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影人と人の子は出会う

声の聞こえた方にセルムルスは走る。小さく聞こえた声は大きくなり近づいていることがわかる。

「はっはっはっ・・・」

思っていた以上に遠い。それでも、走るのを止めない。自分自身でもわからない。だが、とにかく早く突き止めなければ。あの泣き声の元を。自分を呼んでいるように聞こえる泣き声の主を。そうして、走り続けると木々は途切れ1面に荒野が広がる。

「ここは・・・死の荒野。」


死の荒野。


昼は服が燃えるほど暑く、夜は、水が凍るほど冷える。その極度の温度変化より生物は生息出来ないことから、そう呼ばれている。また、人間が神の庭に近づけなかった要因の一つでもあった。

「いつのまにか、出ていたか・・・」

セルムルスは、辺りを見渡した。

(この景色を見るのも随分、久しぶりだ。もう、2度と見ることはないと思っていたが・・・)

普人族に追われ、必死に神の庭を目指した。影人は、温度を感じない。だから、特に問題なく通れるし普人族がここを通ってまで追いかけてくることはなかった。

「あの声の主は?」

その泣き声は、セルムルスがいる場所よりも遠くから聞こえる。しかし、徐々に近づいている。衝動に駆られながらセルムルスはその場所に走っていった。

日は既に沈み、辺りはサンサンと照らしていた太陽が照らす世界から静かに細々と月と星が照らす静寂の世界へと変わっていく。そんな夜道をセルムルスは走る。そして、ようやくたどり着いた場所。声の主がいる到着点。その場所には、人の屍が5つ転がっていた。

「これは・・・」

予想だに出来なかった光景に一瞬、戸惑いを隠しえなかった。その死体は、それぞれ武器を持って死んでいる。恐らくここで、何かに襲われことが尽きたのだろう。中には、身体を潰され性別がわからなくなっている屍もあった。しかし、辺りには生きている生物はいない。では、あの声の主はどこにいるのだろうか。

その、答えは簡単に見つかった。その声は1つの屍の中から発されていた。

その屍は、美しい顔立ちをした普人族の女性だった。恐らく、生きていれば通った者が振り返っただろう。しかし、屍となった今では腐った肉の匂いを放ち身体の数箇所はウジが湧いていた。その屍の腹は膨れていた。そして、そこから泣き声は聞こえる。

「・・・すまない。」

セルムルスは、その屍に謝罪を言い屍の腹を切り開いた。中には、赤ん坊がいた。薄く生える金髪。愛嬌のある顔。将来、美しくなると思えるその赤ん坊は顔をくしゃくしゃにしながら大声で泣いている。本来なら、母親の身体が死んで栄養が来なくなり一緒に死ぬだろう。それでも、生きていた。栄養が来なくなっても泣くほどの力を残して。凄まじい生存能力だった。

「お前か?お前が、俺を呼んだのか?」

セルムルスは、傷つけないようにその赤ん坊を抱き上げた。赤ん坊は、キョトンとした顔をした後、セルムルスを見て笑った。セルムルスたち、影人族は普人族に追われ散っていった。本来なら、普人族は憎き仇である。しかし、その赤ん坊を笑い顔を見た途端に全てがどうでも良くなってしまった。

(もう、アレから何百年と過ぎている。今更、復讐しようなんて・・・)

愛おしいように丸い赤い目を細めて赤ん坊を見る。赤ん坊は、嬉しいのかキャッキャと笑っている。

(今、生きているのは、そのことを忘れている普人族だけ。そいつらに復讐なんて御門違いだな。)

(この子は、俺が育てよう。そして、立派な大人になったらこの子を本来、いるべき場所に帰そう。)

「だとしたら、お前に名前をつけなければならないな。どんなものがいいか・・・普人族の名付け方なんてわからんしな。」

どんな名前を付けようか考えていると空から何かが羽ばたく音がしセルムルスのすぐ近くに降りた。それは、3目のカラスのような姿で人を同じぐらいの大きさがあった。

「ギャギャギャ!」

「屍グールか。」

セルムルスは、その姿をみてその化物の名を言った。この世界には、魔物がという人とは違う生物が存在する。それは、体内に魔石という魔力を帯びた石を持っており、長年生きていくとそれが大きくなる。その魔石の大きさによってその魔物の力は強いという証になる。今回の屍グールは、臆病で人の死骸を好み喰らう掃除屋である。

「失せろ!この遺体は、お前らが、食っていいようなものではない!」

セルムルスが、魔力を込めた声で威圧する。

魔力。

それは、生きる生物、全てにやどりその恩恵をうけている。その魔力によって人々は魔法を放つことができる。また、魔力の多さには個人差が存在しこれが差別を要因の1つとなってもいる。今回、セルムルスが行ったのは魔力を自分の声に乗せ相手を威嚇した。その威圧を受けた屍グールたちは、大急ぎで羽を羽ばたかせ逃げていった。

「ふう。」

「ビャーン!ビャーン!」

赤ん坊がセルムルスの放った威圧に驚き泣いてしまった。

「おお!ほら、大丈夫だ。怖くない怖くないぞ〜」

慌てて赤ん坊を泣きやませようとするが止める方法を知らないためどうすればいいかあらゆる方法で止めようとする。そして、身体を小刻み揺らす方法で赤ん坊は泣き止みホッとする。そして、本来の目的である名前決めを思い出す。数分、考えたのちにセルムルスは1つの名前を決めた。

「今日からお前は、オーレルだ。」

オーレル。影人族の言葉で月の夜である。

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