影人、勇者と相見える3
竜巻が消えた時、トシノリの姿は変容していた。
コートを羽織り革鎧程度しか装備していなかったが今は、不気味な鎧に首から下を身に包んでいた。
血で染めたかのような色の鎧に多くの口のような物が存在し空気を食べてるかのように動いている。剣も大きな口が刀身を覆い隠し、口が動くことで僅かに刀身が見え隠れする。
「・・・えらく様変わりしたじゃないか?」
「てめぇが、もっと弱かったらこれを使わずに済んだが・・・まぁ、いいや。どうだ?すげぇだろ?こいつは、ベヒモスの素材で作った特注品だぜ?」
この世界には、大罪龍と呼ばれる7匹の龍が存在する。ベヒモスは、その中の1匹。
「ベヒモス・・・討伐されていたのか・・・」
暴食龍ベヒモス。
それは、長年に渡って人類史上最も危険とされは魔物。幾多の生物を絶滅に追い込んだ世界の敵。
行動は1つ。ただ、食べるだけ。その腹を満たすことなく永遠に食べ続ける。
「そうそう。オレ様が来る前に殺されていたのがシャクだが・・・この剣や鎧は結構、役に立つんだ!」
トシノリは、剣をセルムルスに向けると刀身を覆っていた口が襲いかかる。
「ふっ!」
セルムルスは、それを右に避ける。その後に口は地面にぶつかり土埃をたてる。
「影玉。」
避けきった後、セルムルスは影玉をトシノリに放つ。ドッペルゲンガーたちも同じ影玉を放つ。
影玉は、真っ直ぐ進みトシノリにぶつかるが、鎧についてた口が影玉を食べる。彼らが、放った影玉はトシノリに当たることなく全て口に食われた。
「悪いな、この鎧はあらゆる攻撃を食っちまうだ。」
堂々と言い放つトシノリの顔は、優越感に浸っていた。
(状況は、更に悪くなった・・・)
あらゆる攻撃を吸収する鎧。
例え、通ったとしてもトシノリの異能【超回復】によってすぐに回復する。
鎧の能力に異能。
相性の良い2つが合わさり、さらに、トシノリが脅威となる。
「オラオラオラ!どうしたぁ!?もっとぉいくぞぉ!!」
笑いながら剣を振るい、口がセルムルスを食べようと突っ込んでいく。セルムルスは、それを上手く避けその間にドッペルゲンガーたちが魔法で攻撃するが全て、食われてしまう。
(本体が、無理なら!)
セルムルスに狙った口は、地面へとめり込んでいるところに強力な左蹴りを口の範囲外の横側に叩き込む。
しかし、たいしたダメージは受けているようには見えなかった。再び、食らおうとする口から距離をとる。
(マズイ・・・本気で、アレを使わないと殺られる。)
セルムルスにとって死ぬことはそれほど、恐怖は抱いていなかった。むしろ、仲間の元に行けると望んだこともあった。
(オーレルが!!・・・自分の娘が成長した姿を見る前に死ぬわけにはいけない!!)
「・・・俺たち。アレを使う。戻ってくれ。」
「な!!本気か!?」
「危険すぎる!!飲まれるぞ!?」
「俺自身なら、わかるだろ?この気持ちを。」
ドッペルゲンガーが自分自身の投影。
この場で、彼らだけがわかるセルムルスの気持ち。
かつての親友の娘とその一族。
そして、何よりも大切な宝物の娘。
それを守りたい。
「・・・わかった。」
「すまないな。」
「謝るな。俺よ。」
「あぁ、俺たちはお前でお前は俺たちはだからな。」
そう言い残して、ドッペルゲンガーたちは彼の影へと溶けていく。
「何だぁ?諦めたのかよ?おい。」
「いや、まだ、死にたくないからな。・・・少し、本気を出させてもらう。」
「・・・あぁ?」
「見せてやる。俺たち、影人族の魔法の真髄を。」
セルムルスは、足元の影に自分の残っていた魔力を全て注ぎ込む。そして。
ユラユラとロウソクの火のように揺れていた身体は、業火の如く燃え始めた。