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オートNINJAモード

 木の根や岩をものともせずに森を疾走出来る。NINJA補正だろうか?瞬く間に音がした付近に到着した俺は、近くの繁みに身を潜めた。



「山賊とか盗賊ってやつか?」



 野卑た空気を纏った男たちが馬車を取り囲んでいるのが見える。爆発物でも使われたのか馬車の車軸は破壊されていた。馬車の持ち主だろうか?男と少女が抱き合って震えているようだ。盗賊の男が醜悪な笑みを浮かべて少女の腕を掴む……と、ここで俺の意志とは関係無く体が動き盗賊の腕に手裏剣を投げる。



 (え!? 体が勝手に!)



 動揺する俺の心は一切影響しないとばかりに正確に手裏剣が盗賊の腕に刺さった。



 「痛ぇ!だ、誰だ!」


 「闇から闇に消える者。影から影に渡る者。モノノケバスターNINJAサイゾー只今推参!」



 気づけば俺は壊れた馬車の上に佇んでNINJAサイゾーの口上を述べていた。口が勝手に動く。



 「なんだこいつ!? 」


 「護衛か?」


 「構うな、やっちまえ!」



 殺気立つ集団に、話し合いましょうと提案したくても俺の口と体はオートNINJAモード状態で動くに任せるしかない。



 「貴様らの闇、この俺が斬る。刮目せよ、俺がNINJAだ!」



 クサイ台詞はゲームだから許されるのであって現実で言うのは痛々しいことこの上なく、羞恥のあまり心中でエア自殺を繰り返すも俺の口と体は止まってはくれなかった。



 「天遁十法・雷遁の術!」



 忍術が発動して周囲を轟音と光が満たす。雷土(いかづち)が盗賊たちに落ち、黒煙を上げて倒れた。


 突然の殺人に俺の心は悲鳴を上げるも、未だに体は自由にならず叫ぶことすら出来ない。



 「闇に還るがいい……」



 【盗賊を成敗しました】



 テロップが流れて俺はようやく体の自由を取り戻す。それと同時に口元の布を下げて、胃の中のものをぶちまけた。目の前に黒焦げの死体、やったのは俺……これで吐かずにいられるわけがない。



 「あの……助けて頂いてありがとうございます。大丈夫ですか?」



 少女が気遣わしげに問い掛けてくるが、吐き続けている俺は答えることが出来ない。胃の中のものを出し切ったところでやっと顔を上げることが出来た。



 「あれ?死体が無い?」



 無惨に焼け爛れた死体が消えている。代わりに小さな色つきの石が転がっているだけ。



 「死体ならもう魔素(マナ)に還りましたよ。ねぇ、パパ?」



 少女の父親らしき男が歩み寄ってきて深々と頭を下げた。



 「この度は危ないところを助けて頂きありがとうございます。私はしがない行商人のタタルと申します。こちらは娘のシェーラ。ところでお加減が悪いようですが?」



 タタルと名乗った男が差し出してきた水筒の水を一気に煽り、俺はゆっくり息を吐く。



 「すみません、もう大丈夫です」



 立ち上がって辺りを見回してタタルに問う。



 「あの……死体が消えたのは一体……」


 「生き物は死ねば魔石を残して魔素に還るものでございましょう?貴方のお国では違うのですか?何やら変わった格好をされていますが……」



 この言葉でやはり地球ではないどこかなのだと再確認した。出来れば夢オチであって欲しい。



 「あー……かなり遠くから来たもので。この森で迷ってしまって……」


 「そうでしたか。お礼に街まで送って差し上げたいのですが馬車がこの有り様ですからなぁ。面目ない」








 結局俺たちは歩いて街へ向かうことにした。タタルが馬車に積んでいた商品は俺の道具袋(アイテムボックス)に入っている。



 「いやぁ、まさか異国の魔法使い様に助けて頂けるとは不幸中の幸いでした」


 「いえ、魔法ではなく俺の故郷特有の術でして……」



 どうやら魔法があるらしく、盗賊を倒すのに忍術を使い、馬車の荷を道具袋にしまってあげたら完全に魔法使いだと思われてしまった。



 「ところで、街に入ろうにも俺はこちらの通貨を持っていないのです。手持ちの物から何か換金して頂けないでしょうか?」



 ゲームアイテムの大判小判なら持っているがここで使えるとは思えない。試しに小判を一枚取り出して見せてみた。



 「それがサイゾー様のお国の通貨ですか?金のようですね」



 シェーラが興味深そうに小判を覗き込む。



 「金ですな。どれどれ……」



 タタルが「鑑定」と言うと小判が薄く光った。



 「今のは?」


 「ご存知ありませんかな?鑑定の魔法です。商人の必須魔法ですよ。……ふむ、この含有量ですとナナリア王国金貨二枚と交換致しますがいかがでしょう?」


 「ではそれでお願いします」



 貨幣価値はイマイチわからないが小判の価値から考えて安くはないだろう。こちらの世界でも黄金に価値があればの話だが、貨幣に使われているのを見るに、本位制の貨幣に成りうる程度には価値があると予想出来る。もし小判がダメなら道具袋のお宝でも売り払えばいい。換金して貰った金貨は道具袋にしまっておく。



 「換金の他に助けて頂いたお礼がしたいのですが、何か御入り用はございませんかな?」



 そう聞かれて俺は顎に手をやって考え込んだ。この世界のことがわからない俺が欲しい品物は思い付かない。敢えていうなら情報が欲しいが、ただ情報が欲しいだけでは漠然とし過ぎていて相手も困るだろう。



 「身分証を……街で身分証になるものを発行してくれるところを教えてくれませんか?」



 この先どうするか決めていないけれど、身分証は無いよりあったほうがいい。



 「それでしたらギルドに登録するのが宜しいかと」



 タタルの話では商人ギルドや魔法使いギルドなど色々な同業者組合があるそうだ。そのなかで一番手軽に身分証を発行してくれるのは冒険者ギルドらしい。詳しく聞くと、こう、現代の日雇い派遣に似ていて少し悲しくなった。ギルドランクとやらが高くなればまた違ってくるようだが、大半は日雇い肉体労働者……なるほど、そりゃ手軽に身分証を発行してくれるだろうさ。




 日雇いNINJAなんてシュール過ぎて笑えない。



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