
装束の者は、腰から短剣を2本を逆手に持つと素早くセルムルスのところまで移動し右手に持つ短剣で斬りつける。
セルムルスは、左に避けると左手持った短剣が彼を襲う。セルムルスは、それをしゃがんで回避し敵の胴体に向けて拳を放つ。装束の者はその攻撃をセルムルスの腕に足を組ませ右に倒すことで対処した。
セルムルスはその反動で右に倒れ、すぐさま転がって場所を移動する。先ほどまて彼がいた場所に短剣が突き刺さる。
両者は、互いに距離をとり緊張状態が続く。
(強い・・・・)
セルムルスは、純粋に相手の実力を認めていた。
身のこなし。戦闘技術。どちらも一流と言えるほどの力を備えている。
(たが、まだ浅い・・・あまり実践を積んでいないな。)
修行と実践は違う。敵は、修行は積んでいるが実践はあまりやっていないとそう考えた。
(こいつが実践を積んだらどうなるか・・・)
セルムルスは、口角が上がるのを感じた。
嬉しい。
様々な技術を持つ強い敵が目の前にいる。
そいつが、自分とオーレルに危害を加えようとする。
親しい者を守るために力を振るう。やっと叶えられる。
本来なら、笑ってはいけないのにセルムルスは笑みを隠せない。突然、笑い出した敵を見て装束の者は疑問を持つ。
「・・・なぜ、笑っている。」
低い声で男は言う。
「いや、なに。悪く思わないでくれ。けっして、お前をバカにしたわけじゃない。ただ、嬉しくてな。」
「嬉しいだと?」
「ああ。やっと自分のやりたかったことが叶ってな。」
「・・・化物の感情などわかるものではないか。」
「化物か・・・500年前にも同じことを言われたよ。」
その瞬間、静かに立たんずんでいた木々がまるで彼から逃げるようにざわめき始める。激しく豪雨に晒されたように枝を揺らし葉を落とす。
「何だ?」
突如にして変わった敵や景色を見て装束の者は恐怖を感じる。
敵は1人。
それなのにまるで複数人を相手にしてるような感覚。
「さぁ、少し本気をだそう。覚悟してくれ。」
その言葉を聞いた装束の者は、如何なることにも対処できるように身構える。
そして。
気づいた時には頭を地面に抑えられ首元に鋭い爪が突きつけられていた。
「・・・・!??!」
「それじゃあな。」
装束の者が何も理解出来ずにこの世から消えそうになろうとした瞬間。
「マッド・シェイプ!」
セルムルスに向けて土の槍が襲いかかる。セルムルスは、それを後ろに跳躍し距離を取ることで回避する。
(新手か?)
土の槍放たれた方角から1人の女性が現れる。
長い金の髪を後ろに結び装束の者同じように緑を基調とした服を着てそしてなによりも特徴的なのは長い耳を持つ森羅族の美女。
「よくも、私の仲間を傷つけたわね。覚悟しなさい。」
「族長・・・」
族長と呼ばれた美女は、敵意を出しているがセルムルスは違った。彼女は、彼が昔見た森羅族の娘の面影を持っていた。
「もしかして・・・サリーか?」
セルムルスは、その森羅族の娘と会った時の呼び方で問いかける
「・・・影人族?それにその言い方・・・」
先ほどの敵意は消え族長と呼ばれた美女は目に涙を浮かべる。
「うそ・・・セルム叔父さん?」
500年の年月を超えてセルムルスは自分の知り合いと再会した。