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NINJA、迷宮に行く

 迷宮の入り口は意外なほど活気に溢れていた。各素材の買い取り所や食材の買い取り所。ある程度値の張るものは競りに掛けられるらしく、各種競り市場が併設されている。



 「シトリンの迷宮は三十階層までは転移門が設置されているんだ」



 ロベリアさんの話によると、転移門が設置されることイコール攻略されたことになるようで、人が踏み入ったことがあっても転移門設置に至らなければ攻略されたとは見なされないとのこと。現在は三十一階層に転移門を設置する計画が進んでいるのだとか。



 「便利だなぁ……ところで五階層には何を採りに行くんです?」



 俺は五階層に何を採りに行くのか聞きそびれていたことを思い出して二人に問い掛けた。



 「マヨネーズだ」


 「は?」



 マヨネーズと聞こえた気がしたが多分空耳だろう。



 「だからマヨネーズだ」



 そうか、マヨネーズか。きっと発音が同じなだけで俺の知らないお宝か何かに違いない。



 「サイゾーくんは食べたことなぁい?白くてちょっと酸味がきいてて美味しいのよ。このシトリンの迷宮でしかドロップしないから、階層が浅いドロップアイテムの割には良い値で買い取ってもらえるし」



 父さん、母さん、俺はマヨネーズがドロップする世界に迷い込んでしまったようです。けれど、よく考えたら“モノノケバスターNINJA”のゲーム内ではおにぎりやら寿司やらがドロップしていたっけ……いい勝負だな。そうか、俺は今からマヨネーズを求めて迷宮へ冒険に行くのか。なんだそれは、ちっとも心踊らない。



 「ああ、うん……食べたことある、かな」



 転移門は入り口で階層が指定出来るようになっており、指定してから門を潜ればその階層に辿り着くお手軽どこ○もドアだった。門を潜るとそこはやけに薄暗い場所で、微かに光る岩壁が何処までも続いている。マヨラー大歓喜の階層にしては少しばかり辛気くさい。



 「マヨネーズを落とすハンプティって魔物はこの階層によく出るのよ。まあ、階層で固定じゃないから他の魔物ももちろん出るけどね~」



 綺麗なお兄さんが色っぽい声で説明してくれた。



 「ハンプティってことはダンプティも居そうですね。なんちゃって」


 「なんだ、詳しいなサイゾー。と言っても、ダンプティはもっと下の階層だが」



 居るのかよ、ハンプティ・ダンプティ。もう鏡の国や不思議の国があっても驚かないぞ、俺は。



 「さて、ここからはもう魔物が出現する領域だ。油断するなよ」



 ロベリアさんの言葉に、俺は迷走中の思考を一旦中断して、忍者刀を抜く。薄暗い通路だが、NINJA補整なのかやたらと夜目が利いた。先頭に大盾と大剣をもった前衛(タンク)のロベリアさん、後に俺とモーガンさんが続く。



 「……よし、一発目から当たりだ」



 曲がり角からのっそりと丸くて巨大な卵二体が姿を現した。卵にはニョキっと取って付けたような手足が付いていて妙に現実感が無い姿をしている。



 「あれがハンプティ……」



 俺たちを発見したハンプティ二体が勢いよく転がって迫ってくるのを、ロベリアさんが盾で受けとめた。卵にしか見えないというのに盾に激突しても割れない。



 「くそ、二体同時だと通路を塞がれてやりにくいな」




 ロベリアさんが舌打ちを漏らす。確かに回り込もうにも通路が塞がれて……塞がれ……ん?俺、壁走れたじゃないか。そういえば。


 思い出すと共に俺は壁を蹴って、壁どころか天井を疾走した。そのまま、ハンプティの背後に着地。ロベリアさんが注意を引き付けているところへ、背中に一閃。どこが背中かわからないが多分背中を斬った。



 「まて!サイゾー!そいつはっ」



 ロベリアさんが何か言い掛けるが遅い。殻を斬られたハンプティ二体にヒビが入り、パリンと白身と黄身を飛び散らせながら砕け散った。



 「あーあ、ハンプティって物理攻撃で仕留めるとそうなっちゃうのよね~」



 ハンプティの死骸は煙のように消え、後にはきちんとチューブに入ったマヨネーズと全身卵の白身まみれになった俺の姿があった。



 「まあ、害は無いから大丈夫だ」



 そう言いつつロベリアさんはタオルを渡してくれる。こういう、白濁にまみれるハプニングは褐色美女の役目だと思いますよ、俺は。白濁まみれのNINJAとか誰が得をするというのか。責任者はどこだ。


 その後はロベリアさんが引き付けて、モーガンさんの“火の矢”の魔法か俺の火遁の術でスクランブルエッグにする作戦でトントン拍子に探索は進む。



 「しかし遠距離戦も近距離戦もいけるとは、さすがだな。サイゾー」



 すっかり感心した様子でロベリアさんが言った。



 「いえ、俺なんか回避特化って感じで……ロベリアさんのように敵の攻撃を一手に引き受けるなんて出来ませんから」


 「もう、謙遜しちゃって。これならもっと深く潜っても大丈夫そうねぇ……今日は準備してきてないから、また今度一緒に潜りましょうね」



 戦闘を続けるうちに随分打ち解けた俺たちは誰からともなく次の予定を話し合いつつ迷宮を探索していた。正直、このメンバーとの迷宮探索はなかなか楽しい。率直なロベリアさんとフレンドリーでありつつさりげない気遣いが出来るモーガンさん。これでモーガンさんがオカマじゃなければハーレムなのに世の中ままならないものだ。


 このまま軽くマヨネーズ狩りをして俺たちはさっさと引き上げるつもりであったのだが、俺の感覚に何かが引っ掛かる。



 「どうした、サイゾー?」



 急に沈黙した俺に二人が顔を向けるが、俺は何も答えられない。そう、また体の自由が効かないのだ。



 「伏せろ」



 言うとともに二人を押し倒すように飛び退く。刹那、紙一重で俺たちが居た場所に何かが飛び出してきた。



 「なっ!? メガクックがなんでこんな浅い階層に!? 」



 モーガンさんが驚愕の表情で見詰める先には有り体に言えば巨大な鶏。しかし鶏と言うには獰猛過ぎる顔をした魔物が一羽。俺がまたオートNINJAモードになっているということは、これがここに居るのはイレギュラーな事態なのだろう。



 「闇に呼ばれたか……影に呼ばれたか……」



 突如、どこからともなく舞う紙吹雪。いや、そういう演出はいらないから!それどころじゃないから!



 「何れより迷い出でたのかは知らぬが、我が朋友をその爪にかけんとしたことは許しがたい」



 いや、爪じゃなく嘴だけどね?俺の内心とは裏腹にその声音は静かで、それでいてふつりと怒気が立ち上るような音色をもって迷宮の壁に反響する。勿論、謎の紙吹雪付きだ。



 「朋の仇、討たせてもらうぞ!メガクックとやら、このNINJAサイゾーが成敗してくれる!」



 巨大鶏に忍者刀を向けて宣戦布告するオートモード俺。朋の仇って……みんな無傷だバカヤロウ。



 鋭い嘴が俺を貫かんと突進してくるのを宙返りで回避。同時に幾つものクナイを投擲して追撃を牽制する。クナイは羽毛に阻まれてあまり深くは刺さらなかったようだ。



 「地遁十法・草遁の術!」



 忍術で虚空から呼び出した蔦の群れがメガクックに襲いかかる。



 「縛!」



 太い蔦に幾重にも巻き付かれた巨体が音をたてて横倒しとなった。一瞬で間合いを詰めた俺はその首に刃を押し当て、こう言い放つ。



 「その穢れを払い落とし我が僕となるがいい」



 道具袋から巻物を取り出し、口で紐を引いてバラリと開く。



 「忍法・口寄せ封印!」



 それは本来、物の怪を封印して口寄せに使うための巻物だ。モンスターに有効なのかと内心疑問に感じていると、メガクックの体が青く光り巻物に吸収されていった。


 後には大きな金色の卵がドロップしている。封印しても討伐したことになるようだ。



 【口寄せの術・メガクックが使用可能になりました】



 俺は静かに目を閉じ、一筋の涙を零す。



 「朋友よ……仇は取ったぞ」



 いや、なんでロベリアさんたちが死んだみたいな雰囲気になってるんだよ?もうヤダ、このNINJA。



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