影人、勇者と相見える5
蒼透影の能力は相手と影を共有しコントロールすることが出来る。そして、共有した時にセルムルスは、彼の記憶を見た。
それは、孤独で虚しく、助けてくれる手を差し出してくれる人がいなかったという絶望。その裏にあった愛を求める気持ち。
(こいつの人生は、同情に値する。だが、手加減する気はない。)
トシノリの人生は普通の生活とはかけ離れているだろう。あのような、性格になってしまうのも致し方ないと思う。
(しかし、やってはいけないことをお前はしてしまった。他人にも同じ苦しみを与えてしまった。)
彼の記憶の中でセルムルスは、トシノリが他種族の家族を殺す場面を見た。愛を求める彼は、他人からそれを奪う。けっしてやってはいけないことを彼はした。
「お前は、人生を間違えたトシノリ。俺は、俺の大切な家族と友を守るために・・・お前を殺す。」
「はっ!ほざけ、いくら殺したところで、すぐに回・・・」
「魔力が尽きるまで・・・だろ?」
「な!?」
「言っただろ。俺は、お前を知ったって。」
セルムルスが右手を握ると、トシノリの影が彼の足を切断する。バランスを取れなくなって地面に仰向けに倒れたところにさらに、両手足を影を伸ばし動けないように固定した。
「こちらも、覚悟を決めたんだトシノリ。お前も覚悟を決めろよ。」
「なっ何を!!」
トシノリが、全てを言い終える前にセルムルスは、彼の首を切断した。数秒たつと直ぐにトシノリの首は生え元に戻る。
「がっ!!」
そして、戻ったところをすぐさま、斬り落とす。そして、また、戻る。
「てめ・・・」
また一回、斬り落とされ生える。
「く!!」
また一回。
「ふざ!!」
また一回。
「いい・・・」
また一回。
セルムルスは、ただ黙々と彼を殺す。
トシノリと共に来た女性、マヒルは今、目の前で起きている現実に吐き気をもよおしていた。
トシノリがなすすべなくただ、殺され、回復する。いっそ、一回で死ぬのが幸せだと思わせるような。
(何なの・・・あの化物?あのトシノリがあんな猫に遊ばれるトカゲ見たいに・・・)
人語を話す影を立体にしたような化物、人語を話せる時点で自分達と同じくらいの知能を有していると理解出来る。
最初のところは、技術に差があった異能の力とベヒモスの装備で優位に立っていたはずなのに化物の身体の色が変わった途端、立場は逆転してしまった。
(どうすれは・・・でも、どうして、鎧が防がない?)
マヒルは、魔力を目に込め相手の魔力を見えるようにする。
(何あれ・・・トシノリの魔力に相手の魔力が混じってる?)
魔力とは言わば血のようなもの。
魔力は、身体を巡り循環している。けっして他者の魔力とは混じらない。
マヒルに魔法を教えた師匠に教えてもらったものの1つだ。
一人一人の性格が違うように魔力にも個人差がある。相手の全てを理解しない限り、魔力が混じることなどできないと。
(ありえない!!魔力が、混じるなんて!!)
しかし、彼女目にはしっかりと混じっているのが見えた。それに、魔力が混じっているならば鎧が反応しないのも頷ける。
勝てない。
マヒルはそう予測を立てた。そして、この予測は高い確率で当たっていると確信していた。マヒル自身が参加しても敵に勝てる予測を立てられなかった。
(逃げなきゃ・・・アレには勝てない。)
戦うという選択肢を捨て如何に、トシノリを連れてこの戦場から離脱するか。マヒルは、考えていた。
相手は、自分に関心を向けていない。
(自分だけなら、逃げ切れる・・・でも・・・)
いくら、嫌な相手でも同郷の者が死ぬをほっとけるほど彼女の性格は曲がってなかった。
「純粋なる炎よ、矢の形になりてかの者を射よ。・・・・フレイムアロー!!」
彼女の前に炎の塊が現れ、矢のような形に変える。炎の矢は、真っ直ぐに目の前の敵に向かう。
「チッ!!」
敵は、攻撃を中断し、素早く後ろに下がる。矢は、敵がいた場所に当たり爆炎をあげる。
(今のうちに!!)
マヒルは、己の異能【転移】を使い、トシノリのところまで転移する。トシノリは、魔力が尽きかけているのか身体は回復せず、辛うじて息をしている状態だった。マヒルは、トシノリと共に【転移】を使おうとする。
「逃がすか!!!」
マヒルの意図に気づいた敵は、手を前に出す。
「ひっ!!」
相手の気迫に驚き、マヒルは【転移】の対象を自分たちから敵に変更して
「どっかいけぇぇぇぇぇぇ!!」
場所を指定せずに相手を転移させる。敵は、彼女の目前で、光の中に消えていった。
辺りは、ついさっきまで戦闘があったのが嘘のように静けさを取り戻した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・早く、逃げなきゃ・・・」
いつ同じ存在が来るかもしれない状況でこの場に留まるのは危険と考えたマヒルは、トシノリと共に自分たちの住む王城へと【転移】した。