影人、勇者と相見える4
突如、起こった出来事にトシノリは疑問を抱いた。
(何だぁ?突如、身体が炎みてぇになりやがった?)
激しく燃えている敵にトシノリは背から汗を流した。
(オレ様が、緊張している?)
トシノリがこの世界に召喚されたのは2年前。その間にも様々な魔物と戦い勝利してきた。
彼には、剣の才能はあるとは言えない。普通の兵士程度である。トシノリ自身もその自覚はあった。それでも、彼は自信に満ち溢れていた。
彼が、召喚される際に手に入れた異能【超回復】。
魔力を消費して自身を回復させる能力。
膨大な魔力をもっていたトシノリにとって異能の代償は大して問題にはならなかった。
異能の力で強者となったトシノリは今まで戦闘で緊張したことなどなかった。
(バカな!このオレ様が!!緊張だと!?ふざけるな!!)
自身の感情に戸惑いを感じているトシノリの前で敵の身体が爆発した。
そして、その爆発の中心に青い炎に身を包んだ敵がそこにいた。
「おいおい!激しいエフェクトを出したと思ったら!色が、変わっただけじゃねぇか!!」
変化はただ、青くなっだけ。それを見てトシノリは緊張感が偽物だと決め込んだ。
「・・・コレは出来るなら使いたくなかった。」
「あ?」
「影魔法奥地、蒼透影。影魔法の真髄の一端だ。」
「・・・何、言ってやがる?」
「影魔法は本当の己を知ることを目的とする。そして真に己を理解した時、相手を知ることが出来る。」
「ごちゃごちゃ、うるせぇんだよ!!」
トシノリは、剣を向けその口がセルムルスを食らおうと飛んでくる。
「もう、お前の攻撃は当たらない。」
セルムルスは何もしない。ただ、そこで立っている。
しかし、口は、真上へと向かいそこから、斜め向こうの地面に突っ込んでいく。
なぜ、急に方向が変わったのか?
それは、トシノリの"影"から生えた棘に彼の全身を貫かられたから。
(何!?)
すぐに回復し意識を戻したトシノリは混乱した。けっして、当たることのない攻撃が通ったからだ。
「クソが!!」
再度、剣を振ろうとするが振る前にトシノリの影から生える棘に貫かれる。
ベヒモスの鎧は敵の攻撃を吸収する。しかし、現実は攻撃を受けている。この矛盾が、さらにトシノリの混乱を招く。
(何でだ!?何で、敵の攻撃が当たる!?)
そこから、何度も何度も攻撃しようとしては、影の棘に刺されて殺される。そして、回復するその繰り返し。だが、この繰り返しも変化しようもしていた。
(マズイ、マズイ、マズイ・・・魔力が、オレ様でも感知できるほど減ってきた・・・)
膨大な魔力が今では、その半分以下ほどに減っていた。
減ったことに気づき冷静を取り戻したトシノリは、むやみやたらと攻撃するのことを止めた。
「てめぇ!!何をした!?」
「何をしたと言われたら・・・お前のことを知ったくらいか。」
「・・・どういう意味だ?」
「蒼透影は、相手のことを知る魔法。それによって俺は、お前のことを知った。」
ハッタリだ。トシノリはそう思った。本当の自分のことなど理解できる奴は存在しないと確信していた。
「可哀想に。今で、誰にも愛されて育なかったか・・・」
セルムルスの言った一言がトシノリの心の奥底に深く響いた。まるで、自分の過去を知っているかのような言い方だった。
「親に虐げられ、自分自身の無力さに絶望した。」
「・・・やめろ。」
「そして、自分自身の人生を呪った。」
「やめろ!!」
「この世界に召喚され、異能という力を手に入れて始めて自分の価値を見出した。」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「だけど、奥底では未だに願っている。誰かに・・・」
トシノリは、セルムルスが最後まで話す前に剣を振るおうとする。しかし、その前に影から棘ご伸び彼を貫く。
「だから、言ったろ?これは、相手のことを知る魔法だと。そして、その影は果たして自分でないと言い切れるか?」
(そう言うことか・・・)
彼の言ったことで、トシノリは自分が攻撃をくらうわけがわかった。ベヒモスの鎧は、敵の攻撃ならば全て吸収する。なら、攻撃が敵ではなく自分自身からの攻撃なら?
ベヒモスの鎧は反応しない。
答えを知ったトシノリは、この世界で始めて恐怖を感じた。
(奴が、影を操っているかぎり。勝ち目がない・・・そして、それを破る手段はない。)
手段がない以上後は、魔力が尽きるのを待つだけ。
これから起きることを想像しトシノリは身体から冷や汗を流した。