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NINJAと呪いの本(挿絵あり)

 本、本、本、本……。見渡す限りの本の山……そんなものがあると思っていた時期が俺にもありました。ブッカーズの都に到着した俺たちはさっそく都の大図書館へ向かったのだが、なんとこの都の図書館の大半は閉架式図書館だったのだ。閉架式図書館というのはつまり書架が一般開放されていない図書館のことだ。現代の日本だと閉架式は国立国会図書館が有名か。ブッカーズの方式だとまず利用者登録をして、それから読みたい本を申請 (一度に一人三冊まで)し、翌日にようやく受け取れるシステム。しかも持ち出し禁止のおまけ付き。面倒くさい、非常に面倒くさい。



 「迷宮ドロップの書物だと複写しない限り一点モノっていうのも珍しくないからねぇ……」



 モーガンさんが苦笑しながらそう付け加える。



 「こう、申請してから掛かる時間とかいかにもお役所仕事で面倒くさいですね」


 「まあまあ、本屋も沢山あるようですから掘り出し物もあるかもしれませんよ?」



 利用者登録自体は冒険者ギルドのギルドカードで登録可能だったのでとりあえず本の申請を済ませ、空いてしまった時間はユーニスちゃんの提案に従い掘り出し物を求めて都の本屋を巡ることにした。ちなみに、撫子さんは宿屋だ。老眼で細かい文字を追うのは辛いとのこと……若返ってるのに老眼はそのままなのか?


 都の本屋街は迷宮のドロップ書物だけではなく勿論人の手で書かれた本も売られている。複写の魔法があるらしく、元の世界の出版事情には及ばないが庶民でも手が届く値段の本も多い。まあ、流通コストの事情でこの都以外じゃ本はまだまだ高級品だが。




 「“スライム三分クッキング”……いやに既視感のあるタイトルだな」



 本屋街の外れ、雑多に本を積んでいる古びた本屋で俺は興味を引かれた本を捲る。モンスタードロップの簡単メニューか……とりあえず買っておこうかとカゴへ投入。本の内容は三分と言いつつ案の定三分では作れそうにないレシピが並んでいた。



 「“世界の盾百選・ドラゴンの攻撃を受け止める方法”……む、これは買わねば」



 ロベリアさんが真剣な顔で本を選ぶ。この人ドラゴンの攻撃を受け止める気でいるよ、おい。



 「“乙女のゴージャスボディの作り方・付録マッサージローラー”……きゃー、これはお買い得ね!」



 モーガンさん、それは乙女用であってオカマ用じゃない。



 「“男の♂をわし掴み!マル秘テク集”……むふふ、これがあれば」



 音速でユーニスちゃんの手にした本を没収。肉食エロフにさらに牙を与えてどうする。元の世界に帰るヒントを探すはずが、各々自分の気になる本を漁るのに夢中になってしまっていた。ほら、本屋に行くと目的の本を買わずになぜか違う本を買ってしまうことってあるだろ?あるよな?



 「ん?なんだこれ?」



 ワゴンに積まれていた訳あり激安コーナーの本を手に取る。破損していたり、巻が半端だったりするのが置かれているようだ。その中に表紙が真っ黒で何も書かれていない本があった。



 「なんだこの本?」



 パラパラと捲ってみるが表紙同様に中も真っ黒で何も書かれていない。



 「なんだ?いい本でも見付かったか?」


 「いえ、なんか変な本が……これって」



 「不良品?」そう続けようとした俺の言葉をカウンターから響いた音が遮る。この店の主とおぼしき眼鏡を掛けた中年の男が本の山を崩した音だった。



 「あ……あんた、その本をどこで……」



 震えた声で俺に問う店主。もしかして大事な本が紛れていたのかもしれない。



 「すみません、ワゴンに積まれていたので。もしかして間違えて積まれていたモノでしたか?」



 店主は恐怖に引きつった顔で一歩後ずさる。恐ろしい化け物を見るような目を俺の手元に注ぐ店主の異常な怯えぶりに、俺は急に手元の本が怖くなった。



 「あ、あんたその本の中を見たのかい?」


 「はい、えーと……中身も真っ黒で読めませんでしたよ?」



 俺の返事に店主は「なんということだ」と両手で顔を覆ってしまう。



 「あの……この本は一体……」


 「その本はうちの商品じゃない。……まさか本当に“呪いの本”が実在していたなんて……」




 店主の言葉に俺は固まる。呪いの本?呪いのアイテムみたいなものか?



 「……ブッカーズの街に伝わる都市伝説だよ」



 店主の話によると、中も外も真っ黒な本はなぜか本屋や図書館に突然紛れ込むらしい。そしてそれを見たものは七日以内に死ぬと言われているとのことだ。



 「つまりこれは呪いのアイテムなんですね?」


 「ああ、捨てても燃やしても呪われた本人が死ぬまでは手元に戻ってくるって話だ。あんたも運がない……」



 戸惑う俺の代わりにロベリアさんが店主に詰め寄った。迫力美人なだけに、詰め寄られた店主が再び後ずさる。



 「呪いの解呪は可能なのかっ!? 」



 ロベリアさんの詰問に店主は哀れむような顔で首を振った。



 「教会の司祭が解呪を唱えてもダメだったと聞いたよ」


 「そんな……」



 こうして俺と呪いの本の七日間の死闘が始まる。








《一日目》


 その日の夜、俺は視線を感じて目を覚ます。冷気耐性は高いはずなのに妙に肌寒く感じた。敵感知は無反応……思い違いかと思いつつ部屋の隅に何気なく視線をやる。部屋の隅にはじっと俺を見詰める髪の長い女の姿。



 『…………』


 「ギャァァァァッ!」



挿絵(By みてみん)



 俺の悲鳴と共にフッと消えてしまう。気配を探るも何も感じない。



《二日目》


 ものは試しと教会で解呪を掛けてもらってからベッドに潜り込み息を潜める。そもそもバッドステータスに呪いの文字すら無いのだが。



 『……し……』


 「ウワァァァァッ!」



 昨夜より近い位置に現れた女はやはり唐突に姿を消した。



《三日目》


 俺は睡眠不足に悩まされながら、教会で買った魔除けを握りしめてベッドで震えている。



 『……し……く』


 「ヒィィィィッ!」



 やはり昨夜より近づいてくる女に魔除けを投げ付けるもコトリと虚しい音を立てて床に転がる。女の姿は消えたがダメージを負ったようには見えなかった。



《四日目》


 俺はモノノケバスターに破魔札があったのを思い出した。今日は自信満々に待ち構える。何たってモノノケバスターのアイテムはこちらの世界のものより強力だ。今日こそ、呪いの本を打ち破ることが出来るだろう。



 『し……く……を』


 「出たな、悪霊め!食らえ!」



 俺は現れた女に即座に破魔札を投げ付ける。しかし、破魔札は女をすり抜けてペタリと床に落ちた。



 「なん……だと……」



 女はじっと俺を見詰めてから消える。後には破魔札だけが取り残されていた。



《五日目》


 盛り塩をしたが平然と踏み越えてきた。



《六日目》


 おんな ちかい。



《七日目》


 【かゆ うま 】


 いやいやいやいや!何してるんだよ、テロップ!途中から違うものに変わってるぞ!? 



 「って、それどころじゃねーーッ!」



 ついにベッドまで辿り着いた女が手を伸ばしてくる。逃げようにも体が動かない。これが金縛りか……金縛り……?いや、これはもしや……



 「くせ者!」



 そう叫び手裏剣を投げる俺。オートNINJAモードということはこれはイベントなのか?やった!これで勝てる!



 『……?』



 勝利を確信した瞬間、無情にも手裏剣は女をすり抜けて壁に突き刺さった。そんな……オートモードすら役に立たないなんて。



 「ほう……貴様、尋常の者ではないな」



 そう言って俺は道具袋から剣を呼び出す。それはいつもの忍者刀ではなく、日本の古代史にでも出てきそうな妙に古めかしい造りの(つるぎ)だった。



 『し……く……を……け』



 何かブツブツと呟く女目掛けて剣を振り下ろす。引き摺るほど長い女の髪がブッツリと断ち切れた。その光景に今まで反応を見せなかった女がピタリと固まる。そして大きく口を開け……



 『キャァァァァ!妾の髪が!髪が!何をする!この無礼者!』



 おかっぱにされた頭を振り乱して叫ぶ女。悪霊にしては元気だな、おい。



 「十握剣(トツカノツルギ)……神殺しの剣だ。この剣ならば貴様も斬れるぞ、邪神よ!」



 俺の言葉に女は眦を吊り上げた。



 『誰が邪神だ!妾は紙と本の神だ、愚か者ッ!』


 「呪いを振り撒いておいて何をほざく!成敗!」



 十握剣の一閃により女の服と帯がスッパリと斬られ紙のように白い裸身が覗く。驚愕を顔に貼り付けたまま女は震える声で言う。



 『そんな……人間ごときに……この妾が開帳させられるなど……』



 裸身を隠す余裕もなく女は床にへたり込んだ。見えてはいけないところが色々と見えてしまっている。



 【本の神を開帳した】



 え?これ本当に神様?



 『く……妾を余すところなく開帳するつもりだろう!あんなところもこんなところも開くつもりじゃな!? 何もかも調べ尽くすんでしょ!百科辞典みたいに!百科辞典みたいに!』



 『ああ……妾の純潔もここまでか』と嘆く女に俺は恐る恐る声をかけた。



 「あの……」


 『ひっ!これでも足りぬか!さらなる知識を求めて鍵を開けるつもりか!まだ妾の鍵穴は誰にも汚されたことが無いのだぞ!』



 何やら物凄い誤解を受けた気がする。



 「悪霊じゃないんですか?」



 俺の問いに女はちょこんと首を傾げた。



 『妾は本の祝福を与える神だ。まあ、人間には些か神の本の知識は大きすぎるのか狂死してしまうのが難点だが……』



 呪いの正体は神様の重すぎる祝福だったとは。そりゃ、解呪も魔除けも破魔札も効かないはずだ。



 「祝福はいらないのでお帰りください」



 よし、祝福を辞退すれば死なないはずだ。お帰り頂こう。ダメなら十握剣で追い払おう。



 『妾を開いておいて祝福がいらぬだと?……こんなに開かれたのは初めてなのに……グスッ』



 よよと泣き出す本の神。いや、祝福されると狂死するんだろ?嫌だよ。



 『妾の知識はいらぬのだな……開くだけ開いてポイするのだな……なんという酷い男だ』


 「誤解を招くような言い回しをするなぁぁぁッ!」


 『こんなあられもなく開かれて放置など許せるわけなかろう!』



 尚も食い下がる本の神に根負けして、俺はダメ元で妥協案を出す。



 「あーなら、異界に渡る方法か何かを知っていたらその知識だけください」



 全部詰め込もうとして狂死するならひとつだけ貰えばいいじゃないか。これで帰る方法が解れば一石二鳥だ。



 『ふむ、それなら天空の迷宮を探すが良い。どれ、それに関する知識を与えてやろう』



 本の神が手を翳すと頭の中に情報が流れ込んできた。知識の濁流に軽く目眩がする。たったひとつの事柄でこれなのだから、全部詰め込まれた人間は狂死するに決まっているだろう。この神様はアホなんじゃないか?祝福で殺してどうするんだよ。



 「ありがとうございます。俺には十分すぎる情報です。助かりました」



 これでお引き取り願える、そう思ったのだがまだ本の神はチラチラと俺を見てくる。そして、妙に潤んだ目でこう言った。



 『やっと知識を受け取ってくれる人間が現れたか……のう……この際、鍵を開けて全ての知識を受け取ってみないか?』



 もじもじと下腹部の見えてはいけないところを開こうとする神様。そこ鍵穴かよぉぉぉぉッ!



 「いやいやいやいや、死にます。これ以上詰め込まれたら頭が破裂します。無理です。お断りします」



 必死に首を横に振る俺。さらに詰め寄ってくる神様。



 『ちょっとだけ。先っぽだけでいいから?のう?』


 「帰れ!!」


 『ここまで開かれたらもう嫁に行けぬ。全て受け取ってくれるまで憑いていくぞ!』



 【神の本 (開帳済)を入手しました】



 やめろ、うっかりすると死ぬようなもの道具袋にいれたくないぞ!破棄だ、破棄しろ。



 【イベントアイテムは破棄出来ません】



 なぜか俺は帰り道へのヒントと神様を手に入れた。……捨てたい。古本屋で買い取って貰えないだろうか。



帰り道のヒントゲットでようやく折り返し地点。寄り道しなければあと半分くらいの予定です。寄り道するともう少しかかるかも。

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