月魔石(ルナンマギア)伯爵夫妻の甘やかなる思い出
淡い月光が照らす夜。
華やかな王城舞踏会の、その裏側。
夜目にも鮮やかな花々が咲く、王城庭園にて。
「――フィオナ嬢」
穏やかな声音が夜風にのる。
花に埋もれて膝をつき、水石の瞳を愛しげにほそめて。
青年は、ふわりと優しく微笑んだ。
「――ラズアル様?」
不思議そうな音をのせて、可愛らしい声が問いかける。
ゆるやかな弧を描く白銀の髪を、花弁と共にゆらしながら。
少女は、跪く青年に片手をあずけ、翠玉の瞳を瞬かせた。
刹那にして、永遠なる一瞬。
ふっと動いた青年が、少女の真白き手の甲に。
永久なる愛の口付けを――ひとつ。
「!」
ぱちり、と見開かれた翠玉の瞳に、優しい水石の瞳が交わる。
そして――。
「――フィオナ。君は僕の瞳にとって、どんな宝石よりも輝かしい。だからこそ――どうか僕に、君のその白銀と翠の美しい色を――飾らせて貰えないだろうか?」
「……まぁ! えぇ、えぇ――ラズ。どうか、わたしをあなたの銀と水の素敵な色で――飾ってちょうだい?」
月見守るその夜。
限りない愛を込めた言葉たちが、確かに眩く誓われた――。
「ふふっ。あの時のラズは、ほんとうに素敵だったのよ?」
「フィオナの美しさには負けるかな」
「まぁ! ラズったら!」
穏やかな笑いが部屋に広がる。
あの綺麗な月の夜から、今日この時……そして、未来でも。
月魔石伯爵夫妻は、愛しく甘い日々を、歩み続けて行く――。