NINJA、武闘会に出る(挿絵あり)
「僕と結婚して下さい!」
「なんじゃと?ワシのスリーサイズじゃと?」
赤いマントに白の上着、肩章にかぼちゃパンツ……と、王子のテンプレのような格好をした男が撫子さんに迫っている。いや、これ本当に王子様ってやつなんだが。ナナリア王国第三王子、エイドリアン殿下だ。
事の起こりは俺が千年竜をテイムしてしまったところまで遡る。救国のNINJAとなってしまった俺は案の定、王都に招聘された。王様との謁見やら、千年竜を従えた俺を取り込もうとする貴族の暗躍やらの詳細はこの際省くが、そんなこんなで俺たちはしばらく王都の城に滞在する運びとなったのだ。そこで撫子さんを見たエイドリアン殿下が一目惚れしてしまい今に至る。
「ああ、その黒真珠のような瞳……練り絹のような肌……ビロードを敷き詰めた宝石箱に飾ってしまいたい」
「サイゾーさんや、飯はまだかのう?」
ほら、殿下を無視して俺に話し掛けないでくれよ、撫子おじいちゃん……殿下がめっちゃ俺を睨んでる。
「もう、撫子おじいちゃん!ご飯はさっき食べたでしょ!」
ため息をつきながら俺は粒餡たっぷりの饅頭を差し出す。撫子さんがお米と和菓子にしか反応しないのも俺が殿下から睨まれている要因だ。宮廷料理ではいくら食事に誘っても撫子さんが靡かないからな……。
「おお!餡子じゃ、餡子じゃ。ありがたや、ありがたや……」
南無南無と饅頭を拝んでから頬張る撫子さん。
「……貴様。千年竜を倒した英雄だか何だか知らんが、ちょっと撫子さんと親しいからっていい気になるなよ?」
殺意の籠った目を向けられて俺は再びため息をつきそうになるのを堪える。中身が爺さんだと教えてやれたらどんなに楽か……。ちなみに逆恨みが怖いので俺は今毒無効の装備を着ている。いつもの装備は千年竜戦で破損してしまい修理中だ。
「いえ、ただのパーティーメンバーですから」
着ぐるみ装備“DAIKON”の姿で、俺は角を立てないように曖昧な笑みを浮かべて答える。困ったらとりあえず笑っておけという日本人の秘技だ。これは二股の大根を象ったネタ装備だが毒無効の追加効果がある優れもの。城に滞在している間は、この殿下やら貴族やらの暗躍を用心して防御と毒無効を念頭に置いた結果の大根NINJAである。俺の言葉がお気に召さないのかエイドリアン殿下は顔を歪めて吐き捨てた。
「こんなふざけた格好の男のどこがいいというのか。撫子さん、こんな男のパーティーは抜けて僕と結婚しましょう」
「それは出来んのう……サイゾーさんが居ないとワシは(米が食えず)生きていけん」
言葉を端折ったせいで大いに誤解を招きそうな撫子さんの台詞に、殿下の眦がますます吊り上がる。嫌な予感がひしひしとするのでこの場から退散したいのだが、逃げ出すタイミングが掴めない。
「く……決闘だ!撫子さんを賭けて僕と戦え!」
そう叫んで殿下が手袋を投げつけてくるのをサッと回避。賭けるもクソも俺のじゃないし。
「いやいやいやいや、落ち着きましょう!? 異国で仕官している (仕官の勧誘を断るために捏造した)俺とこの国の王子であるエイドリアン殿下が決闘してはマズイじゃありませんか」
ただでさえ忍べていないのにこれ以上目立ってどうする。決闘、ダメ絶対。
「フン、決闘じゃなければいいのだな」
殿下がにやりと笑って俺に指を突き付けた。今度は何を言い出すつもりか、もう帰りたい。
「ならば武闘会だ!今度、王都で開催される武闘会で決着をつけるぞ!あれならば他国の者も参加出来るからなぁっ」
「なに?葡萄狩りじゃと?サイゾーさんや、ワシも参加したいのう……」
聞き間違えたとはいえ、撫子さんが参加したいと言ってしまったせいでエイドリアン殿下が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「あー……すみませんが予定が詰まっているので辞退させて頂きます!では、俺はこれでっ」
「なんだと、貴様……あ、待てっ!」
俺はそれだけ言い置くと空気を読むのを放棄して逃走した。うら若き乙女だらけの葡萄狩りなら参加してもいいが、武闘会なんてどうせムキムキのおじさん達しかいないのだろうし欠席したいんだよ。
こうして俺は武闘会参加を華麗に回避した……はずだった。
「あ、サイゾーくん。武闘会に出るんだって?もちろんサイゾーくんに全賭けしといたわよ~」
数日後、城の客室にてモーガンさんが笑顔で言った台詞に俺は固まる。え?断ったのに勝手に登録?何してくれてんだ、あの馬鹿王子は。
「……いえ、俺は棄権しようかと」
ムキムキのおじさん達と戯れる趣味は無いので棄権一択だ。瞬間、部屋の温度が低下した気がしてハッと顔を上げれば、そこには聖母の笑みをたたえたモーガンさん。
「サイゾーくんに全賭けしたから。……頑張ってね?」
「……優勝します。もちろん優勝しますとも。HAHAHA」
渇いた笑いのお手本のような表情を貼り付けて即座に意志を曲げる。決してヘタレたわけではない、戦略的撤退だ。
円形のスタジアムには観客が詰め寄せなかなかの賑わいとなっている。国主催の武闘会で公営トトカルチョなんかをやっている故の集客力か。そう思うと途端に恨めしくなるな。
「サイゾーさんや、飯はまだかのう?」
「撫子おじいちゃん、これから試合でしょ!」
未だに武闘会を葡萄狩りと勘違いしたまま参戦している撫子さんの口におにぎりを詰め込む。放っておくとあちこちで破廉恥なトラブルを巻き起こして控え室の選手たちの股間によろしくないから仕方がない。ちなみにロベリアさんたちは客席で観戦だ……羨ましいな。
「フフン、どうやら逃げなかったようだな!」
わざわざ控え室に現れた馬鹿王子……じゃなかった、エイドリアン殿下が俺に御言葉を掛けてくださる。その嫌みな笑顔を殴りたい。
「はい、参加したからには精一杯頑張りますよ」
俺はグッとこらえて、笑顔で対応。NINJAスマイルはプライスレスだ……そしてプライスレスほど高いものは無いってことを思い知らせてやろう。どうせ優勝しなきゃオカマさんにしばかれそうだし。
「はん、威勢だけはいいようだな。決勝戦で待っているぞ!なんたって王子のぼくはシード選手だからなぁっ!ハッハッハ!」
シードとか汚ない。マントを翻して颯爽と控え室を後にする殿下を見送りながら世の無常を噛み締める。こうして、武闘会はついに開催を迎えた。
第一回戦。今日の俺は相変わらず大根NINJAである。また、使用武器はうっかり相手を殺してしまわないようにどんなに攻撃力が高くてもダメージが常に五となるネタ武器“ソード・オブ・ゴボウ”という紳士的な心配り。
「ふざけた格好しやがって!叩き斬ってやる!」
ザンッ!
俺は勝利した。
第二回戦。
「いざ尋常に勝負!」
ゴッ!
ゴボウ剣の効果により軽傷者を出すだけで俺は勝利した。
第三回戦。
「我こそは天下無双の……ゴボッ」
ドシュッ!
ゴボウ剣の一閃で勝った。
準決勝戦。
「おれ……優勝したら、結婚するん……ウッ」
勝った。
決勝戦。
「ふはは!貴様を倒して撫子さんを貰い受け……アーッ」
ゴボウ剣があらぬところに突き刺さって勝った。
ん?戦闘を端折った中に殿下も居た気がするが、まあ優勝したから構わないよな?よし、今夜は賭け金でご馳走だ!モーガンさんの奢りで!
ああ、撫子さんなら初戦で服が弾けて失格になりました。めでたし、めでたし。
【最強の大根NINJA の称号を手に入れた!】
ぼくのかんがえた さいていのばとるしーん。
これ以上に酷いバトルシーンは無いだろ!このネタを最終回にやると石を投げられそうだったのでここで使いました。反省はしていない。




