NINJAは、君のためにこそ死ににいく(挿絵あり)
「飛べ!トリ丸!」
「コケーーーーーーッ!」
俺の掛け声と共にメガクックのトリ丸が空を飛ぶ。「鶏って飛べたっけ?」という疑問は湧くが、羽を忙しなくバタつかせながらも飛んでいるのだから気にしないことにしよう。
「やっぱり、そう簡単には見つからないか……」
本の神から教えられた天空の迷宮を探すべく、早速上空を探索してみたがそう都合良く見付かるわけもなかった。ただ青い空と白い雲が広がるばかりだ。天空の迷宮ってくらいだから巨大積乱雲の中にでもあるのかもしれない。
成果の出ない捜索を止めて、ブッカーズの都から少し離れた街道脇にトリ丸を着地させる。あまり都に近いと衛兵さんから職務質問されるからな……もう、こりごりだ。覆面で鶏に乗ってるからって怪しい人物認定は酷いと思わないか?俺はただの一般NINJAだというのに……。
「どうだった?」
着地すると、下で待機していたロベリアさんが歩み寄る。今日はモーガンさん達はブッカーズの商人ギルドに食料アイテムを売却しに行っているので珍しく二人きりだ。覆面男は商売の交渉にはお呼びじゃないらしい。うん、俺も顔を見せない相手と商談なんかしたくないからわかるけどね!覆面してないと弱体化するんだから仕方ないだろうッ!というわけで、覆面の俺と人間受けはよろしくないらしい魔族のロベリアさんは天空の迷宮探しに振り分けられた。
「やっぱりそう簡単には見つからないですね」
「まあ、そうだろうな。この先、飛行型のモンスターも必要になりそうだ……」
ロベリアさんの言葉に俺は道具袋を漁りながら答える。
「飛ぶだけなら人数分揃えられますよ。攻撃力は無いので使い勝手はイマイチなんですが……」
道具袋から飛行アイテム“風呂敷”を一枚取り出して見せると、ロベリアさんが首を傾げた。
「ただの布に見えるが……そんなもので飛べるのか?」
由緒正しき唐草模様の風呂敷。確かにただの布切れに見えるよな……。
「飛べますよ。ここをこう持って……」
両手で風呂敷の端を握り締め、さらに両足の指で風呂敷の両端を挟み込む。
「ムササビの術!」
叫んだ瞬間に風呂敷は風をはらんで膨らみ、大空へと舞い上がった。ムササビのように体を広げて飛ぶ俺。あれ?見上げるロベリアさんが物凄く微妙そうな顔をしている。まあ、飛んでる間は両手が使えないので本当に飛ぶだけになってしまうからなぁ。
「ね?簡単でしょ?……ひでぶっ!」
「サイゾーっ!? 」
ムササビの体勢で大空を飛び回っていた俺は突然何か巨大なものに弾き飛ばされ墜落した。それは、地表に黒い影を落として飛ぶ大きな翼竜の集団。
「なっ!? あれは王都の空軍、ワイバーン飛行部隊!? 」
墜落した俺を華麗にキャッチしながら、ロベリアさんが驚愕の声を上げた。結構な高さから墜落した人間を余裕でキャッチするとかどんな体のつくりをしているんだ、このおっぱいさんは……おっぱいがクッションにでもなっているんだろう、きっと。三角編隊で飛行するワイバーンの一匹が慌てたように高度を下げてこちらに滑空してくる。
「すまない!大丈夫か!? 」
ワイバーンの背からフライトジャケットのようなものとゴーグルを身につけた男が飛び降り、俺たちに駆け寄って回復薬を渡そうとしてきたので俺はそれを断った。
「いえ、怪我はしていませんからお気になさらず」
「ワイバーンと衝突して無傷なわけがないだろう!……あれ?本当に無傷?え?」
赤茶けた髪と日に焼けた肌をした男が無傷の俺を見て目を白黒させる。真っ黒で決して派手とは言い難い忍装束だが、これ一応クリア後のやりこみで入手した最強装備だからな……そう簡単に破壊されたら泣く。
「ワイバーン飛行部隊とお見受けするが、何故こんな所に?」
ロベリアさんが動揺する男に問うと、男は急に沈痛な面持ちで俯いた。
「……ドラゴンの討伐任務であります」
ああ、やっぱり居るのかドラゴン。ロベリアさんは男の言葉に息を飲む。ドラゴンというだけあって強敵なのかもしれない。
「なんだと?この辺りにドラゴンが出たのなら何故ブッカーズの都で警報が鳴らない?」
険しい顔のロベリアさんを見て俺はどうやらドラゴンが相当危険なものだと悟る。この世界の常識を知らないのはこういう時に不便だ。
「千年竜」
男は重々しくそう呟くと一度言葉を切る。
「相手は千年生きたドラゴン……どこに逃げても無駄だからです」
「千年竜だと!? 」
青ざめて叫ぶロベリアさんに俺は「そんなにヤバいモンスターなんですか?」と説明を求めた。すると、ロベリアさんが口を開く前に男が怪訝な顔をして問う。
「千年竜を知らないとは……君はこの大陸の者ではないのかい?街どころか下手をすると国が滅ぶこともある大厄災だぞ?」
「はい、遠い異国から来たもので……。そんな恐ろしいものがこの辺りに?」
とりあえず皆を連れてさっさとブッカーズから離れた方がいいかもしれない。俺たちにはデコトラがあるから逃げるだけならなんとかなるだろう。都の人を見捨てるようで気が引けるが、見ず知らずの人より仲間の安全が最優先だ。
「ええ、しかし我等ワイバーン飛行部隊が命と引き換えにしてでも討伐してみせます。安心してください」
すでに死を覚悟している顔で男は言い切る。そんな顔をされるとただこのまま見送るのは心が痛む。仲間の安全が優先なのは変えられないが、せめて効果の高い回復アイテムでも渡そうかと道具袋に手を……やれなかった。体が動かない。
「ほう……命を賭して戦うか。勝利出来るかもわからぬ相手だろう?」
止まれオート俺。いくらレベルが高いからって相手は国が滅ぶレベルの厄災だぞ?確実に倒せる保証も無いのに首を突っ込むなよ!
「国を守るのは我等の務めであります。それに……妻や娘をドラゴンに食わせるわけにはいきませんから」
迷いを捨てた目でそうはにかむ男に俺は静かに頷いた。
「国のために戦うその決意……我等NINJAに通じるものがある。このNINJAサイゾー、助太刀させてもらうぞ!」
ブッカーズの都上空。禍々しい影を落として飛来するものがあった。まだ離れているのに圧迫感を覚える巨体。陽光を跳ね返してぬらりと輝く黒い鱗。千年竜の姿を前にしてワイバーン達が僅かに怯えを見せる。それでも逃げ出さないのは訓練と調教の賜物か。俺はもちろん一人だけ鶏に乗ってワイバーンに続く。
「もはや退却は許されん!勝つか死ぬかだ。お前たちの命、預けてもらうぞ」
ワイバーン部隊の隊長がそう叫ぶ。反論は起こらず、皆一様の覚悟を顔に浮かべて敵影を見据えていた。千年竜はワイバーン部隊に気付き、大気を揺るがす咆哮をあげる。空飛ぶ要塞のような大きさと砲撃のような雄叫びに息を飲む面々。今まさに命懸けの戦いが始まろうとしていた。
「大槍を構えろ!」
ワイバーンに騎乗した隊員達が一斉に槍を構える。日の光を反射する穂先がずらりと並ぶ様は実に壮観だ。
「突撃!! 」
号令と共にワイバーンが一斉に千年竜に向かって急降下。その穂先が黒い鱗に突き立つかに見えたその時、竜の口がぽかりと大きく開き光を放つ。
「しまった!ドラゴンブレスか!? 」
灼熱の炎と恐ろしく濃い魔素を含んだブレスが竜の口から放たれる。咄嗟にワイバーン飛行部隊を追い抜きブレスから庇うように俺は飛び出した。凄まじい衝撃が俺を襲う。
「ぐっ……!」
忍装束がブレスの威力に負けて弾けとんだ。いや、覆面と見えてはいけない下半身の布地は死守されていたが。一緒に攻撃を受け止めたトリ丸も無惨な姿になっている。
「……トリ丸……すまない……なんという無惨な姿に……」
ドラゴンブレスを浴びたトリ丸の真っ赤なとさかは、惨いことに真っ赤なアフロヘアーへと変貌を遂げていた。ギャグか、ギャグ効果なのか。
「サイゾーさん!……嗚呼、俺たちを庇ったばかりになんて姿に!」
え?俺、半裸になっただけじゃないのか?恐る恐る髪に触れると妙にモフモフとしている。
「く……このNINJAサイゾーがアフロヘアー……だと?」
頭髪の負傷に動揺する俺に牙を剥いて迫る千年竜。
「戦友の犠牲を無駄にするな!」
今度は逆にワイバーン飛行部隊が俺を庇うように前に出ようとするが、俺はそれを手で制してトリ丸の首を軽く叩いて言った。
「トリ丸よ……最後まで付き合ってくれるか?」
「コケッ!」
真っ直ぐな瞳で一声鳴くトリ丸。頷き合うと俺たちは竜に向かって一直線に飛ぶ。
「NINJAーーッ!」
隊員達の声が聞こえるが振り返らない。
「忍法の深淵、とくと味わうがいい!」
竜と俺の視線がはっきりと交錯。視線を逸らさないまま俺は叫ぶ。
「忍法!瞳術・蠱惑眼!」
【蠱惑眼・レベル下の敵を異性に限り魅了する技。これで敵は愛の奴隷!※遠距離使用不可】
テロップさん、説明ありがとうございます。瞳術の桃色のエフェクト光を浴びた瞬間、千年竜から殺意が霧散した。……ってこれメスなのかよッ!嗚呼、殺意が消えた竜の瞳の中にハートマークが見える……。
『主殿……子作りしましょ♡』
重低音の猫なで声で俺に媚びる千年竜……怖い。かなり怖い。ばっちり魅了状態になっているな、これ。無理だから、この体格差でどうヤれというのか。無理だから。
「な!? 千年竜をテイミングしたというのか!? 」
信じられない光景に隊員達が目を丸くして驚愕の声を上げた。
「フッ……NINJA界の助六とは俺のことよ」
自分で言っちゃったよ、こいつ!助六さんに謝れ!
【千年竜 (メス)の口寄せが可能になりました。子作りしましょ♡】
斯くして、大厄災千年竜を (精神的に)倒しナナリア王国は救われ、救国のNINJAが誕生した。……忍べよ。頼むから少しは忍べよ。
「ありがとう、アフロNINJAよ……。君のおかげで我が国は救われた」
comicoにて漫画版NINJA開始。詳しくは活動報告にて。とりあえず来月まで下にリンク繋げておきます。




