影人、勇者と相見える2
トシノリとセルムルスは2度目の対峙をする。トシノリはおもしろそうに顔を笑いながらセルムルスを見ていた。
「なるほど・・・そう言えば勇者は魔法とは別に異能があったな。」
「へぇ・・・魔物の癖に異能についても知ってるのか。」
目の前にいる存在が自分たちのことを知っていることにますます、おもしろ味を感じていた。
「俺は、確かに手ごたえを感じた。とすると・・・死すらも回復する能力。それがお前の異能か?」
「その通り!!これこそが、最強の異能【超回復】!!てめぇが、いくら殺そうがオレ様には敵わない。ということで・・・」
トシノリは足に力を込め一気に走りだす。
「さっさと、諦めて死ねや!!」
トシノリが振り下ろす一撃を左に避けながら半回転してトシノリの脇腹を蹴る。
ボキリ。
トシノリの肋骨が折れ、不気味な音を奏でる。
「ぐう!」
「まだ!!」
セルムルスはさらに、剣を持っている右腕を掴み本来、曲がることない下へと力を込める。
グキャ。
肘は上へと盛り上がり腕は力を無くし、ぷらんと垂れ下がる。剣は地面に落ちていく。
「あと、一撃。」
「しつけぇよ!!」
トシノリは、落ちていく剣を右手で取り横に振り抜く。
「くっ!」
予想外の攻撃に後ろに飛び退くが肩を少し斬られてしまう。折ったと思っていた右腕は既に治っており剣を回していた。
「おらおら!どうしたぁ!?」
トシノリは、剣を両手で持ち左斜めに構えて突っ込んでくる。
「影糸。」
セルムルスは、足元に魔力を込め大量に糸を形成する。
「巻きつけ」
彼の命令と同時に糸はトシノリの四肢と首に巻きつく。
「影糸変異、糸鋸。」
トシノリに巻きついた糸は刃を作りトシノリの皮膚に喰いこむ。セルムルスは右部に巻きついている糸を左手に握り左部に巻きついているのを右手に持つ。
「影糸応用型、型離れ。」
両手をクロスさせて全力で引っ張る。糸はそれによってトシノリの四肢を斬り落とした。
(これなら!)
彼の狙いは、四肢を斬り落とし地面に倒れたトシノリが回復する前にさらに攻撃を加えることだった。しかし・・・
「無駄だって言ってんだろぉが!!」
彼の予想よりも早く四肢が新しく生え、セルムルスの方に近づいてくる。
「影玉。」
彼は、影から拳サイズの球体を大量に作りトシノリに向けて放つ。数の暴力がトシノリに襲いかかるがトシノリは、避けようとはせずそのまま向かってくる。彼の玉が当たるたびに当たった箇所が潰れるがすぐに回復する。
「うっとうしいぞ!オラ!!」
トシノリは喉を狙った突きを放つ。セルムルスは、魔法を放つのを止め、身体を後ろへと反りそのまま、バク転の要領で距離を取る。
(まずい・・・このままではジリ貧だ。)
相手は、死んでも生き返る能力を持っている。体力に際限がない。一方、こちらは魔力を消費している。今は、余裕があるが、それが覆るのは時間の問題だった
(あの、能力が厄介過ぎる。何とかしないと・・・)
「なぁなぁ。もう、諦めて死ねよ。てめぇの攻撃がオレ様に無力なのはわかっただろ?」
「まだ、わからんぞ。こっちもまだ、全力を出していないからな。」
「はん。世迷言を・・・」
(切り札は・・・あるが、アレは最後の手段。もう1人勇者がいるのに使うのは危険すぎる。)
彼の持つ切り札。それは、強力な故に代償も大きい。
敵が、1人残っていることでそれを使うのが躊躇われた。
(とりあえず、切り札を使わずに一気に叩き潰す!)
セルムルスは、魔力を込め魔法を放つ。
「影魔法変異型、ドッペルゲンガー」
己と同じ分身を3人作りだす。
「行くぞ!」
セルムルスが言うと同時にドッペルゲンガーと共に駆けトシノリを攻撃する。
「うぉ!?」
トシノリは、剣で横薙ぎして近づけないように牽制するが、ドッペルゲンガーはそれをしゃがんで避け1人が腹を殴る。そのすぐ後に2人目のドッペルゲンガーが顔面に蹴りを加える。そして、すぐさま、3人目は2人目の肩を踏み台にし跳躍し両手を組んで頭に叩きつける。そして、最後にセルムルスが背後に周り、回し蹴りを放つ。
トシノリの身体は地面に数回バウンドしながら転がって倒れる。
(回復する前に!)
セルムルスとドッペルゲンガーたちは、さらに攻撃を加えるべく駆ける。未だに、寝転がったトシノリめがけて4人同時に足を振り上げる。
「・・・いい加減、ウザイぞゴラぁ!!」
トシノリは吼えた瞬間、赤黒い竜巻が彼の周りに発生する。
「くっ!!」
セルムルスとドッペルゲンガーは同時に身体の重心を後ろに下げ、それと同時に振り上げた足を直ぐに戻しそのまま、後ろバク転をして回避する。しかし、ドッペルゲンガーの1人が回避が遅れ竜巻の中に消える。
「グァァァァァ!!?」
ドッペルゲンガーの姿が消えた瞬間に強烈な痛みが全身に渡った。
セルムルスが扱う魔法の1つドッペルゲンガー。
それは、単なる分身などではなく、言葉通りに自分自身を複数作る魔法である。能力はまったく同じであり本人の実力が高いほど、強い魔法になる。だが、当然、代償もある。それが、ドッペルゲンガーとの感覚の同化。ドッペルゲンガーが感じた、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、痛覚、これら、全ての感覚を共有することになる。それは、多く出すほど増大する。そのため、セルムルスは痛みを感じたのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
セルムルスは、死ぬほどの痛みに必死に耐えながら相手を見る。既に、トシノリの身体は元に戻っており、赤黒い竜巻を纏っている。
「もういい!遊びは終わりだ。せっかく、このオレ様が優しく殺してやろうと思ったのに。・・・やめだ。」
トシノリは、剣を空に掲げる。
「あらゆる、供物を食べろ!!暴食剣!!」
剣は、竜巻と同じ色に輝き始めトシノリの身体を包み込んだ。